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第26話:俺と、討論会(1)

 んで、やってきました討論会です。


 舞台は王宮の大広間となります。普段は、舞踏会やら戴冠式やらの儀礼で使われる場所だそうです。ドラゴンが楽々入れて、諸侯も多く集まることが出来て、さらには格式があってなんて、選択の理由はそんなところだそうで。


 その廊下に俺はいました。一応、今回の主賓(しゅひん)というか主役ですからね。紹介を受けて堂々と登場という手はずになるのですが……え、えーと?


「ふーむ」


 俺はしかめ面のおっさんに表情をうかがわれているのでした。いやまぁ、おっさんと呼ぶのは失礼か。その当人はカミールさんでした。何か思うところがあるらしく、ジロジロと俺を見つめられているのです。


「ど、どうされました?」


 問いかけます。すると、カミールさんは再び「ふーむ」なんてうなられた上で口を開かれます。


「お前らしく無いな」


「は、はい?」


「お前のことであれば、こんな日にはもっと挙動不審になるかと思ったのだがな。逆に不安になる。どうした、お前? 何かあったか?」


 逆にってどういう意味ですかって感じですが、何か起きたかと言えばまぁ。俺はカミールさんの隣に目を向けます。そこにはですね、我が最愛の騎手さんがいらっしゃるわけでして。


「あはは、別に大したことはね。無いよね、ノーラ?」


 笑顔で娘さんでした。俺的にはなかなか大したことだったんですけどねぇ。相談したことも、好きなんて口走ったことも。


 やっぱり冗談として受け取られたのでしょうかねぇ? その辺りはちょっと気になったりするのですが、それよりも今ですね、今。大事なのは今です。


「まぁ、はい。我ながら落ち着いているような気も」


「うーむ、違和感があるな。ただまぁ、別になんでもいいがな。今日のこれは一種の茶番だ。適当にふるまって、適当に楽しんでこい」


 多分、これがこの人なりの優しさなんでしょうねぇ。で、この方はもっと分かりやすく優しい人でありまして。


「ま、気を楽にね。あとは閣下がなんとかしてくれるでしょ、多分」


 笑顔で娘さんでした。カミールさんも「そうなる」なんて頷いてくれて、うーむ。本当、皆さん優しいなぁ。


 ただ、俺はこの機会を茶番で終わらせるつもりは無かったりしまして。しかし、さぁて。上手くいきますかねぇ。寝て起きてから忙しかったもので。予行練習すら出来ていませんが、さてはて。


「……失礼。では、そろそろ」


 本番について考えているとです。男性が一人寄ってきて、そんなこと告げてきたのでした。


 時間だから入れやってことみたいです。カミールさんが頷きを見せられます。


「では、入ってやるとしようか。行くぞ」


 近場のコンビニに向かうよりも力感の無いご様子でした。緊張感もまたさっぱり。娘さんはと言えば、さすがにそこまでの様子ではありませんでした。俺に対し、やや固めの笑みを見せられます。


「……さぁてだねぇ。ま、とにかく行こっか?」


 ま、ここから尻尾を巻いて逃げる選択肢はありませんからね。俺もなんだかドキドキしてきましたが……さて。


 使用人さんたちが両開きの扉を開け放ちます。それでは、はい。大舞台へ乗り込むとしましょうかね。


 踏み入れれば、そこには贅の限りを尽くした大広間が広がり……とか、さすがに悠長に観察している余裕はありませんでした。


 100を軽く超える数の人たちが広間にいて、その中には俺の知り合いの方々も大勢いらっしゃるはずなんですけどね。ハルベイユ侯やら、親父さんやら、ハイゼさんやら。クライゼさんもいらっしゃるとか。アレクシアさんにアルベールさんもまた当然。


 カルバ組からはメルジアナさんとレオニールさんもね。いらっしゃるはずなんです。ただ、見つけだして『いぇーい見てるー?』なんて、する余裕なんかはちょっとね。


 やっぱ目の前に意識持ってかれるよなぁ。


 対面の大扉からです。数人を従えて、一体のドラゴンが現れたわけですので。


 相変わらず目立つヤツだな。暗めの金色の鱗がキンキラ光っているのですが、今回の主役の1人ですよね。ドラゴンルックのミスター・テセオラの登場というわけです。


 んでまぁ、早速でした。


 観客たちから「おぉ……」なんて畏怖(いふ)の声が上がりましたが、そういうことです。気がつけばドラゴンの姿は認識できなくなり、いつしかそこには人の姿がありました。


 以前に見たことはありますが、まともに目の前にするのはこれが初めてかな? 豪奢(ごうしゃ)な衣服をまとった勇壮な男が、泰然(たいぜん)として俺の視線の先に立っています。で、そいつはニヤリなんて俺に笑みを向けてきました。


「よくぞ参られた、偽の始祖竜殿。真なる私が歓迎しよう」


 開幕マイナス秒でジャブ打ってきやがりましたね。いや、フィニッシュブローか? 人に転じることの出来るテセオラとそれが出来ない俺。この時点で勝敗は歴然だからねぇ。そらみんな、始祖竜っぽいのはテセオラって思うでしょうとも。


 ただ……くっくっく。余裕たっぷりのところ申し訳ないけど、そうは問屋が下ろさないわけです。


 今日の俺は一味違いますからね。多分ね。忙しかったし不安で実際確かめる気になれなかったけど、違うはずだからね。違って欲しいところだからね。いや、本当どうかなぁ。違ってくれるといいなぁ。


 ということで、はい。


 喉がカラッカラなんでお水下さいって言葉にするよりも先にです。ちょっとあの金ピカヤロウにカウンターをお見舞いするとしましょうか。


 きっと周囲からは俺の姿が揺らいだように見えたはずでした。


 俺も実際そんな感じでしたし。自分が何者でもなくなったかのような妙な不安感。しかし、それは一瞬。すぐに実感が実体と共に取り戻されるわけですが……うわ、なにこれ。ちょう吐きそう。


 お久しぶりです、人間の俺。身に染みた4足(よつあし)の感覚はさようなら。2本の足で立っている感覚が確かにありました。


 そして、表皮の感覚がすんごい。鱗が無いって、こんなにも不安になるのかって、いかんいかん。裸はあかん。テセオラを参考にするならば衣服も実体化出来るはずで、ここはえーと、えぇい適当よ。適当に荒布をかぶっておくことにします。


 ともあれ、これでノーラ人間バージョンの完成……なのかな? 低くなった俺の視界では、テセオラが目をまん丸にしていました。


「これは……驚いた。これは予定に無かった」


 でしょうねーって感じです。どうやらカウンターは見事に成功したようですが、えーと、なに? テセオラは真顔で首をかしげてきました。


「しかし、何だその姿は? 実に中途半端に見えるが」


 はて? なんて思いましたが、すぐに理解しました。腕を目の前にかざすとですね、そこには白い肌に混じって鱗が確かに存在していて。


 さらに、よくよく自身に意識を向けると……なんですかね? 尻尾が生えてるような気配もって言うか、あぁ。あるね、あるある。尻尾があって動かせて、その先端を視界に持ってくることも出来て。


 中途半端って言われたけど、本当にね。ドラゴンへの執着が存分に出た姿になっているようです。これは、うーむ。怪物じみていると言わざるを得ませんが、でもこのぐらいの方が、ある種神秘的に見えて有利に働く可能性が……って、ぐげ。


 丈夫な鱗が恋しくなったのですが、にわかに背中に衝撃と痛みが走ったのがその理由です。振り返れば、そこには手を振り下ろした格好のカミールさんが無表情に立っておられます。


「……お前はなぁ。そういうことが出来るなら先に言わんか、先に」


 どうやら文句をおっしゃりたかったみたいです。その気持ちは大いに分かるのですが、俺にもね、事情があったんですよ事情が。


 しかし、うん。気になるのはね、俺が本当に気になるのはもうおひと方の反応ですよね。


 恐る恐るうかがうわけですが、あの、そこにある感情は何なのですかね? 


 娘さんもまた真顔でした。腕組みの真顔で首をかしげておられます。


「……ふーむ。あんまり容姿が悪い、容姿が悪いなんて言うからなぁ。正直、どんな見た目なんだろうって思ってはいたけど」


 そんなことをおっしゃられて、不意に笑顔でした。いつもの笑顔で俺の肩にポンと手を置かれます。


「なんだ、全然良いじゃないの。やっぱりノーラだなぁ。自己評価が低すぎだってば」


 なんかもう、ほっと安堵の息でした。でも、大丈夫? 頭頂部とか大丈夫? 死んでからけっこう時間が経ったわけだけど、立派に経年劣化とかしてない? ハイゼさんを踏襲したりしてない?


 ふ、不安だ。でもまぁ、そんなことを気にしてる場合じゃないか。

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― 新着の感想 ―
[一言] なんだろう…これじゃ人というよりリザードマンやねw
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