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第34話:俺と、工夫の穂先

 俺が言葉を理解していることを理解している三人組。


 娘さんにクライゼさん、それにアレクシアさんである。


 その彼らが、放牧地にいる俺たちドラゴン三体組に近づいてきているのですが……はてさてである。


 一体何の用事でこちらに向かってきているのですかね? アレクシアさんは妙な細長い刃物を手にしておられますが、それが用事とは関係があるのかどうか。


「アレクシアさん、紹介します。アルバにラナです。ウチの自慢のドラゴンです」


 初対面ということで、まず紹介という娘さんでした。自慢のという言葉通りに、自慢げな表情でした。本当、アルバやラナを誇りにしているといった感じなのでしたが……一方、その自慢のドラゴンたちはと言えば。


『うっわ。来た。来やがった。しかも何かしゃべってる。長く居座るつもりなわけ? ねぇ、アルバ。どうする?』


『いや、俺に聞かれても困るが……』


『アンタ、このウザイやつ嫌ってたじゃないの。追い払ってやろうとか思ったりしないわけ?』


『別に今はそこまで嫌ってもないが……』


『はぁ? なんなの? アンタもノーラみたいに大切な人とか言い出すわけ? うっわ、信じられない。よくあんなのを好きになれるわね。本当信じられない』


『いや好きでも当然無いが……確かにうざいやつだが、何かする気にはなぁ。面倒だ。寝かせてくれ』


 そんなやりとりをしていました。


 これを見てですが、アレクシアさんは興味深そうにアルバにラナを見渡すのでした。


「へぇ。本当に、ドラゴン同士で会話をしているのですね。私は初めて見ましたが、何やらほほえましいですね。ノーラ、彼らは何を話しているのですか?」


 で、そんな問いかけでした。


 ……どうしよう。なかなか素直に言語化するのにはためらわれる内容でして。いつもだったら、こういう時には他愛無い嘘でごまかすのですが……現在は嘘がためらわれる俺の状況でして。そ、そうねぇ。仕方がないかな、うん。


《おさっし ください》


 嘘はつきませんけど、内容は話さない。そんなスタイルで応じることにしました。ただ、返ってきたのは案の定の反応でしたけど。


「へ? ノーラ、なにそれ?」


 娘さんは不思議そうに首をかしげておられます。で、ですよねー。そういう反応になりますよねー。ただ、アレクシアさんはと言えば、不思議な反応を見せてこられまして。


「おさっし? お察し……ふむ」


 俺の足元を見下ろして、次いで不満たっぷりのラナを見つめて、そして一つ頷きを見せられました。


「そうですか。では、察しておくことにしましょう」


 ……神、かな?


 神がかり的なお心配りと言いますか、相変わらずのアレクシアさんでした。素晴らしい観察眼をお持ちで。ラナの、娘さん罵倒録をさらさずに済みそうで、俺としては大助かりです。


 ただ、娘さん。こちらはありがたくも、さっぱりお察し頂いていないようでした。


「アレクシアさん? なんです? 察するって、何を察しているんですか?」


 思わずといった感じで、アレクシアさんに問いかけられておりました。それに対してアレクシアさんは、あざ笑うように「ふん」と鼻を鳴らされまして。


「そうですね。無神経な人にはちょっと分からないかもしれないですね」


 先日の件を、わりと根にもっているんだろうなぁ。そう思える反応でございました。


 娘さんはと言えば、先日の件に多少の負い目を抱いているようでして。


「う。ま、まぁ、私は少しばかりは無神経なところがあるかもしれませんが。でも、ちゃんと謝ったのに今日もまた……」


「すいません。でも、私こういう性格ですので」


「開き直られても困るのですが……なんかなぁ。神経質って言うよりは、単純に性格が悪いような気がしてきたような……」


 ついつい漏れたという感じのアレクシアさんdisでしたが、これにはアレクシアさんはわずかに笑みを浮かべておられました。


 ふーむ? 先日の件を根にもっているのかと思ったけど、実は違うのかな? なんか分かるような気も。俺も憧れたもんだけどなぁ。悪口を言い合えるような、そういう関係ってヤツ。


 こういうやりとりを、アレクシアさんはただただ楽しんでいるのかもしれないですねぇ。ただまぁ、娘さんはと言えば、無神経と言われたことをただただ気にしているようでしたが。


「無神経……私、無神経かなぁ? クライゼさんはどうです? 何か察することは出来ました?」


 ほほ笑みながらに二人のやりとりを見守っていたクライゼさんでした。


 問いかけは、不意のものだったようで。


 にわかに目を丸くして、そして苦笑を浮かべられました。


「俺か? そうだな。ドラゴンも色々だろうからな。色々と思うところもあるだろうさ」


 何となく察してられるような物言いでした。娘さんも同じことを思われたらしい。「あれ?」と不安そうに首をかしげられました。


「もしかして私だけ分かってない? や、やっぱり私って無神経? あれ? あれれ? あれぇ?」


 当惑されている娘さんでした。


 そ、そうですね。なんかちょっと可哀想な気はしますが、現状が俺にとっては都合が良いので。娘さんには悪いですが、察せられてしまう前に話を進めさせてもらいますかね。


《しかし ようけん は なに ですか?》


 まさか、ラナとアルバをアレクシアさんに紹介するためだけに訪れてきたわけじゃ無いでしょうし。クライゼさんがいることもそうだが、アレクシアさんの手には細身の刃物が光っている。何かしら別の用件がありそうでしたが。


 娘さんは困惑されておりましたが、それもひとまず脇に置かれるようでして。


「へ? あ、そうそう。黒竜の対策で穂先が出来たからって。アレクシアさんがノーラで試してみようって」


 そんな娘さんの説明でしたが……はい? すみません、さっぱり分かりませんが。黒竜の対策で穂先? それを俺で試す? 


「アレクシア殿、よろしくお願いします。これではノーラには分からないでしょう」


 クライゼさんが苦笑ながらに、そう助け舟を出してくれました。えぇ、まったくその通りでして。出来れば説明をお願いしたいところでしたが、娘さん、何故かいきなり焦りだされましたが。


「え、えぇ? 分からない? や、やっぱり? やっぱり私無神経で……」


「落ち着きなさい。今のはただただ、貴女が説明ベタなだけでしたから」


「ほ、本当ですか? よ、良かったぁ」


 娘さん、何やら安堵されていますが、別の欠点が浮かびがってきただけのような気も……まぁ、ともあれです。


 娘さんを落ち着かせたアレクシアさんは、手にある刃物を俺に掲げて見せてこられるのでした。


「これは槍の穂先です。モノ自体はありふれたものですが、少し工夫が施されていまして。その工夫を、貴方を通じて実証しようと思って今日は来たのです」


 ふーむ?


 工夫? 話の流れから考えると、そこにあるのは黒竜に対抗するための工夫でしょうが。それを俺で試すと? さてはて、やはりまだ分からないところは多いですが、アレクシアさんですからね。しっかり説明していただけることでしょう。


 俺はその工夫された槍の穂先とやらを見つめてみる。


 そこには何やら模様が描かれているようですが、はて。何だか見覚えがあるような気がしますが、んん?


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