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第14話:俺と、バレてしまいまして

 えーと、夜になりました。


 昼休憩が終わりまして、目的地である焼かれた村までの行程を進めて。そして、また別の集落にたどり着いての夜です。


 今日もまた、農家に泊めていただくことになりました。そして、俺は今日も今日とて、家畜小屋の付近につながれることになったのですが……その最中です。


「ねぇ、ノーラ」


 娘さんがニコニコと笑顔で話かけてこられました。俺はですね、ちょっと後ろめたいところがありまして……ビクビクとして応じることになります。


《なにですか?》


「えーとね、今日アレクシアさんから話しかけられたんだ」


 そんなことを嬉しそうに俺に伝えてこられました。そ、そうなんですか。アレクシアさんが。へ、へー。


《よかった ですね》


「ねー。ビックリしたけど、ノーラについて聞きたいことがあるって感じだったけど……って、ノーラ?」


 娘さんが不審の目を向けてきました。


 い、いえ、大丈夫です。俺の話ということで思わず背筋がビクリとしてしまいましたけど。


《つづき を どうぞ》


「あ、うん。でも、大丈夫?」


《だいじょうぶ です なんでもない です ほんとう です》


 思わず過剰なぐらいに言葉をかさねてしまいましたが、良かった。娘さんはしゃべりたい思いが強くて、俺の動揺には気づいていないっぽい。笑顔で頷いてきます。


「だったらいっか。それでね、色々と話したの。ノーラがどんなドラゴンだとか、どんな風に育ったのかとか」


《そうなの ですね》


「うん。ビックリしたけど楽しかったかも。でも、なんだろう? 本当いきなりだったけど。表情も柔らかかった気がしたけど、何かあったりしたのかな?」


 娘さん、不思議そうに首をかしげておられます。


 そ、そうですねー。なにかねー。何かあったりしたんですかねー。ふ、ふーむ。


「それじゃ、また明日ね。おやすみ、ノーラ」


 まだ色々と話したそうでしたが、明日のための休息を選ばれたようで。


 娘さん、手をふりながら去っていかれました。俺はですね、『ふぅ』と一息でした。何とも言えず、とにかく一安心でして。


 娘さんには、今のところバレてはないみたいですねー。


 しかし、どうしようかね、本当。怒られるのが怖いので、娘さんには話せてはいないのですが。しかし、話さないでいるのが良いことなのかどうか。


 俺は『うーむ』と地面に伏して、うなだれる。


 悩ましかった。


 本当、バレちゃったんだよねー。



「……約束通りに来ました」



 娘さんが去ってから、本当にもう、すぐでした。


 多分、娘さんが去るのを見て、ここに来たんだろうなぁ。言葉の主はアレクシアさんでした。月明りの下、静かな笑みを浮かべながら、俺の前にやってこられました。


 ……本当にねー、バレちゃったんだよねー。


 アレクシアさんに俺が言葉が分かることがバレてしまいました。査問官さんたちにアレクシアさんの泣き顔を見せたくなくて。慌てふためいたあげくに、そんなことになってしまいました。


 で、今である。


 昼のことです。もう戻らなければならないということで、アレクシアさんは「また来ます」と残して慌てて去って行かれましたが。


 約束通りとはそのことだろう。


 言葉通りに、俺の元を訪れてくれたようだけど……ふーむ。


 とにかく、心配だよなぁ。


 何故、娘さんは俺が言葉がわかることを秘密にしているのか? それはハルベイユ候のように俺を欲しがる人が出ないようにするためだった。


 俺はまだアレクシアさんをそれほど知っているわけではない。


 クライゼさんほどに信用しているわけでも無ければ、もしかしたらハルベイユ候のような行動に出てくるのではないか。そんな疑問をぬぐいさることは出来ない。


 この人は一体どう出てくるのだろうか。


 そんなことを思いつつ、アレクシアさんを見つめていますと。一体何を思われたのか? ニコリとほほ笑みを見せてこられました。


「安心して下さい。私は約束は守りますから。当然貴方のことは誰にも話してはいません」


 あー、はい。そうでした、そうでした。


 バレてしまったその時である。


 俺はかなりテンパりながらも、誰にも言わないでっ! って、そのお願いだけはしっかりしていたのだ。


 で、アレクシアさんは呆然としながらも頷いてくれたのですが、今のところ約束は守られているのかな? 娘さんに俺のことを聞いていたみたいだけど、それ以上のことは無いようですし。


 だったら、言われた通りに一安心でしょうか。しかし、本当この人察しがいいな。また俺の瞳から、感情を読み取ったのだろうか。すごいけど、悪意なんかも同様に察してしまうのなら、かなり人間社会で生きづらいように思えますが……ともあれ。


 約束は守っていただけるそうなので。


 お礼は言っておきましょうかね。


≪ありがとう ございます≫


 アレクシアさんは相変わらずの笑みで頷いてこられました。


「いえ、約束ですから。しかし、何故です? 何故、貴方はそれを知られたくないのですか? 知られて交流出来た方が、色々と便利なのでは?」


 そしての、そんな疑問の声でした。


 あー、事情を知らない人からはそう思えるかもねぇ。さて、俺の事情をどう説明すればよいのやら。


≪さわぎ に なります≫


 アレクシアさんは「ふむ」と納得したように頷いていました。


「確かにそうなるでしょうね。言葉を理解し、文字を操るようなドラゴンなど前代未聞ですから。王国を揺るがすようなさわぎになるでしょうが……それが嫌なのですか?」


 正確には、さわぎになって、娘さんを困らせるのが嫌なのですが、大体そんなもんです。


 俺が頷きを見せると、アレクシアさんは何故かここでも笑顔でした。


「そうですか。有名になれますし、今いる家よりも良い生活が出来るかもしれませんよ?」


 どこかいたずらっぽく尋ねてこられました。まぁ、そうかもしれませんが、そんなことよりも大事なことが俺にはあるのです。首を横にふって見せます。アレクシアさんは楽しげに頷くのでした。


「ふふ。それは立派ですね。虚栄心もなければ、物欲もないのですか。欲の無い高潔なお方ですね」


 とんだ勘違いでございます。娘さんと一緒にいたいという欲求に従った選択でございます。


 ともかく、アレクシアさんは俺の言葉に納得してくれたらしい。


「分かりました。貴方が今の生活を望むのならば、私はその邪魔をしません。約束します。リャナスの一門は、受けた恩には必ず報います」


 お、おお。


 アレクシアさんの力強い目をしての宣言でした。カミールさんも似たようなことをおっしゃっていましたが、そういう一門の教訓みたいなのがあるのでしょうかね?


 しかし、恩。アレクシアさんの泣き顔を、査問官さんたちに見せないようにしたことを言っているのですかね? い、いやぁ、俺がやりたくてやったことですし、そんな恩だなんてねぇ?


≪あまり きに しないで ください≫


 そう伝えてはみたのですが、アレクシアさん、真面目な顔をして首を横にふってきます。


「そういうわけにはいきません。リャナス一門の誇りにかけて、必ず恩には報いますし、この約束は死んでも守り通します」


 お、おもーい。でも、ありがたい……かな? うん、ありがたい。これならば心配せずともすみそうですし。娘さんが懸念するようなことは起こらないんじゃないかな?


 ……ふーむ、ふむふむ。


 とりあえず一安心。そうなるとね? 思わず欲深くなってしまうのですが。


 俺、何か出来るんじゃないですかね?


 アレクシアさんとこうして話が出来るようになったわけですし。何で、娘さんを忌避しているのか? そんなことも聞けるかもしれないですし。


 その上で、アレクシアさんと娘さんの橋渡し役なんかも出来るのでは? 協力者が出来て、アレクシアさんは心が軽くなるかもしれないですし、娘さんはアレクシアさんを気にかけているのだ。協力出来ることは、娘さんの居心地を良くすることにもつながるのかもしれない。


 で、それは調査の効率アップにもつながりまして……見事犯人を見つけて、全ては一件落着。そんな未来もあるいは……い、いけるのでは?


 よ、よーし。


 俺は意気込むことにしました。やってやろうかね。最近の役立たずぶりは俺自身どうかと思ってたし、この状況を改善するために何とかやってやりましょうか。


 そんなことを思っていると、アレクシアさんが話しかけてきました。


「聞きたいことがあります。少し良いですか?」


 ほう、聞きたいこと。


 もちろんかまいませんとも。これは良いチャンスになるだろうしね。質問に答えつつ、なんとか娘さんの話題に誘導して、まず娘さんを何故忌避しているのかを明らかにする。で、その内容が誤解や思い込みであれば、その解消に尽力していく。


 この路線で、まずはやっていきましょうかね。


 ふっふっふ、やってやりますよー……なーんて、思ったのですが。


 すぐに気づくことになったのですがね。


 俺にそんな話術スキルは欠片も存在しないのでした。

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