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第32話:俺と、結末

「ど、どういうこと、これ?」


 俺の背中で、娘さんが戸惑いの声を上げられます。


 ほ、本当になんなのでしょうかね? 戦場の空を旋回しつつ、俺もまた疑問の思いでした。 


 決死の思いで戦場に飛び込んだはずなのです。乱戦上等やねん! って、必死の戦場に挑んだはずなのです。


 でも、その結果ですが、えーとヒマです。俺は一応始祖竜的な存在なわけで、敵さんもけっこう群がってきたのですが、そんな現在です。


 なんかですね、地上の敵さんの多くがカルバ本陣に向かい初めてですね。ようするにえーと、裏切り? その結果、守りを固めにゃならんって空の敵さんは慌てて引き返していきまして。


「これ……だったんでしょうか?」


 カミールさんたちの妙な態度の理由はって話です。娘さんは少し間を置かれた上で声を上げられます。


「……そう、だったのかなぁ? え、じゃあ何? 皆さんは知ってたの? 私たちだけ蚊帳の外?」


「ま、まぁ、敵を騙すには味方からって言いますし……」


「う、うーん、そっか。それに、私たち騎手に騎竜だしねぇ」


 その辺りの謀略には本来関わりのない人種ですから。妙な負担を与えたくもなければ、あえて蚊帳の外にしてくれていた可能性も。


 ともあれ、ともあれ。


 上空から見下ろす現状です。この状況はどう考えても……


「有利ですね?」


「だね? 数ではもう、こっちが2倍ぐらいになってそう」


 数的不利はもううかがえません。そして、この展開は敵さんにとって予想の外のものだったようで。驚きによるものか縮こまるような戦いを続けていて、それが原因かすでにほとんど包囲されていて。


 あとはすり潰されるだけってね。そんな様子にも見えます。これは、はい。


「勝った……んでしょうね」


「そう……だと思う。あとでカミール閣下に謝らないと」


 若干頭のおかしい人呼ばわりしてしまいましたしね。これはもちろん、あとで頭を下げさせていただかないと。


 しかし、この先どうしましょうか?


 勝ち確の戦で、俺たちはどうふるまえば良いのか。好きにしてくれと言われていますが、それは戦力としての期待があってのもの。ぶっちゃけ、何かをする必要があるようには思えませんが、一応動いた方が良いような……って、おや?


 旋回する俺の視界に、爆発するような炎のうねりが現れたのです。そこには、うーん? 同時に金色の瞬きのようなものもあるようで。


「テセオラ?」


 娘さんが疑問を呟かれますが、ドラゴンの視力は如実に捉えていました。テセオラみたいですね。今までは虎の子として安全地帯にいたみたいですけど、どうしようも無く前線に引きずり出された感じでしょうか?


 なんて思っているとです。おっと? 確かにです。目が合いました。テセオラは、俺に対し目を細めて笑ったような表情を見せてきました。


『……はははっ!! 雑兵ではな、つまらんのだよっ!!』


 そうして、一直線です。俺と娘さんに向けて、鞍無し共を引き連れながらに突撃してきます。


「あー、サーリャさん。ご指名のようです」


「わざわざ? 今さら、私たちを墜としたところで戦局は変わらないような気がするけど」


「多分ですが……最後に楽しもうとしているのかと」


 絶望的な状況であることが理解出来ないアイツじゃないだろうしね。だから、多分そういうことです。最後の戦いを心躍るものにしようと、そういうことでしょう。


「……付き合ってやる義理は無いけど……まぁね」


 娘さんの指示は迎撃でした。そりゃそうですよね。本当、別に付き合ってやる義理は無いけど、俺たちが付き合うことで味方の損害が減るのであれば、それにこしたことは無いし。


 ということで、最後の戦いでしょうか。


『……ははははっ!!』


 多弁なアイツではありますが、もはや言葉はいらないって感じでしょうか。炎を巻きながら、笑声と共に俺たちに突っ込んできます。


 んで、こっちはいつも通りです。風の魔術で炎に抜け道を作りまして、テセオラの背後を狙います。ただ、向こうさんも狙いは同じようなものですから。お互いの背後を求めて、鋭角に旋回を繰り返すことに。


 うーむ。しかし、こんなテセオラと戦うのは初めてなのかな?


 決死なと言いますか。いつもであれば危ないと思えばさっさと距離を取ってきたテセオラなんだけどね。今日はリスクを省みない迫力のある攻め口を見せてきています。

 

 ただ……まぁ、甘いよな。


 ただただ、経験不足ということなのでしょう。気迫は感じられるものの、軌道のとり方も大回りで、魔術やドラゴンブレスのタイミングも一拍ずつ遅れている感じです。


 こんな戦い初めてだろうからなぁ。そりゃこうなるでしょうが、一方の俺たちはです。こんなのはクライゼさんとの一騎打ちの時から慣れっこですからね。


 すぐに差が現れるのでした。娘さんの適切な軌道取りの成果として、背後を取ることに成功します。


『……ふふ。気迫を込めたところでこんなものか』


 自らの未熟はテセオラも理解するところのようですが……しかし、どうしたもんかね。


 ここから背後を取り返される未来が見えないわけです。娘さんが騎手であれば万が一も無いでしょうし、勝ったって言い切ることも出来るような。


 降伏勧告って、そういう選択肢もありますかね? もはや始祖竜神話なんて無いようなもんですし、となればこいつは俺と同程度の存在に過ぎないわけです。降伏してきたところで、命まで奪うことにはならないような……


『ふふふ。迷いが見えるぞ?』


 俺たちを引き剥がそうと紅蓮を撒くテセオラです。俺をチラリとうかがって目を細めてきました。


『アクスール・カルバは決して助かるまい? であれば私がここで貴殿らに頭を垂れるわけにはいかんな』


 人間を利用できるだけ利用してきたようなテセオラですが、一方でそれだけじゃない思いもあるのですかねぇ? 


『お前もそんなこと思うんだな』


 素直にそんな問いかけをもらします。するとテセオラは、不思議な苦笑の雰囲気を漂わせてきました。


『そうだ、思うのだ。私は決して冷血などではない。それなのに、今回もまた……ん? 私はまたと言ったか? ははは、なんなのだろうな。まったく、これは……ふふふ』


 テセオラのルーツ。あるいは俺と同じようにここでは無いどこかにあったのかもしれませんが……まぁ、そこはともあれか。


 相手には退くつもりは無い。となれば俺は騎竜としての役割に徹するのみです。


 一流の騎手である娘さんには、空の上にて迷いなど無く。容赦ない追撃が続きます。しばしば紅蓮を浴びつつも、風の魔術を駆使しつつ、的確にドラゴンブレスを当てていきます。


 いつしか鞍無しのドラゴンの姿は空に無く、味方の騎竜ばかりが空を埋めて。


 そして、終わりの時が来たようです。


『……そうか』


 俺を含めた複数の騎竜を相手にして、それでも粘り強く抵抗していたテセオラ。その口から、そんな諦観の響きがもれました。


 墜ちます。ぐらりと揺れて地面へ。はばたきも無く墜ちていく。


「……ノーラ?」


 ゆるく旋回しながらに娘さんです。尋ねかけの意図はおそらく、死亡を確認しにいくのかどうか? あるいは、看取りには行かないのか? ってことでしょうが。


「……いえ」


 俺の返答はこうなりました。見えていましたので。アイツも戦を欲した鞍無しの一員だったってことだろうね。最後の一時まで、アイツは空で戦い抜いたってことは分かっていましたので。


 正直、尊敬出来るところはまったく無いヤツでしたが……まぁ、その辺りはね。騎竜として、今後も思い出すことになるでしょうか。


 テセオラの消えた空は眼下にも大きな影響を及ぼしたよです。


 包囲され、それでも陣容を保っていた敵さんですが、これが最後のひと押しとなったようです。見る間に潰れていきます。軍勢としての姿を失っていきます。


「……終わったね」


 娘さんの呟きに、俺も軽く頷きです。そうですね。これで終わりのようです。


 テセオラたち、異界のドラゴンたちをきっかけに起きたこの大騒動ですがね。これがその、終わりの光景みたいです。

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