第21話:俺と、討論会への誘い
「ということだ。がんばれ」
ハルベイユ侯のお屋敷の前です。そこには、俺に娘さん、そしてハルベイユ侯にハイゼさん、カミールさんがいらっしゃいます。
で、俺は首をかしげているわけでした。がんばれとはカミールさんの発言でしたが、そのつまらなそうな表情をまじまじと見つめてしまいます。
「……えーと? その、もう一度おっしゃっていただきますと……」
「だから、テセオラとお前で討論会が開かれることになった。がんばれ」
いや、ですからね? 討論会ってその……はい? 疑問は俺だけのものじゃありませんでした。娘さんが眉をひそめながらに口を開かれます。
「あのー、説明不足は閣下の悪癖であるような……討論会? テセオラとノーラがって、あの?」
「俺も、まだよくは理解してはおらんぞ。カルバの連中がいきなり使者を寄越してきてな。なんでも、テセオラとノーラ、どちらが本物の始祖竜なのかと競わせたいらしい」
「は、はい? いえ、別にどちらも偽物ですよね?」
「気が合うな。俺も使者にそう言ってやれば妙な表情をしてきたが……まぁ、そこはいい。とにかく連中はそれがしたいらしく、そのために休戦も申し出てきたぐらいだ」
「え? この状況で向こうからですか?」
「そのぐらいにはやりたいそうだ。俺たちを含めたアルヴィル・カルバ全土の諸侯を集めて、その前で本物の始祖竜を決めたいってな」
一応です。なんとなく理解は出来てきました。カルバ側はテセオラに対し、俺を偽物の始祖竜だって貶めたいのかな?
俺は首をかしげることになりました。えーと、はい? それってあのですね、正直なところですが。
「それって……意味はあるんでしょうか?」
俺の思わずの発言に、カミールさんは「うむ」なんて頷かれました。
「お前とも気が合うな。実際、俺もそれを尋ねそうになった」
「で、ですよね? 今さら、私を貶めたところで……」
「なぁ? 大勢は決している。それで情勢が動くことはあるまい」
「あー、はい。やっぱりそうですよね?」
「まったくの無意味とは言わんがな。諸侯を集めてのということに意味はあるだろう。テセオラを衆目にさらすことで、自勢力の結束を固め、俺たちから裏切り者を出すことが出来るかもしれん」
「でも、正直わざわざと言いますか……」
「停戦などとして、こちらに準備する時間をくれるわけだからな。さらには、テセオラを暗殺する機会にだってなり得るわけだ。無駄とは言わんが、あえて行う意味は見いだせん」
俺は頷きを見せることになります。本当、わざわざする意味がって話で。向こうさんは圧倒的に優位にあるわけですし、こんな小細工の必要性なんてさっぱり無いような。
「まぁ、話している内になんとなく察しはついたがな」
しかし、このカミールさんの発言でした。俺は目を丸くすることになります。
「え? じゃあ意味があると?」
「どうにも、だ。連中は俺を降伏させたいようなのだ」
「降伏ですか? どちらかと言えば、テセオラは閣下を強敵として楽しみそうですが」
「その辺りは知らんが、とにかくそうらしい。そしてだが、連中は俺がお前に心酔していると思っているようでな」
「……へ?」
ちょっと何言われたのか分かんないって感じでした。娘さんも「は?」なんて漏らされていますが、えーと?
「誰がその、何に心酔と?」
「だから、俺がお前にだ。だからこそ、テセオラを認めるわけにいかなければ抗戦を決意し、始祖竜の加護を持つと士気軒昂だってな」
「…………」
絶句しちゃうわけでした。だって、その、ねぇ?
「え、なんですか、その怪情報?」
絶句明けに驚きを吐露することにもなりました。カミールさんが俺に心酔だなんて、フェイクニュース極まりないですし。
カミールさんは「まったくだ」と深く頷かれます。
「お前には恩もあれば、敬意は一応持っているつもりだがな。ただ、心酔はなぁ?」
「は、はい。心酔は……ですねぇ?」
「無いわな。ただ、ここから面白いことが分かる。そんな話は噂にもなかったはずだからな。誰かいるわけだ。そんな怪情報を、カルバにあえて吹き込んだヤツがな」
わずかにカミールさんの目つきが鋭くなったようでした。これは、俺には縁遠い世界の話でしょうが。
「なにかしらの謀略があると?」
「恐らくな。カルバにはさして意味を為さないはずの討論会なんぞを、知恵を持って実現させたヤツがいる。それがアルフォンソなのか、あの跳ねっ返りの王女なのかは知らんが……なんにせよ、これはカルバのためになる話じゃあ無い」
「我々のためになると?」
「その視点から考えると、討論会には別の思惑が見えてくるわけだ。だからこそ、お前に伝えたがんばれに繋がってくるわけだが」
ちょいと俺は黙り込むことになりました。これはその……な、なんか嫌な予感がしてきたなぁ。なんか、すごいことを任されそうな予感がなぁ。
「そ、その思惑とやらをお聞きしても?」
「1つには、テセオラの本質を衆人環視にさらすことだ。平穏から遠く戦いばかりを望むって感じなんだろ? それを諸侯たちに知らしめようって話だ」
「ではあの、2つ目の方は?」
「頼るべき始祖竜は別にあると示す……と、なるだろうかな」
「頼るべき始祖竜?」
「テセオラに反旗をひるがえしても、自分たちをより良く導いてくれる。また、勝利をもたらしてくれる。こう思える存在があるってな。この2つを示すことが出来れば、あるいは情勢が変わる可能性もあり得るだろうさ」
なるほどとはなりました。確かに、その2つを示すことが出来れば、諸侯の心がテセオラという始祖竜から離れ、頼るべき始祖竜の下にまとまる可能性はありそうですが……
問題はそうですよね。その頼るべき始祖竜ってどなた? って話でありまして。
「まさかあの……その頼るべき始祖竜って……」
「お前の他に誰がいる? だから、がんばれってな。テセオラの本性を白日の下に晒し、頼るべき真の始祖竜の姿を見せつけてやってくれ」
あ、やっぱりなんて思うわけです。
ただもちろん『では任された!!』なんて心境とはほど遠いのでありまして、
「は、はいぃぃっ!? わ、私がですか!? そんなちょっと無茶ですよっ!!」
当然異論を挟ませていただくことになります。俺のことをもっともよく知る騎手さんも同意見のようでした。娘さんは何度も同意の頷きをカミールさんに見せられます。
「そ、そうですそうです!! ノーラはそりゃ素晴らしいドラゴンですけど、そんな多弁じゃないですし、ひと目で人を惹き付けるとかそういう魅力を持つ子なんかじゃ……っ!!」
「分かっとる分かっとる。俺もノーラのことは信用しているが、それが出来る類じゃ無いことはよぉく分かっとる。ただ、ハルベイユ侯がうるさくてな」
へ? っと、俺と娘さんはハルベイユ侯に視線を移すことになります。今までむっつりと黙りこんでおられたこの人ですが、頷きと共に口を開かれました。
「うるさいとは心外だが、この件をノーラに伝えるように言ったのは私だ。なにせこの男、当日に伝えてノーラを驚かせてやろうなどとほざいていたからな」
俺はこの発言を胸中で咀嚼した上で、カミールさんに顔を向け直します。
「えーと……カミール閣下はまったく期待されていないご様子なのですか?」
「当たり前だ。お前が朗々と口上を述べられるようなタチじゃないことはよく知っているからな。それに何より、だ。人に転じるテセオラと、それが出来ないお前だぞ? 始祖竜を自称するドラゴンとして、同じ土俵にすら上がってもいないだろうが」
胸にズキリと来るものはありましたが、まったくもってその通りでした。俺じゃあ、始祖竜比べでテセオラに勝てる道理は無いのです。ただ、ハルベイユ侯は呆れの目つきを見せられます。
「それはその通りだ。だが、誰によるものかは知らんが、もたらされた起死回生の機会なのだ。すがらないわけにはいくまい」
そうして、ハルベイユ侯は俺を見つめられるのでした。
「お前次第で事態は大きく好転する。どうだ? 努力をしてはくれんか?」
この努力の意味はさすがに理解出来たのでした。テセオラと同じ土俵に立てるように……人化出来るように努力してくれないかということでしょう。
「……その討論会とやらは、いつ開催されるのですか?」
猶予はどれだけあるのかって話ですが、その答えは、
「20日だ。20日後に、アルヴィル王都の王宮にて開かれる。いけるか?」
んなこと聞かれてもって感じでした。20日後って決まっているのであれば、もうねぇ?
「ノーラ?」
娘さんが心配そうに俺の顔をうかがってこられます。この人の心配は、大役を背負わされて大丈夫だろうかってところでしょうが、ともあれうーむ。
戦力比を考えれば敗北は必至。俺はもとより娘さんが戦死なんて可能性は大いにある。さらには生き残ったところで、テセオラによって悲惨な戦争の渦中に向かわされることは間違いない。
となれば、はい。
選択肢なんて……俺には無いよなぁ。




