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第18話:俺と、勝機

 伝わった。


 ドラゴンであるノーラが言葉を理解出来る。そのことが娘さんに伝わった。


 よし、だった。


 次である。頼りにならないかもしれないけど、俺は娘さんに最後までついていきますから。そう伝えたかった。だが……あのー、娘さん? ちょっと大丈夫ですかね?


「……え? ……えぇ?」


 困惑の極地といった感じだった。娘さんはべたりと地面に腰を落としたままで、俺の顔を呆然として見つめている。


「……えええ? 言葉だよ? え、分かるの? ドラゴンが? そんなこと思ったことはあるけど、やっぱりドラゴンだし、そんなの……ノーラ? 貴方、本当に言葉が分かるの?」


 もちろんでございますと頷きを返す。娘さんは渋い顔をして、眉間を押さえる。


「……本当だ。本当に分かるっぽい。く、クライゼさん? あの、こういうものなんですか?」


 横になっているクライゼさんは、そんなことを聞かれてもと困り顔だった。


「う、うーむ。おとぎ話ならしゃべるドラゴンまでいるが……うーむ」


 ドラゴンに長く接してきたからこそ、困惑も深いのかもしれない。クライゼさんはうなるばかりで、二の句を告げなくなっていた。


 なんか、場が停滞してしまいましたが、さて、どうしましょうか?


 娘さんに伝えたいことはある。だが、俺の言語能力は皆無。伝達能力はほぼほぼゼロに等しい。


 出来ればそのですね。尋ねかけてもらえはしませんかね? 何か伝えたいことがあるの? とか尋ねてもらえれば、俺もジェスチャーで話を進められるわけで。


 む、娘さん。出来ればお願いできませんかね? 俺はそう願うのだが、ちょっと望みは薄いか。娘さんはいまだに混乱しているようだった。ただ、その重症度は少しずつ和らいでいるような。


「……ノーラ、言葉が分かるんだ。そうなんだ」


 現実を徐々に受け入れているといった感じだった。娘さんはぼんやりとそんなことを呟きつつ、俺の顔を見上げている。


 一方でクライゼさんは立ち直るのが早かった。


「……よし。理解した。言葉を理解するドラゴンもいる。世の中は広い。そういうことだ。きっとそういうことだ」


 ちょっと無理やり感はあるけど、俺のようなドラゴンがいる現実を受け入れてくれたようだった。


「ノーラ、少し尋ねたいことがある。いいか?」


 そして、俺と交流を持とうとしてくれている。超ありがたいです。俺はこくりと頷いてみせるが、クライゼさんはまだ現実を消化しきれているわけではないらしい。妙な表情を俺に見せてくる。


「まさかドラゴンと意思を疎通出来る日が来るとはな……いや、それはともかくだ。ノーラ、お前が言葉を理解出来るのは分かった。だが、話すことまでは難しいのか?」


 頷きを返す。クライゼさんは「ふむ」とうなる。


「ならば、お前の意思はこちらで探り当ててやらねばいけないわけか」


 そう! そういうことですよ、旦那! もうね、クライゼさん本当大好き。是非、俺の意思を探り当てて下さいませ。


「お前は昨日今日で人の言葉が分かるようになった。そういうことなのか?」


 否定。首を横にふる。


「ふむ。前から分かっていたのか。だったら、聞かせて欲しい。この危急の時にあって、お前が言葉が分かることを明らかにしたのは、何か意味があってのことか?」


 肯定。頷きを見せる。


「なるほど。では、その意味とは? ……サーリャの助けになりたいと、そういうことか?」


 そう! まさにそれでありまして! 俺はもうぶんぶんと頭を縦にふる。伝わってくれるようにと、娘さんに向いて頭を振りまくる。


 それは、どうやら伝わったのかどうか。


 娘さんはまだ呆然と俺の頷きを眺めていた。そして、小さく呟く。


「……そんな気はしてたの」


 それはどういう意味でしょうか? 俺が首をかしげていると、娘さんはぽつりぽつりとつぶやきを続ける


「そんな気はしてたんだ。ノーラは私の言葉を聞いてくれてるって。それで私を見守ってくれてるって。勘違いだって思ってた。ドラゴンだから違うって思ってた。でも……」


 娘さんは、静かに微笑みを顔に浮かべた。


「嬉しい。勘違いじゃなかったんだ。ノーラはいつも私のことを見守ってくれていて……クライゼさん」


 娘さんはクライゼさんを笑顔で見下ろす。


「私、飛ぼうと思います。ノーラとなら……いえ、ノーラとでも多分ムリだと思います。でも、飛べます。やってみようって、そう思えるんです」


 どうやら、俺の伝えたいことは十分以上に伝わったらしい。


 本当は娘さんには逃げて欲しいけど……そんなことがムリなのは、俺も重々承知している。


 だから付き合いますよ。


 娘さんがここで終わってしまうとして、その最後に少しでも悔いが残らないように。


 さて、正念場だ。


 ドラゴンとして生まれた俺、その意味が問われる瞬間。


 娘さんの騎竜として、俺に出来ることの全てをやってやろう。


 なんて、俺は決意を固くしたのでしたが。


「いや、お前がノーラに乗る必要はないだろう」


 そんな、クライゼさんの反応でした。


 あら? である。ちょっと肩透かし。娘さんもクライゼさんの反応に戸惑っているようだった。


「クライゼさん? あの、どういう意味でしょうか?」


「お前が乗るよりも、ノーラには良い活躍の仕方があるかもしれないということだ。ノーラ、一つ尋ねるぞ」


 クライゼさんが俺を見上げてくる。その瞳には、不思議と切れ味の鋭い光があった。


「お前は単身で飛べるのか? 騎竜としてふるまえるのか?」


 単身で? 娘さんが乗らずに? それはまぁ……やろうと思えば出来るでしょうけど。


 頷きを見せる。クライゼさんは、この人には珍しいニヤリとした笑みを見せてきた。


「そうか。よし。勝機が見えてきたな」


 勝機? 心が踊る単語ですが、えーと?


「勝機ですか?」


 気のせいか、前のめりな娘さんの問いかけ。クライゼさんは楽しげに口を開く。


「単身で飛んで、騎手が乗っているような駆け引きをしてくるドラゴン。そんなものは前代未聞だろうさ。敵勢を撹乱(かくらん)するのに、これ以上ふさわしいものはないだろう」


 撹乱。あ、なんかちょっと分かってきたような。


 娘さんも同じらしい。分かってきた。そして、勝機という言葉が腑に落ちてきたのか。娘さんの瞳に力強い光が宿り始める。


「……ノーラが敵を引きつけてって、そういうことですか?」


「そうだ。ノーラが敵を引きつけて、なおかつ動揺をさそう。お前はアルバに乗れば良い。最高速度で、アイツに勝るドラゴンはいない。ノーラが撹乱するスキをついて、お前は諸侯の陣に全力で飛び込む。出来ないことはあるまい」


 クライゼさんは目をギラギラとさせて俺を見上げてくる。


「どうだ、ノーラ。悪くない策のはずだ。サーリャのためだ、やってくれるな?」


 そりゃ、クライゼさん。んなの、答えるまでもないでしょうに。


 正直、高揚感がすごい。


 俺は勢いよく首を縦にふるのだった。

 

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