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第32話:俺と、次の段階

 失敗であったら、笑い話にはしていない。


 娘さんとアレクシアさんの大げんかについてですが、クライゼさんはそうおっしゃりました。


 つまりそれは……期待して耳をかたむけても良いということなのでしょうか?


 クライゼさんは笑みを浮かべて口を開かれます。


「ここからが本当に面白いところだがな。不思議と上手くいったのだ。アレクシア殿の説得が成果を上げた。俺にとっても、まったく予想外だったがな」


 成果……ですか? え、本当に? それはまったく俺にとっても嬉しいことでしたが……なんで? 正直、疑問に思わざるを得ませんでした。


 大げんかが起きて、その後成果が上がって。なにか因果関係はあったりするんですかね?


《けんか で せいか ですか?》


「うむ。けんかで成果だな。おそらくな、アレのおかげで、皆がアレクシア殿に親しみを持てるようになったのだろう」


 ふーむ? けんかをして親しみが。それは……うん。ちょっと分かるような気がしてきたような。


 けんかなんて聞かされて驚きましたが、その驚きにも二種類の内訳がありまして。


 あの二人が何で? 何が理由でけんかしたの?


 そんな疑問で驚きもしたのですが、あのアレクシアさんがけんか? みたいな驚きもありまして。


「一気に等身大の存在になったような感じだったな。王都から来た、感情の見えない、何を考えているか分からない薄気味悪い査問官。多くの者はそう思っていたようだったが」


《かわり ましたか?》


「一変したな。無愛想ではあるがしっかり感情もあって、当然怒りもするサーリャの友人。そんな評価になってな、親しみやすい存在にもなったようだ」


《なるほど ですね》


「うむ。そうなると、アレクシア殿の言うことも信じてもらえるようになってな。アレクシア殿の善意も伝わるようになった。王都から軍勢が来る可能性は低いこと、それを待っていたらハルベイユ候領が焼き尽くされるかもしれないこと。それを心から心配していること。かなりのところ伝わったようだ」


 クライゼさんは満足げに頷くのでした。


「とにかく、これで状況は動きそうだ。アレクシア殿には感謝しかない。サーリャもよくやってくれた」


 俺も頷きを返します。


 経緯はともかくとして、アレクシアさんのおかげでようやく動き出せそうでして。本当感謝しかありません。


 娘さんもねぇ。この成果は間違いなく娘さんの働きがあってのものでした。まぁ、本人はもっとスマートにと言いますか、仲介役として知的な働きをするつもりだったでしょうが……大事なのは結果なのでして。本人は不本意かもしれませんが、本当素晴らしい働きでございました。


「で、今回お前は何をしたんだ?」


 不意にでした。


 クライゼさんは笑顔で俺にそう問いかけてこられました。


「先日の戦は言わずもがなだが、一騎討ちの時にもお前は活躍していたそうだな? サーリャからそう聞いている。今回の成果も、お前の何かしらの働きがあってのものなのだろう? どうなんだ?」


 ……ぬ、ぬおー。ひょ、評価されてる! 評価されてしまっている!


 それは俺にとって嬉しいもので、しかしそれ以上に居心地の悪いもので。いや、あの、クライゼさん? 先日の戦も、一騎討ちの時も、俺は大した働きはしてませんし、そして今回に至っては……


《わたし は なにも してません》


 けっこう俺への評価は高いらしい。クライゼさんはいぶかしげに首をかしげてくれています。


「そうなのか? サーリャの活躍に、お前が絡んでいないはずは無いと思ったのだが」


 い、いえ、なーんもでございます。


 俺は本当に今回の件では何もしておらず……いや、何もしていないわけでは無かったっけ? 変に知恵を回して、二人の仲を取り持とうなんて、分不相応な愚行に走ったりしまして。


《きらわれる ようなこと は しました》


 クライゼさん、「ん」と首をひねられました。


「嫌われるようなこと? なんだそれは?」


《うそ と かくしごと です》


 そんなことをしてしまいましてですね。


 ありがたくも毛嫌いされるようなことにはなっていないのですが。それでもなんとも……後悔がねー? 胃の辺りで、ズシリとすごいことになっているのですよ。


「ふむ? それはサーリャにか? アレクシア殿にもしたのか?」


《はい》


「ほう。詳細は分からんが、嫌がらせでもしてやりたくなったか?」


 いや、もちろんそんなわけでは無くてですね。この疑問には、俺は当然首を横にふります。


「そうか。まぁ、お前のことだ。サーリャのために、何かしら骨を折ってやろうとしたのだろうがな」


 え? でした。


 い、いや、そのですね? アレクシアさんへの嘘は多少そのつもりもありましたが、娘さんへの隠し事はただただ自己保身でありまして。怒られるのが怖かっただけでありまして。


 そんなね? 好意的な解釈をしてもらえるような話では無いのですが……ともかくクライゼさんは、俺にメチャクチャ理解を示してくれていました。その上で、


「まぁ、あまり気に留めないことだな。あの二人を怒らせてしまったのかもしれんが、悪意も無ければ遺恨は浅かろう。それにお前の善意が理解出来ない二人でもあるまい。お前の今までの貢献が消えるわけでも無ければ、その内にほとぼりも冷めるだろうさ」


 そうして、俺をなぐさめてくれたのでした。


 ……アカン、惚れそう。思わず一生ついていきたくなってしまいました。なに、この人。優しさの権化ですやん。


 なんか泣き出しそうになってしまいましたが、それはともかくとしまして。クライゼさん、何故か苦笑を俺に向けてこられました。


「だが、それで気がすむお前ではなさそうだがな。不思議な言い回しになってしまうが、お前はなんとも人が良さそうなドラゴンだからな」


 別に俺は、人が良いというかお人好しなわけでは無く、ただただ小心なだけですが。ただ、前半部分に関しては、心底同意でした。


 ほとぼりが冷めるのを待つなんてねぇ? 挽回出来る機会があるのなら是非したい。俺が頷くと、クライゼさんも頷きを見せてこられます。


「そうだろうな。しかし、気がすまないからと言って……ドラゴンであるお前に出来ることか。まぁ、嘘をつかずに生活することも一つだが、ドラゴンだからな。ちょうど良い機会が目前には迫ってはいるが」


 あぁ、そうですね。まったく、その通りでございまして。


 アレクシアさんの説得が上手くいった。となると、状況は次の段階に移っていくわけで。


「黒竜か。ふむ。評判を取り返すにはうってつけであるようで……なかなか、挽回のダシに使えるような相手でもないか」


 俺の挽回うんぬんの話はこれでおしまいらしい。


 クライゼさんはにわかに目つきを鋭くされます。


「話を聞く限り、容易い相手でないことは確かだが。想定外の相手でもある。騎手も無く、雷撃をふるって騎竜を堕としにかかってくる。どう戦っていいのかも、正直良く分からん相手だな」


 クライゼさんは、不意に屋敷の方に目を向けられました。娘さんがいるであろう屋敷へとである。


「サーリャもな、かなり苦戦していたらしいな」


《はい》


「アイツは、自分などまだまだと謙遜はするがな。一戦、二戦の実力なら、俺とさして変わるものでも無い。もちろん、長い戦役を通じてどう実力を発揮していくかという面では、俺の方がまだまだ一日の長があるが……サーリャが苦戦する相手で、しまいには撃墜されてしまった相手だ。本当にはてさてだな」


 娘さんへの高評価を喜んでいる場合でもないでしょうか。カミールさんも頼りにする。ハルベイユ候領一の精鋭。それが、攻め手に悩んでいる。これはかなり、重々しい事実でありまして。


「まぁ、こちらにもお前という特異な存在がいる。アルバにラナにも協力を願うことは出来る。手はあるにはあるだろう。だが、ふーむ。勝てる策だな。それも、出来る限りこちらの損耗少なく勝てる策だ。これを練っていく必要があるが……」


 想像もつかないといった感じのクライゼさんでした。悩ましげに首をひねったりされています。


 なんかこう、ですよねーっていう気分でした。


 ここからが本番ということで。今まで以上に、頭を捻って、事態の打開に奮戦しなければならないということで。


 そう言えば、アレクシアさんは、黒竜に対抗する策はあるとおっしゃっていたような気はしますが……はたして、どんな策があるのでしょうかね。


 まぁ、とにもかくにも。


 ここからが苦労のしどころと、そんな感じのようで。


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