後日談5:アルバとアヴァランテ
俺は『おぉー!』なんて感嘆の声を上げることになっていました。
王都のカミールさんのお屋敷、その一室です。かなり広めの一室ですが、集中する環境が欲しいとお願いしたところ、カミールさんが快く貸して下さったお部屋ですね。
さてはて、では集中するといって何に集中するのか? その主体は誰なのか? その答えが俺が感嘆の声を上げることになった相手となります。
『うーむ、さっすがアルバだよなぁ』
俺の視界には、黒色のドラゴンが犬ずわりをしていました。その足元には幾何学模様が踊り、さらに暗い室内には小さく炎の塊が舞っています。
これが答えでした。
この部屋で、アルバが集中して魔術の訓練に励んでいたってわけですねー。で、ついにその実現に成功したと。
『……素晴らしい』
そして、そんな彼を称えるのは俺ばかりじゃありませんでした。喜びによるものか、アルバの尻尾がピーンと天井を突きそうになりましたが、それは先ほどのお褒めの言葉はそういう相手からもたされたものなのです。
アヴァランテさんです。彼女は、キラキラした目をしてアルバを見つめております。
『まさか、この短期間にこれほどの……まったく素晴らしい! 我々だって、幼少から学んで感覚として体得するには年単位が必要だというのにな。アルバはまったく大した才人だな』
俺としても鼻高々になるお言葉でしたが、もちろんアルバはそれ以上でした。だって、はい。彼はアヴァランテさんに明確にほの字ですし。
『そ、そうか? いや、大したことはない。教える者が優れているからこその成果だろうさ』
謙遜はしても、尻尾はゆーらゆらですよ、ゆーらゆら。微笑ましい限りでしたが、アヴァランテさんも同感なのかな? 嬉しそうに目を細められます。
『そう言ってくれるのは嬉しいが、やはり君の実力だろうさ。しかし、本当に面白いな。新芽のように伸びていく様を目の当たりに出来るのは実に面白い。これからも君に教えさせてもらいたいが、それでいいだろうか?』
『あ、あぁ、もちろん! よろしく頼む!』
『こちらこそ。では、私はここで失礼する。次回もよろしくな』
投降した鞍無したちについて、この方も色々とお忙しいので。開けっ放しの扉から、名残惜しそうにこの場を後にされました。
そして、俺とアルバが取り残されたわけですが、アルバは少しばかり興奮した様子で俺に声をかけてきます。
『な、なぁ、聞いたか? アヴァランテ、俺をかなり褒めていたのよな?』
『うん。褒めてた。すっごく褒めてた』
『よしよし……俺はすでに単独で戦うことは出来る。これで魔術も使えるようになったのであれば……そういうことだよな?』
目を輝かせてのアルバでした。そうですねー。アヴァランテさんは、恋愛相手に少なくとも鞍無しドラゴン相当のものを求めておられたので。
単独戦闘がこなせて、魔術が使えるってね。その双方を達成したとなれば、間違いなくアルバの恋路は達成に一歩近づ……いたのは間違いないのだけど。
俺はちょっとにわかに頷くことは出来ませんでした。
そう。近づくには近づいたはずなのです。ただ、明確な一歩かと言えば、なんとも悩ましいところがありまして。
原因はアヴァランテさんにあります。彼女はそのなんと言うか……多分だけど、相当の鈍感さんのような感じがありまして。
俺も援護射撃はしていますし、アルバだってアヴァランテさんと一緒にいる時にはあの喜びようなのです。普通だったら、伝わってもおかしくはないと思うんだけどね。
でも、現実はあの通りです。先生と生徒って、そんな風にしかアヴァランテさんは思っておられない感じなのです。
え? 今なにか言った? みたいなことを、アルバが告白しても平然と口にしてきそうな気配があるよなぁ。
だからこう、アルバの喜びの声には頷きにくいんです。これから先も、彼には大きな苦難が待ち受けているような気がしまして。
だから、うん。ここで俺が口に出来るのは、
『……アルバ。俺はいつまでも君の味方だから』
『あぁ、ありがとう! これからもよろしくな!』
すぐ目の前に、幸せな未来を予感しているようなアルバの様子です。がんばろう、俺。アルバの友人として、最善の努力を尽くすことを俺は己に誓うのでした。




