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第30話:俺と、ばれた

 アレクシアさんと再び協力しあえる関係になれた。


 そんな事実に、娘さんは全身で喜びを表現されていました。

 

 ただ、その様子はアレクシアさんの目にはどうにも不思議なものに映ったようですが。首をひねっておられます。


「……不思議な人ですね。私はあれだけヒドイことを口にしましたのに」


 これに対し娘さん、「なははは」なんて笑って、手のひらを左右にするのでした。


「いやいやいや、あの程度でヒドイなんて、そんなそんな。修行先はそんなもんじゃ無かったですし、先日の戦だって、けっこう色々言われましたし。はは、まさかまさか」


 あー、うん。そうでしたね。


 修行先についてはよく知りませんが、先日の戦はそうでしたね。けっこう色々言われてました。新人の通過儀礼的に、ボコスカに叩かれたりしておられました。


 娘さんの陽気な笑い顔を目の当たりにしてでした。


 アレクシアさんは、どこか申し訳なさそうに頭をかいておられます。


「……何と言いますか、情けないですね。誰だって苦労はしているものですのに。自分ばかりが苦労しているようなつもりになって……本当にまったく」


「いや、そんなの気にしないで下さい。それよりも黒竜ですよね、黒竜。問題はアレです。アレをどうにかしませんと」


「それはまぁ……確かに。問題はアレですね。対抗するように説得するのは前提であり、あの黒竜を何とかしませんと。これ以上、領民に被害を出すわけにはいかません」


 ここで娘さん、笑みを引っ込めて真剣な表情を浮かべます。


「その通りです。それが一番です。これ以上、あの黒竜に領民を苦しませるわけには……あー、そうですね。本当、それが大事でして……」


 娘さんは何故か言葉を濁しながら、俺の顔をじっと見てきました。


 ん? でした。現状、俺は納得の蚊帳の外でしたが。ドラゴンが話に入れるような余地って、今ありましたっけ?


 何ごとか悩んでおられるようでした。眉間にシワを寄せて「うーん」とうなったりされてます。


「え、えーと、サーリャさん?」


 アレクシアさんが不審の声を上げる中、娘さんは一つ力強く頷かれました。


「……大事なのは黒竜への対処。そうですもんね」


「は、はい。それはその間違いありませんが」


「……私ですね、あの黒竜が何を言っていたのか、それを知っていてですね」


「へ、へ?」


「そういう情報も大事だって、そう思うんです」


 そんなことをおっしゃる娘さんでしたが、ん? これは……あ、分かったぞ。これ、そういう流れだ。


 え? い、今ですかね? 今じゃないとダメ? いや俺が悪いんですが、今はただただ娘さんとアレクシアさんが協力出来て良かったなぁって、そんな時間を味わうのは……あぁ、ダメですよね、そうですよね。


 娘さん、俺の顔をびしりと指差してきました。


「この子、人の言葉が分かります。ある程度、筆談することも出来ます。信じられないかもしれませんが、本当です」


 覚悟の表情で、そんなことを口にされました。


 なるほどでした。俺しか知らない黒竜の情報を共有するために、俺が言葉が分かることを口にされたそうで。アレクシアさんを信用して、打ち明けることにしたそうで。


 良い選択だと俺は思います。俺の知っている情報が、もしかしたら黒竜を打倒する手がかりになるかもしれませんし。ただ……うん。そうね、うん。全部俺が悪いんだけどね、うん。


「……え?」


 アレクシアさんは驚きの声を上げておられました。ドラゴンが言葉を理解する。その現実に驚きを覚えているのだろうって、娘さんは思っているのだろうねー。事実はまったく違いますが。


 アレクシアさんは俺を見つめてきました。疑いの目で見つめてきました。そして、娘さんへと視線を戻しまして、


「……貴女は知らないんじゃないんですか?」


「へ?」


 今度は娘さんが驚きの声を上げる番でした。


「知らない……? あの、何をですか?」


「いえ、ですから……」


 アレクシアさんは俺へと視線を戻す。そして、俺の足元を指差してくる。そこには俺が書いた文章が残っておりまして……


「あ」


 そんな唖然の声でした。で、娘さん。こちらも俺の足元を指差しまして、目を見開きまして、


「あ、あああああっ!! 書いてるっ! 書いてるじゃんっ! ノーラ、アレクシアさんの前で書いてて……え、ええっ!? これってアレ? バレてるじゃん! 隠しておいてって頼んだのに! しかも……え? もしかして隠されてた? ノーラ、もしかして私にそのこと隠してた? えぇ?」


 ご、ご明察でございます。娘様。全てその通りでございます。私が本当、そんなことをやらかしてしまっておりまして、えぇ。


 驚きはアレクシアさんにもあったらしい。だが、こちらはそんなのは一瞬で、俺に対して冷ややかな視線を向けて来られました。


「……どうやら、サーリャさんは前から知っていたようですね。つまり、ノーラは私に嘘をついていたということになりますが」


 は、はい、まさしく。嘘をついておりました。知恵の足らない俺が無駄に頭を回した結果ですが、そんなことをしまいまして……何であんな嘘ついたんだろうね、俺。


「ノーラ!」


「ノーラ?」


 娘さんは憤然として、アレクシアさんは冷然として俺をにらみつけてきておられました。


 ……こういう時って、弁護士を呼ぶものでしたっけ? 呼べるものなら呼びたかったなぁ。まぁ、百パーセント俺に責任があって有罪なので。弁護士なんて呼んでも来てくれないかもしれませんが。


 ここは……ねぇ? 正直、頭が真っ白ですが、やるべきことは分かりました。と言いますか、やれることなんて、もう一つしかありませんでした。


《もうしわけ ありませんでした》


 神妙にそうつづりまして、俺は前足と頭をべたりと地面につけるのでした。世にも珍しいドラゴンの土下座でありまして。えーと、その希少さに免じて許していただけたりなんか……ないですよね、はい。


「……心を感じない。本当に謝るつもりある?」


「頭を下げればそれですむと思っているのですか? なんとも安直ですね」


 双方とも、なかなかに辛辣でした。でも、もはや甘んじるしかないよね。俺は土下座を続けて、ひたすらに反省の意を体現するのでした。


「……はぁ」


 娘さんのため息が不意に響きました。


「正直、ノーラに約束破られて、隠し事をされてたのは悲しいけど……まぁね。ノーラに悪意があってそんなことをやったとは思ってないけどね」


 少しばかり雪解けを感じさせる、そんなお言葉でした。


「……まぁ、私も貴方が悪意をもって嘘をついたとは思っていませんが」


 アレクシアさんもでした。ゆ、許していただけるのでしょうか? そう思って俺は二人の顔をうかがうのですが……あ、ダメですね。お二人とも、相変わらず怒りの表情で俺の顔を見下ろしておられました。


「本当ね、覚えておくからね。まったくもう」


「私、恨みはなかなかに忘れませんので。一つ貸しにさせてもらいますから」


 俺の評価はだだ下がりのようですが、この問題はひとまず棚上げということらしく。


「あー、とにかく。重要なのは黒竜ですよね。黒竜」


 娘さんが気を取り直してといった感じで、そんなことを口にされまして。


 アレクシアさんも、それに頷きを見せます。


「そうですね。重要なのは黒竜ですね」


「はい。とにかくアレをどうにかしないといけませんから。アレクシアさん、よろしくお願いします」


「そうですね。こちらこそよろしくお願いします。お互いにがんばりましょう……裏切られた女同士でですね」


「ははは。そうですね、がんばりましょうか。裏切られた者同士二人で」


 あははは、と娘さんとアレクシアさんは朗らかな笑い声を交わすのでした。


 それを見て俺は良かったなぁ……なんて、正直には思えないのでした。あ、あかん。俺への評価がストップ安になってしまっている。


 が、がんばらねば。


 挽回の機会は、きっとこのお二方がもたらしてくれるでしょうし。


 娘さんたちのためなんてのはもちろんですが、ちょっと自分のためにも気を吐いてがんばるとしますかね、えぇ。


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