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第29話:俺と、開戦の狼煙を上げさせられてしまう

 どうにもいよいよみたいです。


 カミールさんに行ってこいと言われて、娘さんと共に空に上がったわけですがね。眼下にも、上空にもその様子が見て取れたのでした。


 すでに両軍共に開戦を間近にして陣容を整えつつあるのですが、ざわめきは確実に少なくなっていました。代わって、粛々(しゅくしゅく)とした殺気が地上を埋めているようです。


 上空はと言えば、これはもう分かりやすいです。無数の騎竜に鞍無しが空にあって、ゆるやかに旋回を繰り返しています。臨戦態勢はばっちりって様子ですねぇ。


 しっかし、数の差がひどいよなぁ。


 包囲されないためでしょう。俺たちの軍勢は横一線に陣形を取っていて、相手さんもそれに応えるように幅広にかまえているのですが……厚みがねぇ? クレープ生地とシフォンケーキぐらいの違いがあるよなぁ。もう俺たちペラッペラですよ、ペラッペラ。


「……これで、なんであの人たちあんなに明るかったのかなぁ?」


 娘さんが不思議の思いを口にされますが、本当にねぇ。空の戦力も悲しいほどに差があれば、勝てる見込みなんてさらっさらとしか思えません。


 ただ、今さら逃げる選択肢なんて無ければ覚悟して戦場に臨むしかないのですが……おっと?


 旋回しつつ視界に見えるものがありました。カミールさんがいる、陣幕の貼られた本陣ですけどね。そこで、しきりに軍旗が振られているようでして。


 合図なのでした。そろそろ予定通りに口上を頼むって。


「何を言うのかって、ちゃんと決めてるの?」


 旗は娘さんの視界にも入っていたようで、疑問の声が向けられます。それはまぁ、土壇場で考えていないなんてことは無く。


「えぇ、一応。ただ……大丈夫ですかね?」


 俺は、この状況を生み出した元凶なのです。本当、何を言っても「うっさいわボケ!」ってことになってしまいそうな予感が。士気をだだ下がりさせてしまうような気が。


 娘さんはしばし沈黙をはさまれました。


「……まぁ、うん。頼んできたのはあの人だし」


 責任はカミールさんに取ってもらいましょうってことですねー。


 では、はい。なんかロクなことにならない予感はありますけどね。頼まれた手前、気乗りはしませんが実行させてもらいましょう。


 風の魔力を練りまして……いざ。


「え、えーと、あー、ノーラです! お忙しいところ、あの、すいません! 失礼します!」


 もはや、すでに失敗してしまっているような気が。でも、すでに大音量で戦場中に流しちゃったわけで、注目が集まっちゃってるわけで。


 ざ、残念ながら、後戻りは出来ませんなぁ。仕方ないので、俺は本題の方を言葉にさせていただきます。


「な、なんでもです! カミール・リャナス閣下曰くですが、我々はすでに勝ったも当然のようなんです! なので、あー、気楽に実力を発揮していただければ! 私も、もちろん努力させていただきます!」


 あるいは、こんな開戦を間近にした演説は前代未聞では? 「うっわ、ゆるっ」なんて娘さんがおっしゃっていますが、ですよね。士気を上げる気があるのかって感じですよね。ブーイングものですよね。


 やだなぁ、反応が怖いなぁなんて耳をふさぎたくなるのですが、ドラゴンの耳は眼下の反応を拾い上げてしまうのでした。


 その反応の内容ですが……なんか、こっちもゆるいな。「ははは、任されたっ!」なんて朗らかな声もあれば、「祝勝会でお会いしましょうっ!」なんて、戦後を見据えた気楽な声も上がっていて。


 ……え、なに? けっこう怖いんだけど? なんで皆さん、カミールさんたちと似たような雰囲気をお持ちなの? 実は集団幻覚とか見てらっしゃる? 正気なのは俺と娘さんぐらいだとか、そんな恐ろしい状況であったりしたり?


 怖ぇな、先行き。今日は一体どうなってしまうのかってあらためて思うわけですが、


「聞けよ、諸君っ!!」


 不意に響いた大音量に意識を奪われます。これはアレですね。俺は敵さんの陣容に目を向けます。声音からテセオラのものだって分かるのですが、どうにもです。あちらさんも、俺と似たようなことをしようとしているのかね?


「まず認識してもらいたい! 諸君らには、この私――始祖竜たるテセオラの加護がある! 勝利を得る力は諸君らこそにある! 道理をわきまえぬ逆臣どもを駆逐し、真なる繁栄、安寧をその手に掴むのだ!」


 役者が違うって感じだよなぁ。


 俺とテセオラじゃあね。本当、カリスマ性とか天の地の差があるわけで。ただ、ふーむ? なんか、思ったよりも盛り上がっていない感じなのかな?


 さすがに敵さんの陣容とは距離があるからね。詳細に理解するのは難しいけど、それでも「うぉーっ!!」なんて雰囲気は無いような。


 それでいて、こちらの士気を下げる効果も生んではいないっぽい? 眼下からは、「気取りやがって」とか、「さすが扇動者は言うことが違いますなぁ」とか、テセオラをバカにしたり皮肉ったりする声がけっこう上がっているみたい。


 うーむ。本当、不思議な感じ。多勢と無勢感がなんとも感じられないけど、やっぱアレ? 両軍共に何者かの催眠攻撃を受けている可能性を提唱してもいい感じ? 本当、雰囲気がなぁ。なんか違和感があるよなぁ。


 まぁ、俺の妄想はともあれです。両軍のニセモノの始祖竜が声を上げたところで……いよいよか。


 太鼓の音がドンダカ聞こえてきたけど、前進を告げるやつでしょうねぇ。


 いよいよ、会戦の始まりです。俺と娘さんの役割は攻め手兼守り手です。言っちゃえば遊撃みたいもんか。状況に応じて、墜とされない限りは好きにしろって言われているのです。


 で、この状況で娘さんの選択はと言えば……まぁ、そうなりますよね。


 手綱からの指示は突撃でした。


「出来るだけ敵を引きつけるよっ!!」


 娘さんが叫ばれましたが、はい、もちろん分かっています。地上と同じく、空ももちろん多勢に無勢なわけで。始祖竜もどきの知名度を活かして、味方の負担を出来るだけ軽くしようってことです。


 テセオラの姿が見えたなら、一発逆転を狙っても良かったんだけどねぇ。ただ、向こうさんはどうにも空には姿が見えないし。これがね、俺たちに出来る最善手となるでしょうとも。


 にしても……これが娘さんとの最後の空になるかもなんだよなぁ。


「サーリャさん」


「ん? なに?」


「せっかくです。楽しみましょう」


 俺たちの大好きな空をですねぇ。背後からは、微笑の雰囲気が漂ってきました。そして、


「……ふふふ。当然っ!!」


 では、俺も楽しみつつ全力で娘さんに応えさせていただきましょうか。


 続々と、地上から敵さんのドラゴンが上がってくるわけですが、その空に俺は娘さんと全力で飛び込みます。


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