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第31話:俺と、会議の行方

 冬の天気は変わりやすい。

 

 なんて聞いたこともありませんが、今日は一転しての晴れ空でした。昨夜はあれだけ立ち込めていた雲もどこかに過ぎ去っていきまして、雲一つ無い晴れ間が広がっております。


 とは言っても小春日和とはほど遠いんだけどね。雲が過ぎ去って、晴れ晴れとしてマジで寒い。放射冷却だっけ? そういうのだっけ? 風もビュービューで治りかけの火傷になんともこたえます。


 まぁ、それはともかくとしてですね。


 俺は寒いと感じつつも、そのことにはあまり意識はいっていないのでした。


『……何か気になるの?』


 隣の竜舎から、涼しげな声音が耳に届く。サーバスさんだった。白い首を伸ばしながら、俺に尋ねかけてくれていた。


 うーむ、見て分かるぐらいだったかな? そのぐらい、俺はそわそわしていたらしいけど。


『えーと、はい。気になることがありまして』


 素直に返事をすると、サーバスさんは首を伸ばして、ハイゼ家の屋敷へと目を向けた。


『あっち? 何かあるの?』


 その通りでございますが、よくお分かりで。まぁ、俺が一目で分かるぐらいに、屋敷の方を気にしてたってことなんだろうけど。


『そうなんです。屋敷の方で話し合いがありまして。その結果が気になっていると言いますか』


『そうなんだ。よく分からないけど……君の望むような結果になるといいね』


 サーバスさん、そんな感じで俺を気遣ってくれました。ぬおー、優しさが身にしみる。サーバスさんはその騎手に似て、本当に優しいお方で。ドラゴンでもね、本当優しい方は優しいよね。何となく、どこぞの赤竜を思い浮かべながら、そんなことを思いますが……それはともかく。


『はい。本当に、俺もそう願っています』


 ただただ、そうでした。


 俺はハイゼ家の屋敷を遠目にしながらに、ただただ願う。


 あそこでは、今日も今日とて話し合いの場がもたれているはずだった。黒竜に対抗するのか、静観して王都からの軍勢を待つのか。その話し合いである。


 その話し合いにだが、今日は変化があるはずなのだ。


 娘さんがアレクシアさんと協力する。そう決まったわけで。


 今まで静観で変わらなかったものが、これですぐに変わるとはちょっと思えない。


 それでも、何か変わって欲しい。せっかく二人が協力することになったのだから、成果が出て欲しい。二人が協力して良かったと、そう思えるような成果が上がって欲しい。


 俺はそんなことを願っているのでした。


『あ、けが人』


 サーバスさんが、にわかにそんな言葉を口にされました。


 けが人? なんて、俺は思わず首をかしげましたが、すぐにそう言えばと頷くことになりました。


 先日の戦でだけどね。


 俺があの人について『けが人なんだから大人しく世話を受ければ良いのに』みたいなことを口にしましたら、サーバスさん、この呼び方を気に入られたみたいでですね。


 つまりでした。


 クライゼさんでした。今は健康体っぽいクライゼさんが、こちらに向かってきているのでした。


「昨日も来たがな、今日も来たぞ」


 竜舎の前に来られての、そんな挨拶でした。


 屋敷では話し合いが続いているはずなのですが……一体何用でしょうか? 気になりましたが、俺もまずは挨拶である。


《こんにちは くらいぜ さん》


 そう書いて、頭を下げる。


「ふむ。こんにちはだな、ノーラ。それに……」


 クライゼさんは、サーバスさんに目を向ける。すると、サーバスさんもぎこちなく頭を下げます。


「サーバス。お前もこんにちはだな」


 嬉しそうにクライゼさんはほほ笑まれるのでした。


 なんかですね、サーバスさん、俺がここに来てから俺のマネごとなんかを始められましてね。


 本人いわく、なんとなくとのこと。で、これに対してクライゼさんですが、見ての通りでした。非常に喜んでおられます。


 こんな調教をしたのかと皆に笑われる。そんなことをおっしゃっていましたが、大歓迎のようで。


 まぁ、それはともかくです。


《どうされました?》


 なんで、クライゼさんがわざわざここを訪れてくれたのか。サーバスさんとの笑顔のやりとりを見るに、悪い知らせという感じはありませんが。


「あぁ、面白かったのでな。お前にも、教えてやろうと思って来たのだ」


 お、面白かった? 俺は首をかしげざるを得ませんでした。クライゼさんは屋敷からやって来ましたが、えーと、話し合いについてなんですかね? 伝え聞く屋敷での話し合いには、そんな面白いなんて形容出来る余地は無さそうでしたが。


「とにかく面白かったぞ。お前に伝えにきたのだから、当然サーリャにアレクシア殿の話だがな。うむ、見応えがあった」


 クライゼさんは頬に笑みを浮かべながらに、そう話を続けられまして……俺は『お?』と思わず期待をするのでした。


 これは、まさか?


 面白くて、見応えがあって。これはもしや、あれじゃない? サーリャさんの協力を得て、アレクシアさんの説得が面白いぐらいに上手くいって、その様子はまさに見応えがあって。


 そんなことじゃないの? ね? そういうことだよね?


 で、では、続きを! 詳細を教えて下さいませ! 


 俺がそう願う中、クライゼさんは笑みのままで願いを叶えてくれました。


「まぁ、面白いものだった。まさかな、あの二人があの場で大げんかを始めるとは思わなかった」


 ……はい?


「皆が皆呆気にとられていたが、なかなかに激しくてな。それこそ大げんかだ。うむ、見応えがあった」


 ……へぇ、はぁ。左様で……って、んん?


 あの二人がけんか? 何で? それで、クライゼさんは何を楽しんでおられるので? 面白かったなんて、そんな感想を抱いていていいものなの、それ?


 とにもかくにも、俺は事情がさっぱり分からなくてですね。


《くわしく》


 気がついたら、敬語を忘れてそう地面に記していました。


 で、クライゼさん。俺のタメ口をとがめることなく、楽しそうに経緯を話してくれました。


 アレクシアさんは普段と変わらない表情で話し合いの場に現れたそうで。いつもと同じ、どこか人を拒絶するような冷たい表情をされていたとのこと。


 一方で、娘さん。こちらは意気揚々と言いますか、そんな感じだったようでした。


 さて、アレクシアさんの役に立ってみせますか。


 そんな感じの胸中だったんだろうなぁ。顔を紅潮させて、目をランランと光らせながらの登場だったのこと。


 で、話し合いが始まったそうで。


 アレクシアさんはこれまたいつも通りだったらしい。


 いつも通りに説得にかかって、いつも通りに否定されて、拒絶されて。


 だが、その時であった。


 今こそが自分の出番だと。娘さんが勢い込んで、アレクシアさんのフォローに入ったとのこと。


 まぁ、割と冷静な対応をされたようでした。


 クライゼさんが心配するような興奮ぶりだったらしいのですが、行動自体は落ち着いていたそうで。アレクシアさんの意見がどれだけ合理的なのか、アレクシアさんがどれだけ領民のことを思っておられるのか。そんなことを言葉尽くして説明されていたらしい。


 だが、それはあまり効果を生まなかったとのこと。


 かなり厳しい反発があったようでして。


 アレクシアさんは信用出来ない。そんな趣旨の反発であって、それに娘さんは怒りながらに反論で応じたとのこと。で、なかなかの激論と言いますか、言葉のドッジボールになったそうで。感情的な言葉のぶつけあいは、だんだんとヒートアップしてゆき、そして、


「何よりも、こいつの顔が気に入らんっ!! 田舎者を下に見て、無表情の裏であざ笑っているようで……領民のためと言いながら、裏で何を思っているのか分からん! とにかく、こんな顔のやつは信用出来んっ!!」


 そんな感情論を娘さんはぶつけられたそうでした。


 で、我らが娘さんである。こちらも相当頭に血が上っておられたらしくてですね。話し合いの場にあった机をバシバシと叩きながらに叫ばれたそうです。


「仕方ないでしょっ!! こんな顔なんですからっ!!」


 これがけんかの発端とのことでしたが……なーんのフォローにもなってないですよね。


 まぁ、多分理性が吹っ飛んでおられていたでしょうから、それも仕方がないのかもしれませんが。だがあの方は、仕方ないなんて受け入れは出来なかったそうでした。


「ちょ、ちょっと!! いきなりなんですかっ!! こんな顔ってなんですか、こんな顔って!!」


 アレクシアさんが、顔を真っ赤にして怒りの声を上げたそうで。


 まぁね。


 失礼だからね、仕方ないよね。普段のアレクシアさんだったら、受け流していたかもしれないけどね。多分だけど、非難にさらされて、アレクシアさんもそれなりに頭に血が上っていただろうからね。さもありなんという展開でした。


 で、静観派 VS 娘さん & アレクシアさんの構図が、娘さん VS アレクシアさんになってしまったそうで。


「な、何で私に怒ってるんですか! そもそも、こんな顔って、昨日自分で言ってたじゃないですか!」


「それはそうですが、自分で言うのと他人に言われるのは別です! 貴女はどれだけ無神経なんですか! だから、私は貴女のことが嫌いなんですよ、本当っ!!」


「む、無神経っ!? そんなまさか、私がまるでお父さんみたいな……あ、アレクシアさんが神経質すぎるだけでしょ!! そんなだから、なんか変な反感を集めたりするんですよ!!」


「違いますっ!! 私はそんな神経質ではありませんっ!! 貴女がただただ無神経で……っ!!」


 そして、そんなやりとりが繰り広げられたようで。うーん、なるほどね。けっこうなガチげんかで。かなりのところ、見応えもあったかもなぁ。


 ここまで語り終えてでした。


 クライゼさんは、しみじみとして頷きを見せてきました。


「もう、本題が何かなど分からないぐらいでな。あれは、うむ、すごかったな」


 そ、そうみたいですね。確かにすごい感じは伝わってきましたが。


 ただ、問題はやはり本題についてでして。


 せっかくお二人が協力したのに、説得は進まなかったと、そういうことになるのですかね?


《しっぱい ですよね》


 思わず、そう記していました。


 結局、話し合いを上手く進めることは出来なかったようでして。二人が何を望んでいたかを考えるとねぇ。そこが何とも残念な気がしますが……んん?


 俺は首をかしげます。


 クライゼさんの表情でした。不思議な苦笑を顔に浮かべておられるのですが。


「二人は目的を果たせなかった。そう思っているのか? まぁ、そう思う気持ちは分かるが。だがな、そうであったら、俺はあのけんかをさすがに笑い話にはしていないぞ」


 そんなことを俺に告げられてきたのでした。


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