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第25話:俺と、討論会(2)

 頭頂部の寂しさに思いをはせている場合では無いのです。


 諸侯がとんでもなくざわめいていますが、そういう状況を作り出せたのですから。


 テセオラに向き直ります。アイツは笑みでした。ただ、今までのような余裕はそこからはうかがえません。


 そりゃそうでしょうとも。互角とは言えないけどね。でも、人間に成れるという点での有利はそこそこ打ち消すことが出来たわけですから。


 あとは本当、俺次第か。ここはね、ふふふん。割と自信があるところでした。カミールさんはともかく、ハルベイユ侯はこの討論会に非常に前向きだったので。皆さんを巻き込んで、予行練習に相当取り組んできたのです。


 いざ、あの戦争狂を糾弾(きゅうだん)してやろうじゃないですか!! とか思って、早速口を開こうとし……ん?


「げ、げほげほ、ごほ」


 結局、もれたのは嗚咽(おえつ)でした。だってその、ね? 人間として肺を酷使するのは久しぶりも良いところだし。声を出す感覚なんて、正直覚えてないし。


「……ふふ、慣れていないのだな。気持ちは分かるぞ」


 そして、テセオラに同情してもらえたのでした。だよね、最初は戸惑うよねってニッチな共通の話題に花を咲かせたくもなりましたが、いや、そんなこと考えている場合じゃないか。


 俺は慣れない表情筋で目を細めることになります。不可解というかなんというか。テセオラの様子ですがね。失われていたはずの余裕が蘇っているような感じでして。


 アイツはニコリと余裕の笑みを深めてきます。


「失礼した。偽のなどと口にしてしまったが訂正させてもらおう。貴殿は立派に始祖竜であるようだな」


 そしての、この発言でした。わーい、始祖竜と認められたぞー……とは、ならんわな。


 ちょいとね、嫌な予感というか嫌な実感があったのです。そう言えばですが、俺が行ってきた予行練習ですがね。始祖竜と名乗ったところでアホを見るだけなので、あくまでアルヴィルのいち員としてテセオラを糾弾するというものでして……


「では、聞こうか。始祖竜ノーラ殿。貴殿は始祖竜としてどう人々を導くつもりだ? そこにある方策、そして気概。是非とも、お聞かせ願いたい」


 冷温停止せざるを得ませんでした。うわー、こんなの予定と違うぅうぅ。


 テセオラの余裕の原因はこの辺りにって、そんなことは無いでしょう。俺がどんな練習をしてきたかと、アイツは知らないし。多分、俺程度であれば簡単に風格勝ち出来るって、その辺りが余裕の理由なのでしょう。


 ただまぁ、困った。


 想定問答集にこんなパターンは無かった。本当、どうしようなぁ。始祖竜としての方策だとか気概だとか、そんなの俺の中にはさっぱり無いし。周囲の諸侯に響くような言葉なんて、どう絞りだそうにも……って、ん?


 俺は振り返ることになりました。肩に柔らかな感触を感じたのが理由で、それは娘さんの手でした。


 娘さんは俺にほほ笑んでおられます。んで、さらには「だからお前には期待などしとらん」とカミールさんの呟きが耳に届きます。


 ……ふーむ。まぁ、そうですよね。人間に成れたからって、自分に期待し過ぎましたかね。


 しょせん、俺はノーラなわけです。前世もアレで、今世でもけっこうアレなざこざこドラゴンに過ぎません。皆さんと練った戦略もおじゃんになったわけだし、ここはね。なるに任せるしかありませんかね。


 俺は娘さんとカミールさんに頷きを見せます。その上で、余裕の笑みのテセオラに向き直ります。


「……あー、ごほ。うん、あーと……君はどうなのかな?」


 テセオラはわずかに首をかしげてきました。


「それは、私に対する疑問か? どうなのかとは、どういうことかな?」


「いや、単純に君の言葉が聞きたいだけだよ。どうにも俺には、君が人々を戦乱に叩きこみたいようにしか見えないけどさ。それを人々のためって言えるのは何故かって、そこが気になって」


 割と、想定問答が活かされた発言になりました。この切り口で、テセオラの本性を露わにしてやろうってのが俺たちの戦略だったからね。


 俺に尋ねてきた手前、この疑問に答えないなんてのはなかなか難しいはずです。実際にテセオラは、「なるほど」なんて呟いた上ですぐに応じてきました。


「まずだが、我が意思のすべては、私に始祖竜としての加護を求めたカルバ王家、及びアルヴィル王家のためにある」


「うーん? まぁ、とにかく君はカルバ、アルヴィルの人たちのために行動しているってことで良いのかな?」


「その通りだ。よって、戦乱に叩き込むなどとは邪推もはなはだしい。アルバ、アルヴィルの両国は潜在的な戦乱の危機に常に怯えているようなものだ。それを解決し、両国を真の平穏に導く。それが私の始祖竜としての使命であり、私には全身全霊でそれを成し遂げる覚悟がある」


 とのことでした。


 ちょいと俺は観衆に視線をさまよわせることになります。これ、カルバ、アルヴィルの貴族さんたちにはどう響いているだろうなって。


 年代層でかなり反応は違いそうでした。若い人たちはけっこう感化されてるっぽい? 大きな理想を見せられて、なんかその気になっているっていうか、興奮で顔を赤くして頷いている人なんかもいて。


 一方で、年かさがいっている人の多くはうん。なんとも言えない表情をしている人が多いかなぁ。


 そりゃまぁ、そもそもがそれなりに平穏だったもんね。カルバ、アルヴィルも隣国の宿命として喧嘩はしながらも、それなりの関係を保っていたわけだし。他の周辺諸国とも、それなりの関係を築いていたみたいだし。


 若者みたいに夢を見られる気力、体力も無ければ、現実も見てきてこなれているわけで。なーんで戦争なんてせにゃならんのだって、そう思っている人も多そうな感じが。


 ただ、そんな彼らもテセオラに従っているのだ。始祖竜のある種の魔力に従わされているのだ。


 これ本当、どないすればいいですかねぇ? 俺はどう振る舞えば正解なのかって話ですが、あ、次は俺ですかね? テセオラはニヤリとした笑みを浮かべてきた。


「さて、ではそちらの始祖竜に答えてもらおうか。貴殿は始祖竜として、カルバ、アルヴィルの人々に何を与えることが出来るのだ?」


 さーて、さてはて。


 ここでどうするべきか。テセオラみたいに、我が意思は! なんてカッコつけて、カルバ、アルヴィルの人々のためにうんたらかんたら! って、仰々(ぎょうぎょう)しくそれっぽいことを口にするべきなのか。


 まぁ、無理だろうけど。


 俺はねぇ? テセオラみたいにカリスマっぽいのは無いから。カッコつければつけるほど、みじめというかマヌケに映ることだろうし。それっぽいことをそれっぽく言えるような雰囲気や話術なんてものもさっぱり無いし。


 カミールさんはお前に期待してないっておっしゃっていましたが、俺も自分には期待出来ないなぁ。だから、そうね。もう、思うままに話させてもらうしかないかな。


「……あー、そもそもだけど、俺は別に始祖竜ってガラじゃないから」


 どうやら、予期せず意表を突くことになったっぽい? テセオラは分かりやすく目を丸くしてきた。


「なんだと? 始祖竜であることを自ら放棄するのか?」


「いやいや、そもそも放棄も何も無いというか。俺のどこが始祖竜なのかって話でさ。そりゃまぁ、しゃべるよ? 魔術は使えるし、人に成れるよ? でも、だからどうしたって話に正直なったりしない?」


「……ふむ」


「そんな大したことは出来ないよ。実際、俺なんて大した存在じゃないし。大したことがあるって言うんだったら、俺の回りの人間さんたちの方がね。間違いなくはるかにすごいよ。大したことが出来るよ」


 俺は自分の言葉に頷くのでした。本当ねぇ。大したことがあるのは俺なんかじゃ全然ないよね。


「俺はハルベイユ侯領のラウの育ちだけどさ。周囲にいる人たちだけでも本当そうだよ。娘さん……ラウ家のサーリャさんもそう。ヒースさんもそうであれば、クライゼさんにハイゼさんも。ハルベイユ閣下だってもちろんなぁ」


 ひと悶着あった人たちもいるけど、本当素晴らしい人たちだよねぇ……って、おっと。背中を不意に小突かれたみたいで、振り返ればそこには仏頂面のカミールさんがいらっしゃって。俺は思わずの苦笑でした。


「わ、分かってます、分かってます。カミール閣下ももちろんそうであれば……アレクシアさんにアルベールさんも本当素晴らしい人たちで。カルバの方だったら、メルジアナ閣下にレオニールさんも。本当、人間の世界のことにね、俺なんかが口をはさむ余地なんか本当に無いっていうか」


 それが非常に正直な俺の感慨でした。人間の世界のアレコレに、俺なんかまるで必要ないってことで。少なくとも、偉そうに口を挟む余地はね。


「だからまぁ、俺に出来ることがあるとすれば……そうだな。協力するぐらいだろうね。言葉を使えて、魔術が使えて、人に成れる……そんな騎竜として、大切な人たちの出来る限りの力になる。それが俺に出来る精一杯かな、うん」


 始祖竜でもない騎竜のノーラにはね。本当、出来るのはそこまで。人間さんたちの力になるって、本当ただそこまで。


 しっかし、本当に予想外だったっぽい? テセオラは眉をひそめて黙り込んでいた。そして、


「……貴殿が始祖竜で無いのであれば……これ以上の討論は無意味であろうな」


 まぁ、始祖竜としての正当性、格を競うって展開にはなりようが無いし。不完全燃焼って感じでした。テセオラは妙な表情のまま、俺たちに背を向けます。んで、大広間を立ち去ろうとしまして、そうなると俺たちもね。


「出るぞ」


 カミールさんがそうおっしゃって従うことになります。妙な沈黙が支配する大広間を抜けて廊下へ。そして……ふぅ。


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