後日談1:ハイゼとヒース
祝宴の場において、彼は間違いなくその主役の1人だった。
「ははは。どうやらお邪魔ですかな?」
ハイゼがそうして声をかけたのが、その相手だ。娘と同じ金髪の髪を揺らした偉丈夫が、困り顔をハイゼに向けてくる。
「あぁ、ハイゼ殿。失礼。知り合いとの約束がありまして」
ほうほうの体といった様子だった。多くの貴族たちに囲まれていたヒースは這い出るようにハイゼの元へと近づいてくる。
その様子に、ハイゼは苦笑を浮かべるしかなかった。
「やれやれ。昔から人付き合いが苦手な男だったがな」
群衆が去ったのを確認して、苦笑の思いを言葉にする。ヒースは額の汗を拭きながらにため息だった。
「はぁ。そうは言ってもだが、地位が上の連中にあぁも囲まれてだな。得意な人間などそうはいないのでは?」
「はははは。だったら、もう少し活躍を抑えればよかったでしょうにな」
そう、彼は大活躍だったのだ。
起死回生の働きなどはしようが無い戦だったが、それでも抜群の活躍をなした。少数の手勢を持って果敢に敵勢を切り開き、アクスール・カルバの本陣までをこじ開ける英雄ぶりを示した。
「い、いやまぁ、良いところはカルバ勢に譲りましたがな」
彼の弁明に、ハイゼはやはり苦笑だった。
「その配慮もまた、賢将たる風聞を広める一助になっただけだろうに。しかしまぁ、張り切ったもので」
「それは当然。討論会にて、ノーラに良い結果が出るはずだと口にしてしまいましたので」
「それを現実のものにするためと? ははは。まったく貴殿らしい」
単純なほどに人が良いということであった。その辺りが、ハイゼにとっては羨ましくもあれば、物足りないところにも映るのだが、その点はともかくだった。
「ともあれ、終わりましたな」
「えぇ、終わりましたな。やれやれ、これでようやく平穏な日々が帰ってくる」
ハイゼは苦笑を再び浮かべることになった。物足りないところは大いにあるとすべきだと思ったのだ。
「やれやれはこちらの言葉ですぞ。平穏な日々などと、まったく」
「は? いや、問題の多くは片付いたのでは?」
ヒースが目を丸くしてくる。来てよかったとハイゼは思うのだった。そもそも、彼は苦労をねぎらい合いに来たわけではない。今後について、ヒースに1つ釘を差しに来たのだ。
「確かに、カルバ、アルヴィルにまつわる問題の多くは解決しましたがな。ただ、ラウ家が忙しくなるのはむしろここからですぞ?」
「い、忙しくなる? いや、それは何故?」
「決まっているでしょうに。ノーラ……我らが始祖竜殿が原因になるでしょうとも」
ヒースも察したらしい。彼は、凛々しい顔を険しく引き締める。
「……確かに。ノーラはラウ家にはいささか大きすぎる存在でしょうな」
「ここで確認しておきたいのですが、どうされるおつもりかな? ノーラを手放すとなれば、1つ大きな問題は解消されるが」
さすがに答えの分かりきった問いだった。案の定のところ、ヒースは真剣そのものの表情で首を左右にしてくる。
「それは選択肢には入りません。ノーラは我らが騎竜であり、誇るべき家族であれば。カミール閣下が断じてそれを許さぬということでなければ、手放すなどと」
「はは、でしょうな。であれば、ふむ。忙しくなるでしょう。始祖竜殿を置けるとなれば、今の地方の小領主のままではいられますまい」
「あー、やはりそうなりますかな」
「幸い、サーリャ殿はテセオラを墜とした騎手であり、親父度の方はカルバ本陣を切伏せた猛将。カルバと手を結ぶことを画策したギュネイ派の減封などもあれば、土地の余りも多少はある」
「出世するための条件は揃っていると?」
「いかにも。あとはまったく、貴殿の気概次第となりましょうがな」
ヒースの反応は、もちろんの頷きだった。
「私のためであれば、娘のためでもある。ノーラもおそらくそうであれば、気張らざるは得まい」
「左様で。では、はい。まず問題の1つはどうにかなるかもしれないと」
「それは重畳……ん? いや、待て。問題の1つ? 1つとおっしゃったか?」
それはもちろんだった。ハイゼは呆れの頷きを見せることになる。
「それはそうでしょうに。ラウ殿は、サーリャ殿とノーラの仲をどう思われておられるのですかな?」
「サーリャとノーラ? それはまぁ、騎手と騎竜に過ぎないとは言えないほどに……む?」
ここまで言えば察せられるところもあるらしい。ヒースは眉根にシワを寄せながらに答えてくる。
「……そうか。ノーラは人に……ふーむ」
「私には、2人が一緒になることは時間の問題に思えますが、ラウ家殿に反対されるつもりは?」
「……即答はしにくいが……まぁ、2人が望むのであれば。しかし、問題はあー、その後ということになりましょうかな?」
その通りであれば、ハイゼは即座の頷きだった。
「仮に、2人に子供が出来たとすれば、それは始祖竜の子となるわけですな」
「始祖竜の子……軽い響きではありませんな」
「特に、現状のアルヴィルであれば。此度のことで、王家の不甲斐なさは衆人の知ることになりましたので」
「無いとは思うが、この王家であれば始祖竜の子になどと……」
「ははは、無い話では無いでしょうなぁ。ともあれ、始祖竜の子などは政治的な存在感が大きすぎる。様々な政治的な意図、問題に関わることになるのは必然でしょうとも」
「これは……はぁ」
ヒースはため息と共に頷きを見せる。
「察しました。これは、安寧などと口にしてはいられませんな」
「そういうことで。これからが頑張りどころでしょうとも」
「やれやれであるが、ハイゼ殿」
真剣な目をしてのヒースだったが、その意味はハイゼにも分からなかった。素直に首をかしげて問い返すことになる。
「はい? なんですかな、ラウ殿?」
「情けなくも、私には足りない部分が多くありましてな。良ければその、これからも力をお貸しいただけるとありがたいのだが……いかがだろうか?」
それはまったくもって今さらの問いだった。ハイゼは笑みでの頷きを見せる。
「ははは、もちろん。お望みとあれば、力を貸させていただきましょうとも」
サーリャへの思い入れもあれば、ノーラへの友誼もある。そして何より、どこか抜けたところのある手のかかる弟分を、ハイゼは今さら見放すつもりなどは無かった。




