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第7話:俺と、軍神のお願い

 娘さんはしかめ面をしながらロウの封を解いた。


 そして、中から手紙の本文を取り出すと、ハイゼさんに目配せをする。


「では、読みますから」


 娘さん宛の手紙ではあるけど、内容は聞かせてもらえるらしい。目配せはさりげなく俺にもあった。気にかけていただき、ありがとうございます。さてはて、どんな内容か。心して聞かせていただきますか。


 カミールさんの手紙はまず、ねぎらいの言葉から始まった。


 

 面倒な挨拶は省かせてもらうが、なかなかに災難だったな。


 だが、ハルベイユ候旗下のドラゴンの数など、たかが知れている。査問官の調査を待てば、ラウ家の潔白はすぐに証明されることになるだろう。まぁ、これも貴殿が事件の当事者では無いことが前提ではあるが。


 

「……最後の一文が余計だよなぁ」


 娘さんが思わずといった感じで首をひねっていた。


 俺は苦笑の思いだった。まぁ、カミールさんらしいと言いますか。どうしても嫌われなければならないんですかね、あの人。


 ハイゼさんも、カミールさんの人柄は知っているのか。こちらは表情に出しての苦笑だった。


「色々と特別な御仁ですからな。続きをお聞きしても?」


「あ、はい。えーと……」


 で、続きである。



 何故、このように遠回しな方法で私が貴殿に手紙を送ったのか。この点は貴殿も気になるところだろうが秘させてもらうことにする。伊達や酔狂でこの手段を選んだわけではないのだが、とかく説明しづらい。とにかく気にすることのないように。


「んな、無茶な」


 呆れたような娘さんのコメントでした。確かに、気にするなと言われても正直困るが……真相は現状闇の中としかならない。続きの方を気にするしかないか。


 そして、続きである。



 本題である。私が何故この手紙をしたためる気になったのかだ。頼み事があるのだ。命令では無い。頼み事である。そのことは明記しておきたい。


「……きた」


 やっぱりだと娘さんは嫌そうな顔をする。きっと脳裏にあるのは、諸侯の元に飛べと言われたあの経験だろうなぁ。命令では無いと書いてはあるのだが、なんかねぇ。俺もちょっと嫌な予感はしますね。


 その本題だった。



 査問官としてアレクシア・リャナスがそちらを訪ねてきたはずだ。姓から分かると思うが、私の一門の出身だ。それで頼み事なのだが、良ければでいい。良ければでいいのだが、彼女の調査を貴殿に助けてはもらえないだろうか。



「ほう」


 ハイゼさんが興味深そうに声を上げる。その一方で、娘さんは眉根にシワを寄せている。


「はぁ?」


 そう呟いて、書面をあらためて見つめる。そして、


「はぁ?」


 再びの呟き。娘さんからしたら、あの女を助ける? 冗談でしょ? みたいな気分なのかもなぁ。


 ただ、俺からしたら、ちょっと拍子抜けというか。前回のことを考えれば、特段無茶なお願いだとは思えないし。


 でも理由だよね。アレクシアさんの調査を助ける。なんでそんなお願いを、カミールさんは記したのか。


「サーリャ殿。続きはありますかな?」


「へ? はい、ありますけど」


 お願いに対して、思うところは大きいらしい。険しい顔をして続きを声に出した。


 

 理由に関してはこれも記すのは控えさせてもらう。私はもちろん理由があって頼み事をしているのだが、その理由はほとんど俺の勘のようなものである。記さないのは、記すほどの価値が無いということである。


 理由を示さないということで、あるいは不安に思うかもしれないが、そもそもあまり気構えないでもらえるとありがたい。助けて欲しいとは書いたものの、どうだろうか。王都に女友達を作るぐらいの気持ちで、頼まれてはくれないだろうか。



「……友達」


 娘さんが呟く。あ、そこ反応するんですね。まぁ、最近そんな話題はありましたが。


「……まさか、お父さんじゃないよね? 変なこと言いふらして、カミールさんがそれでふざけてこんな手紙を送ってきたとか?」


 それはさすがに邪推だと思いますけど。と、思ったのですが、この発言には一面の真実が含まれていたようで。


「ははは。そう言えば、ラウ家の当主殿がそんな話をもらされていましたなぁ」


 ハイゼさんが笑いながらに言って、娘さんはうげっと顔をしかめる。


「え? お父さん、ハイゼさんに私の友達うんぬんって話をしたんですか?」


「まぁ、そのようなことを」


「お、お父さんっ! ホントにイヤっ! ホントに無神経っ!」


「まぁまぁ。悪意はなかったと思いますが」


 ハイゼさんが苦笑ながらにフォローして、娘さんは大きくため息をつく。


「はぁ……ハイゼさん、私ハイゼ家に移っちゃダメですか?」


「ははは! もちろん歓迎はさせてもらいますが、今はカミール閣下ですな。内容はこれでおしまいですかな?」


「いえ、まだ少しあるみたいです」


 げんなりとしながら娘さんは手紙の内容を言葉にする。



 もちろん頼みを聞き届けてもらえれば礼はさせてもらう。では、よろしく頼む。



 それで終わりとのことでした。


 ふーむふむ。警戒するほどのことでは無かったのかな?


 アレクシアさんの調査を手伝って欲しい。理由は分からないが、それだけの内容だった。


 でも、娘さんにはそれだけって内容では無かったかな。アレクシアさんに敵意を抱いている娘さんである。読み終えて、何とも言えない表情で黙り込んでいる。


「さて、どうされますかな? カミール閣下からのお願いでしたが」


 穏やかにハイゼさんが問いかけてくる。娘さんは悩ましげに首をひねって、


「カミール閣下からのお願いなんですよね……でもなぁ」


 どうにも気が乗らないようでした。


 これが、引き受けなければカミール閣下もラウ家にも大きく影響が出る。そんな話であれば、娘さんも一も二もなく頷いてたんだろうけどね。

 

 でも、そんな話では無さそうなので。


 アレクシアさんへの敵意もあって、何とも頷きがたいようでした。


「私は引き受けられた方が良いと思いますがな」


 果たしてその意図は何なのか。


 ハイゼさんはにこやかにそんな提言をされてきた。


「良いではありませんかな? 犯人を見つけてやると意気込んでおられたのですから。ちょうど良いのでは?」


「い、いや、あれは売り言葉に買い言葉と言いますか、別に犯人だと決めつけられないのでしたら私は……」


「ははは、それは確かに。私であればやはり引き受けますが、それは政治的意図が大きいでしょうなぁ。軍神に貸しを作れるのは非常においしい。ただ、サーリャ殿はすでに大きな貸しを作っておられますからな。まぁ、サーリャ殿の気分次第でよろしいのでは?」


 気分次第で良い。


 そんなことを言われたら、娘さんの決断は決まっているような。


「……今回はちょっとかなぁ」


 娘さんはそう言って、悩ましげな視線を俺に向けてきた。


「あまり気分は乗らないし、せっかく問題が片付いたんだからゆっくりしたいし……いいよね? ノーラ」


 そうですね。


 って、今回は心から書いて上げられたかもね。


 別にどうしてもってことじゃなさそうだしね。気の優しい娘さんは、ちょっと罪悪感を抱いているみたいだけど、俺はその判断は間違ってはないと思いますよ、えぇ。


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