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第35話:俺と、対黒竜作戦会議

 アレクシアさんが掲げてきた細長い刃物。


 それは両刃の槍の穂先でありまして、その腹には幾何学的な模様が描かれています。


 真円を基調とした模様でしたが、んー? これは……見覚えがあるなぁ。焼かれた廃村にて、アレクシアさんから教えて頂いたような。


「貴方は見覚えがあるはずです。式です。それがこの穂先には刻まれています」


 あー、そうでした、そうでした。式です。そう聞いた覚えはありました。刻まれているとのことですが、その通りのようで。描かれているように見えたのは、彫り込んだ上で何かしらの絵の具? 顔料? そんなものを流し込んであるからのようでした。朱色で描かれているように俺には見えたのです。


 しかし、式。


 記憶にはけっこうありましたが、それは魔術師が修行のために使うものじゃなかったでしたっけ? それを刃物に刻んで一体何なのか。今から魔術の修行とか、そんな話なんですかね?


 俺が疑問に思うことは想定の範囲内だったようで。


 首をかしげる俺に、アレクシアさんは苦笑しながらに首を横にふるのでした。


「おそらくですが、貴方の思っているような用途ではありません。前にも言いましたが、魔術の修行をしようとすれば少なくとも十年はかかります。とても、そのようなことをしている時間はありません」


 ですよねー、でした。


 脅威は目前にある。黒竜によって焼かれた村は、すでに五つに増えていた。とてもじゃないけど、そんな悠長なことをしている場合じゃないだろう。


 だからこそ、疑念は深まるのですが。その式の用途が、さっぱり思い浮かばなくてですね。


「式とは、魔力の練り方を学ぶためのものです。ここは覚えていますか?」


 アレクシアさんの尋ねかけに、俺は頷きを見せる。もちろんでございまして、だからこそ俺は疑念を深めているのでございますが。俺の頷きに応じて、アレクシアさんは再び口開かれました。


「炎の魔術には、炎の魔力の練り方が。風の魔術には、風の魔力の練り方があります。炎の式に手をふれますと、それによって体にある魔力が炎の魔力に変換されます。その感覚を取り込むことが魔術師にとって重要な修練となりますが……まぁ、ともかくですね」


 ずずい、と。


 アレクシアさんが近づいてきます。


 俺は思わず後ずさってしまうのでした。何故かと言って、アレクシアさんの手には鈍色の刃物がありまして。それが、陽光の下でギラリと物騒に光り輝いておりまして……こ、怖くない? 俺には、嘘をついたというアレクシアさんに対する負い目があるのであって。なんか、良からぬ想像をしてしまうのでしたが。


「ははは、ノーラ。そんなビビらなくてもいいじゃん」


 娘さんが笑い声を上げられましたが、ま、まぁ、うん。そうなんですけどね。アレクシアさんがまさかいきなり斬りかかってくるわけでもないでしょうし。


 でも、用件は何なんですかね? 


 式が刻まれた刃物だそうですけど、その刃物を手にして、俺に近づいてこられる用件とは一体?


「ふふ、大丈夫ですから。少なくとも血の匂いとは縁の無い用件ですから」


 こちらは苦笑を浮かべつつのアレクシアさんでした。


 で、ですよねー。もちろん私もそう思っております。ただ、魔術師であるアレクシアさんが、式が刻まれたオカルトチックな槍の穂先を持ってですね、こう無表情に近づいてこられますと……何かしらの生贄にされるんじゃないかって、そんな懸念が頭に浮かんで仕方なかったのですが。


 ま、まぁ、とにもかくにも。


 俺が魔術の生贄にされるようなことは無くってですね。


 ぺたり、と。


 アレクシアさんは穂先の腹を、俺の背中に優しく押し当ててこられたのでした。


「ノーラ。軽くで良いです。炎を吐いて欲しいのですが、出来ますか?」


 そしての、そんなお願いでした。


 ふーむ? なにやらドラゴンブレスを所望されましたが、その目的は何なのか。分からないですが、とにかく言う通りにすることにします。


 口を開きまして。


 で、ドラゴンブレスをを軽くボォーっと……ボ? ……ボォ?


「どうですか? 違和感の方は?」


 アレクシアさんの疑問の声ですが、違和感。いや、本当にそうでした。いつも通りに炎を吐こうとしたのだ。だが、それが上手くいかない。


 不思議な違和感でした。


 なんかこう……声の出し方を忘れてしまったようなそんな気分。出来るはずのことが不思議と出来ない。妙な違和感があって、邪魔じゃないけど、とにかく思うに任せられない。


「……なるほど。これが対策となるわけですかな」


 クライゼさんが納得の声を上げられましたが……えーと? これ、どういう状況なんですかね?


 アレクシアさんはクライゼさんに頷きを見せます。そして、俺から穂先を外して、再び声をかけてこられます。


「では、今はどうです? 炎は出せますか?」


 言われて、試してみる。

 

 口を開きまして、軽くボォーっと……あぁ、出来てる。変な違和感はまだありますけど、いつも通りにドラゴンブレスを出すことは出来ました。


 黒竜への対策。


 なんかちょっと腑に落ちたような。えーと、こういう要領でって、ことになるんですかね?


「ドラゴンブレスは魔術による代物。以前に、そう話したことがあったはずです」


 アレクシアさんは、刀身に刻まれた式を俺に示して来られます。


「だからこそです。この式は、風の魔力を練るためのものです。ドラゴンはおそらく、意識せずとも炎の魔力を練ることが出来るのでしょうが、その最中ににこのような式を触れさせたらどうなるか。炎の魔力を練っている時に、風の魔力の練り方を意識させたらどうなるか」


 それが、さっきの俺の状況ということですかね?


 俺は無意識でも炎の魔力を練ろうとしていて、それが穂先にある式によって横槍を入れられたということなのだろうか。


 なるほどでした。


 理屈はともかくとして、俺には大変有用な効果が上がったわけで。


《かみなり にも こうか が?》


 そんな推測が成り立つのですが、アレクシアさんは真剣な顔で頷かれました。


「はい。そのはずです。あの雷も魔術だと仮定してのことになりますが」


 この穂先に触れてしまえば、自在に雷を操ることは出来なくなる。そういうことだろうか。


 本当、なるほどでした。黒竜への対抗策かぁ。あの黒竜の何が恐ろしいって、雷をバリバリ操ってくるところなわけで。もし雷を封じることが出来れば、あの黒竜の脅威の半分以上を削ぐことが出来るだろう。


 素晴らしい対策だと思いました。


 ただ……うーむ。問題もね、あるような気はしますけどね。


「……はぁ。すごいですね、アレクシアさん。さすが魔術師をされているだけありますねぇ」


 娘さんが感心の声を上げます。


 それに対してのアレクシアさんですが、何故か苦笑いを浮かべておられました。


「感心されるようなことはありません。魔術師であれば、誰でも思いつくようなことですので。それに、この策が有用になり得るか否かは、ただただ騎手の方々にかかっていますから」


 あー、なんか共通の認識があるかも。


 俺が思っている問題点を多分アレクシアさんも認識されていて、どうやら娘さんも同じことを思っているっぽいかな。


 娘さんもまた苦笑になってアレクシアさんに応じられるのでした。


「えーと、まぁ。アレクシアさんがすごいことに変わりはありませんが……そうですね。その穂先をどうやって、黒竜に届かせるのか。それが問題ではありますね」


 やっぱり、そこですよね。


 雷を操り、熟練の騎手の軌道をもって相対してくるドラゴン。


 そんなやつに、どう穂先を届かせるかって、それが大問題ですよね、えぇ。


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