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第30話【メルジアナ視点】:カルバ諸侯の決断

 カミールの軍勢には、カルバを由来とする部隊が存在した。メルジアナが率いる、旧体制派の残党がそれだ。


 数にして、わずかに千を数えるあまり。その小勢が相対することになったのは、彼らを裏切ったカルバの諸侯たちの軍勢であった。


 皮肉的なめぐり合わせであったが、彼らには裏切り者たちへの復讐を果たすことなど敵わなかった。


 かつての裏切り者たちは数を5千を数えた。よって、はかないものだった。開戦まもなくして、メルジアナ率いる部隊は壊滅することになる。


 その報は、すぐさまカルバ本陣にも伝えられた。旧権力の健在は、彼らにとって大きな懸念だった。アクスール・カルバを含む彼らは、吉報であると大いに喜んだものだった。だが、


「はははは。愉快なものだな。あの連中、さぞぬか喜びをしてくれているだろうな?」


 メルジアナは笑っていた。


 裏切り者たちが率いる5千、その中枢である陣幕の中にあり愉快そうに表情に笑みをたたえていた。


 つまるところ偽報だったのだ。


 彼女の隣には、男の姿があった。彼女最愛の騎手であるレオニールは、同意の頷きを見せる。


「ですなぁ。これが我々が合流するための狂言だとは、連中は気づいてはいないでしょうなぁ」


 そのままの現状だった。


 メルジアナと、裏切り者のカルバの諸侯たちが合流する。そのために、両者が示し合わせての謀略がこれだった。


 そしてだが、それを為す理由はと言えば。


「さて、では会談といこうか」


 彼女の笑みの先には、彼女を裏切ったカルバの諸侯たちが並んでいる。


「で、貴殿らは何が聞きたいのだ? 私と直接会いたいなどどして来たが、一体何を?」


 これは会談だった。カルバ諸侯が今後の動向を決めるためメルジアナを招いたのだ。


 諸侯を代表して、壮年の男が口を開く。


「……やはり、大したお方ですな。謀殺される可能性は考えになられなかったので?」


 いっそ間抜けに響く疑問だった。メルジアナは快活な笑みを返すことになる。


「ははは。この多勢に無勢だぞ? 私を殺そうと思えば、こんな小細工を弄する必要などあるまい? しかし、妙な気分だな。私を裏切った者に、こうも好評して貰えるとは」


 壮年の男は、気まずい顔をしてうつむいた。


「……人物として優れていることは分かっていました。アクスール・カルバなどとは比べものにならないと」


「そう言ってもらえて嬉しいが、私と貴殿らが敵対していることは事実だ。その私に貴殿らは直接会って何を聞きたい? 危急であれば、端的にお願いする」


「もちろんのこと。戦後についてお尋ねしたい。私どもが、総代殿の傘下に降ったとして……扱いはいかようになりましょうか?」


 緊張感しかない問いかけだった。メルジアナはさっぱりとした笑みで応じる。


「まぁ、恨みはあれど、カルバを統治することを思えば人材が足りん。許さざるを得ないだろう」


「それはカミール・リャナス殿も同様なので?」


「そう思ってくれてかまわない。あの方は非常に面白い人物でな。面倒だから、カルバの内政に関わるつもりはないそうだ。誓約書もいただいていれば、一応信頼は寄せられるだろうさ」

 

 諸侯たちに安堵が広がるのを確認した上で、メルジアナは自ら口を開く。


「聞きたいことはそれだけか? であれば、貴殿らの決断を聞かせてもらいたいが」


「では、もう1つだけお願いいたします」


 メルジアナはわずかに目を細めることになる。彼らを代表する壮年の男は、今まで以上に真剣な……あるいは切実な眼差しをして口を開いてきた。


「貴方がたの始祖竜殿は……その、王都で拝見させていただいた通りの始祖竜殿なので?」


「ふむ?」


「我らは……正直なところ疲れました。領地に戻り、その空気になじみ、領民たちを安んじてやりたいと、ただそれだけであります」


「それを許す始祖竜かということか? テセオラのようなことはないのかと?」


 壮年の男を始めとして、全ての諸侯が鎮痛な表情での頷きをみせてきた。その様子に、メルジアナは苦笑を浮かべる。


「不安に思うことは分かる。だが、貴殿らも聞いただろう?」


「あの、聞いたとは?」


「先ほどの開戦の挨拶だ。実に情けないと言うか、言わされてのしどろもどろな内容だったが。そのまんまだ。ノーラ殿はそんなドラゴンだ」


「あー、お優しいお方と?」


「底抜けにな。貴殿らの望みを聞けば、誰かの迷惑にならないのなら別に……って、頼りなげに肯定してくれるだろう。心配はない。彼はな、我らを見守る優しい守護竜だ」


 これで総意が決まったようだった。


 諸侯たちは頷きを交わし、それを見届けて壮年の男は頷きを見せた。


「我らが命、総代殿にお預けします。いかようにもお使い下さい」


 予定通りではあったが、最高の結果だった。メルジアナは、レオニールに笑みで目配せをした上で頷きを見せる。


「分かった。貴殿らの命、このカルバ総代が預かろう。では、早速仕事だ。カミール殿に我らに干渉するつもりは無いようだが、やはり借りを作りっぱなしというのは面白くはあるまい?」


 壮年の男は、鋭い目をして笑みを浮かべてきた。


「は。カルバの人間としては、やはりアルヴィルに借りを作るというのは」


「だろう? では、すべきことは1つだ。アクスールの首は、必ず我らが手で取るっ!! 勇戦せよ、諸君っ!! カルバの意地を、ここで見せずにいかんとするかっ!!」


 そうして、軍勢は動き始めた。


 アクスール・カルバ率いる本隊に、猛烈な勢いをもって襲いかかった。


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