第27話:俺と、討論会(3)
もうね、人間の姿はちょっと無理。
じゅわんと俺はドラゴンに戻るのでした。ようこそ、慣れ親しんできた四足の感覚よ。安定感違うなぁ。やっぱ、こっちよこっち。俺はドラゴンのノーラだよねって、それを実感するよなぁ。うーん、幸せ。
なんて考えている場合じゃないか。
廊下に立ちつつ思うのでした。えぇい、ままよ! って感じで思うところを思うがままに口にしたのですが……えーと、あれ、本当に大丈夫でしたかね?
不安になり俺は娘さんを見つめることになります。娘さんは笑顔でした。見事に青ざめた笑みを浮かべておられました。
これは、はい。そういうことですかね?
「あ、ああああ、や、やっぱりですよね!? やっぱり、その、ダメでしたかうわぁ!!」
ひぃぃぃっ! でした。俺は前足で頭を抱え込むことになるのですが、そんな俺の横に、娘さんは青ざめた笑顔のままでしゃがみこんでこられます。
「え、えーと、私はね? 私は良いと思ったよ? ノーラらしいなって感動したりもしたよ?」
「で、でもダメだったんですよね? そうなんですよね?」
「ま、まぁ、えーと、その、他の人たちにどう見えるかって考えるとちょっと……そもそも始祖竜であることを否定しちゃったし、頼り甲斐とかは……」
「あ、あああ、やっぱりだ!! やっぱり俺なんかが出るべきじゃなかったんだ!!」
「だ、大丈夫だから! これは私の考えであって、カミール閣下の考えは違ったり……って、あれ?」
娘さんの疑問の声に、俺は顔を上げることになります。どう探してみてもです。カミールさんの姿は廊下のどこにもありません。
「こ、これは……サーリャさん?」
「もしかしてだけど……見放された感じ?」
「ついに愛想を尽かされたって話で、やっぱり……」
「だ、大丈夫だって! 何か急用があっただけかもしんないし!」
「でも、他の人たちも来て下さいませんよ! 様子を見にもいらっしゃいませんよ! これって、やっぱりそういうことですよね!?」
「……まぁ、その。やっぱりそういうことなのかな?」
青ざめた娘さんと、俺は見つめ合うことになります。これは、本当にマズイことをしてしまったのでは?
「は、腹を……腹を切ってお詫びを……」
「い、いやでも! まだ結論を出すには……って、あ、ほら! ほらほら! 来たよ! 来てくれる人、いたよ!!」
俺は娘さんの指差す方向を見つめることになります。そこにはです。親父さんにハイゼさん、クライゼさんと俺の親しい人たちがいらっしゃって。
「良かったね、ノーラ! やっぱりね、最後に頼れるのは身内の人たちだよね!」
「……ううう、うわぁ。皆さん、本当に皆さん。こんな俺のために……うわぁ!」
なんか感激しちゃうけど、いや、非難するためにいらっしゃっただけかもですよね。実際に皆さんは、どうにも変な表情をされていまして。
「……あー、どうしたんだ? お前らしいと言えばお前らしいが、なんだその挙動不審な様子は?」
不思議そうに親父さんでした。返答としてはもちろん、
「いえあの、とんでもないことをしてしまったと嘆くしか無くて」
「とんでもないこと?」
「そうですよね? 大失敗ですよね? 皆さんあの、それで非難されにいらっしゃったんですよね?」
そうだとしか思えないわけですが、皆さんは不思議そうに首を顔を見合わされました。
「こんなことを言われたのだが……あー、ハイゼ殿?」
「ふーむ、これはそうですな。大失敗。この1人に1体には、そう思えたようですが、クライゼ?」
「……まぁ、観衆であった我々とは、感じるところが違ったのかもしれませんな」
それぞれ、そんなことをおっしゃられたのでした。えーと? なんかですね、どうにもお三方は俺と娘さんとは別の見解をお持ちっぽい?
「大失敗……ですよね?」
尋ねさせていただきますと、親父さんは苦笑で俺に近寄られました。そして、ポンと俺の鼻に手を置かれて、そのまま撫でて下さいます。
「お前のようなドラゴンが何故当家に来てくれたのかは分からんが……ははは。今日ほどそれが誇らしく思えた日は無かった。良くやったぞ、ノーラ。良くやった」
どう解釈しようにも、これは褒められていると受け取らざるを得ませんでした。えーと、んーと? 説明が欲しいところでしたが、ここでハイゼさんが笑顔で口を開かれます。
「お前にしか出来ない虚栄の剥がし方だったな。テセオラと同等の存在が、しかし自身の神秘性を完全に否定したのだ。言葉を操り、魔術を使い、人に成れる程度のドラゴンに過ぎないとな。これはな、間違いなく大きかったぞ」
どうでしょうかね? とか思っていますと、クライゼさんが頷きを見せられました。
「そういうことになる。それに、お前とテセオラの違いは、諸侯に大きく響いただろうな」
「えーと、違いですか?」
「俺にもよく分かった。俺たちについて語るお前とテセオラを比べればな。人間を愛する存在と、口ではそう言うだけで実際には眼中にも入れていないような存在。その違いを確かに感じ取れた」
ここで親父さんです。満面の笑みで頷きを見せられます。
「どちらが本当の始祖竜か。人類の守護者であるのか。お前が否定してもな、それはまったく歴然だったぞ」
「は、はぁ。よく分かりませんが……では、他の方々がいらっしゃらないのは?」
「この機を逃すわけにはいかんからな。友人知人への働きかけに精を出しておられるのだ。私たちは身分も低ければ、そこまで知り合いはいないからな。こうして、お前をねぎらいに来ることが出来たわけだ」
であれば、カミールさんもそういうことなのでしょうか? アレクシアさんやアルベールさんも、そういうことなので?
……失敗じゃないの? 本当?
俺は娘さんと再び顔を見合わせることになります。やっぱ実感としてはね? 失敗としか思えないなって、そういうことで。
親父さんは再び苦笑を浮かべられました。
「どうしてそう不安がっているのか分からんが……まぁ、すぐに分かるだろうな。お前がどれほどのことを成し遂げたかは、すぐに分かる」
と言われても、ひっでぇことを成し遂げた実感しかありませんので。
俺は娘さんと共に、不安の思いで首をかしげるしかないのでした。




