後日談2:クライゼとサーバス
騎手15騎に、鞍無しを3体。
これが、会戦の中でクライゼの出した戦果だ。
そもそもだが、騎手は敵を墜とした数によって評価されるものではない。
伝え手であれば、伝令を内容を誤ることなく確実に届けることが出来たのか。攻め手であれば、伝令をどれほど妨害することが出来たのか。守り手であれば、伝え手をどれだけ攻め手の妨害から守り抜くことが出来たのか。
そこが評価の基準であった。それほどに、墜とすことも、墜とされることも稀な話なのだ。
そんな騎手の世界において、しかも短時間で終わった会戦の中で成し遂げたこの戦果。一体誰が、カルバ・アルヴィルにおいて最強の騎手であるのか? それを証明するのには十二分なものだった。
よって、戦後の祝宴の場において、クライゼはもちろんその中心で称賛を……とは、なっていなかった。
「あー、どうだ? アレがノーラだが」
彼の姿は祝宴の場にはあった。だが、その回りに人の姿は無く、代わりに一体のドラゴンの姿がある。
クライゼの愛竜たる白竜、サーバスである。彼女は首を伸ばして、カミールの隣にある1つの人影に目をこらしていた。死んだ表情で挨拶を繰り返すノーラの姿を凝視していた。
クライゼはサーバスに請われてこの場にいた。
戦果はすべて、主家たるハイゼ家の政治の材料に過ぎない。自身の活躍にその程度の感慨しかもたないクライゼは、称賛の声などそっちのけで早々に祝宴の場を後にしていた。
代わって向かったのが、ドラゴンの集積地にいるサーバスの元だ。愛竜の側で静かに酒でも味わおう。そう思って、実際そうしていた彼は、とあることを酒がたりに愛竜に話したのだ。
ノーラが人の姿になって、えらい目に合っている。
これが契機だった。どうしてもと請われて、クライゼは祝宴の席にサーバスを連れてくることになった。
(そう言えば、コイツはまだ見たことがなかったか)
クライゼが知る限りでは、ノーラの変化は討論会以来のことだった。よって、物珍しさがあってのサーバスの懇願だとクライゼは理解していた。
しかし、よほど興味があるらしい。クライゼが首をかしげるほどに、サーバスはまじまじとノーラをつぶさに観察している。
そんな時間がしばらく続き、不意にサーバスはクライゼへと声を作ってきた。
「……どらごん。なれる」
ノーラやラナと比べて、サーバスの言葉は流暢であるとは間違っても言えない。ただ、愛竜の言葉だ。言いたいことは、クライゼには十分に理解出来た。
「そうだな。ドラゴンも人になれるのだな」
どうやら、不思議なこともあるのだなと驚いているらしい。クライゼはサーバスの心中について、そう理解した。しかし、
「……なる」
「ん?」
「わたし。にんげん。なる」
クライゼは首をかしげざるを得なかった。
「サーバス?」
「にんげん。なる。くらいぜ。いっしょ」
今ひとつ発言の意図が理解出来なかったクライゼは、サーバスの視線の先に答えを求めることになった。
そこには死に体のノーラの他にもう1人がいた。ノーラを心配してか側にいるサーリャだ。1人来客が去り、彼女はノーラの背中をさすってやっているのだが。
「……ふーむ」
やはり意図はつかめなかった。ただ、なんとなくだ。彼には自身への好意があって、この彼女の発言があったように感じた。
「……まぁ、後でノーラに話してみるか」
悪くない気分だった。クライゼはサーバスの鼻面を優しくなでさすった。




