終話:俺と、騎竜はじめました
そして、俺の姿は空にありました。
もちろんのこと、人間verではありません。フライングヒューマノイドではありません。ドラゴンとして空にあります。背中に娘さんを乗せて、騎竜として空にあります。
訓練とは違いました。
理由は眼下にあるのですが、ここ立派に戦場なんですよねぇ。
潮騒が香り、遠くには丸く水平線がうかがえます。ということで、俺は海上にいました。そして、肝心の眼下には島が見えます。
島っていっても、語感ほどに手狭なものじゃありません。全体を視界に収めるのは、相当上昇しても無理かな。広大な農地もあれば、アルヴィル王都にも匹敵するような港町もある。そんな立派な島です。
ここが立派に戦場になっているんですよねぇ。
海上では数十の大型の帆船がにらみ合いを続けています。地上では、湾に上陸した敵勢と、味方の軍勢がこれまた対峙しております。
敵さんはカルバではありません。アルヴィルの南、海を隔てたところにある大国が相手です。
アルヴィルの海上利権への挑戦……みたいなのが、戦争の理由って話でした。
この島は、ちょうどくだんの大国とアルヴィルの間にあるものなのですが、すばらしい立地にあるそうなのです。
貿易の中継地点として、停泊した船舶による利益もあれば、ここに海軍を置けば、周辺海域全体ににらみをきかせられるとかなんとか。
で、ここはアルヴィル領の島であり、そのことによってこの海はアルヴィルの海であるのだとか。そのことが、かねてより南の大国には気に入らないことだったのだとか。よって、ごたごたしているこのスキにって攻め込んできたんだとか。
えーと、うん。
戦争ね、無くならなかったね。俺、まだまだ騎竜である必要あるっぽいね。
まぁ、んなこと考えずに集中しましょう、集中。敵さんはね、決して楽に勝てるような相手じゃないんです。
敵さんにも騎竜がいますけど、それが理由じゃありません。地上にですね、なんかすごいのがいるんですよね、すごいのが。
「アレ……だよね?」
娘さんが呟かれましたが、そうですね。どうにも、アレっぽいですよね。
「アレ……なんでしょうねぇ」
「う、うーん。本当にまぁ、世界って広いなぁ」
ということなのでした。湾に上陸している敵さんですけどね、とんでもないのを連れているんです。
一見すると、それはドラゴンっぽく見えました。ただ、それは俺たちよりははるかにずんぐりむっくりであれば羽が無く、そして、その大きさも……って、ちょ、ちょっと、でかすぎない?
目を疑っちゃいます。明らかにですね、そいつ大型トラックを超える大きさがあるのでした。で、でけぇ。ちょっと現実には存在しちゃいけない生物感がありますよねぇ。
「え、えーと、地竜……でしたっけ?」
「た、確か。本当、でかいなぁ、ドラゴンが子供みたい」
そんなのが三体ばかりいるのですが、う、うーむ。南の大国の、さらに南方らしかったです。そこに彼らの故郷があるらしくて、切り札として今回の戦争に投入されたとか。
決戦兵器の風格がありますなぁ。その体格だけでも脅威というか、体当たりしただけで並の城郭をボロボロに出来そうな。しかもですね、あの地竜、武器はその体格だけでは無いらしく……って、あ。
「「……ひー」」
思わず、娘さんと息の合った驚きを吐露したのでした。
だってもう、ね? ぶわぁって。本当、ぶわぁって。地竜の一体が、豪炎の塊を空に吹かしたのです。圧としては、ドラゴンブレスの3倍ぐらいありそうだけど、アレはやばい。あんなのが直撃したら、一瞬で黒炭になっちゃう。
「アレ、勝てるの?」
娘さんの疑問の声に、俺は納得しかありません。あんなの、戦車みたいなもんじゃん。俺の世界じゃあ、平原で相手に戦車がいたら、こっちにも戦車が無いと対抗出来ないなんて聞いたことがありますが、それに似たようなものを感じるような。
地上部隊に悲しい未来が待ち受けているように思えてならないわけです。幸いというか、空はどうとでもなりそうです。騎竜の数が十分であれば、鞍無しの残党が今は味方として空にいますので。
ただ、地上は本当にヤバい。これはですね、これは、この状況は……
「手助けしないとですかね?」
俺の尋ねかけに、娘さんは沈黙の後に応えられます。
「そうだね。正直、気は乗らないけど」
「で、ですねぇ。でも、見殺しにするわけには」
「一応、期待されてこの戦場に呼ばれたわけだし……よし」
気合を入れて、ぐるりと旋回。眼下ではすでに戦闘が始まったようです。湾からの攻勢が始まり、味方さんがその迎撃に入られますが……やっぱり、地竜ですよね。その突撃が始まり、すでに蹴散らされそうな雰囲気で。
「やるよっ!! なんかもう、どうすればいいか分かんないけど、とにかくっ!!」
「は、はい!! やってやりましょうっ!! どうすればいいか分かりませんけどっ!!」
もうね、気合ですよ、気合。
突撃を敢行します。自分たちの戦歴と実力を信じて、なんとか地竜とやらに対処出来ると信じて。
まぁ、とにもかくにもです。
てっきり、騎竜ではないノーラを追求していかなければならないって思いましたけどね。
しばらくはです。
しばらくは、愛する娘さんの騎竜としてがんばる日々が続きそうですかね、はい。
今まで当作にお付き合いいただきありがとうございます。
想定していた最後にまでたどり着くことが出来ましたのは、全て皆さまのおかげです。感謝の思いしかありません。
今後ですが、後日談として6話投稿を予定しています。終話までの間のお話になりまして、主要人物の今後を暗示するような内容になっています。よろしければお付き合いくださいませ。




