第19話【アルフォンソ視点】:テセオラ(2)
テセオラは意味深な笑みのままで口を開く。
「ほぉ? どうやら、貴殿らは私たちについて色々とご存知のようですな?」
「ふふ。それはもう、カミールと懇意でしたので」
「その点については誤解だと言わせていただこう。我が闘争は、全て守るべき人々のためのものであれば」
「そうであれば、まったくありがたい話ですが……では、カミールを味方にされたいというのは? これ以上、戦火を広げぬための気遣いということで?」
「ははは、残念ながらまだその時期ではありませんが……彼が必要であるのは、やはり戦力が必要であればということになります」
「戦力?」
「そう。大きな戦をするためには、優れた将はいくらあっても困ることはない」
不穏極まりない発言だった。やりとりは全てケーラに任せるつもりのアルフォンソだったが、さすがに黙ってはいられずに口を開く。
「ほほぉ? 大きな戦と? そのような予定がおありで?」
「それはもちろん。カルバ・アルヴィルには、四方に潜在的な敵国がうじゃうじゃといるようですからな」
「ふーむ。潜在的な敵国ですか」
「向こう100年、いや1000年の平和を考えれば、この機会に討ち果たしておくに限りますからな。そのためにはやはり、戦力は必要ということになりましょう」
「それがカミール・リャナスと?」
「彼はもとより、彼の旗下には優れた人物が揃っているようですからな。それは直に戦った私がよく承知しているところです」
アルフォンソは「なるほど」とにこやかに相槌を打った。そして、考えるのだった。やはり、この男……いや、ドラゴンは生かしておくことは出来ない。
アルフォンソにとって、テセオラは災厄の申し子でしかなかった。カルバ、アルヴィルが培ってきた秩序、平穏を破壊し、人々を無限の戦争に突き進ませようとしている。
どうにかして討ち果たす必要がある。その思いを確かにする一方で、そのこと自体は非常に悩ましかった。
現状は、始祖竜の威名の下に、多くの人間がこのドラゴンの言うがままになっている。この状況で、どうすればテセオラを討ち果たし、アルヴィル王家とその庇護下にある者たちを守ることが出来るのか。
「あぁ、でしたら良い考えがありますわ」
軽く手を打ってのケーラだった。
一瞬、テセオラを討ち果たす妙案でもあるのかとアルフォンソは思ったが、もちろんそうではないはずだった。話題についてのものに違いなく、テセオラが笑顔を見せてくる。
「おぉ。良い考えがありましたか」
「えぇ、ありました。テセオラ殿はノーラをご存知なのですね?」
「先ほどの言葉通りです。何度も戦った仲であれば」
「彼が問題なのです。カミールは彼に心酔しておりまして。抗戦の意思を固めたのも、彼の存在があってのことで間違いありません」
アルフォンソは内心目を丸くするのだった。そんな話は初めて聞いたのだった。そして、あり得ない話だった。あの男は、言葉が話せる程度でドラゴンに心酔出来るほど素直な人間ではない。
だが、ケーラが口にしたのであれば、そこには何かしらの意味があるに違いない。よって、
「ですな。カミールはあのドラゴンを心底頼っていましたから」
同意の相槌を差し向ける。すると、テセオラは「ふーむ」と軽く自身のあごさすった。
「心底……ですか。では、彼を討ち取れば、カミール・リャナスは私になびくと?」
応えるのは当然ケーラだった。
「ふふふ。そうなりますけど、もっと穏便な方法がありますわよ?」
「穏便な方法?」
「そうです。討論会を開くのです」
一体それはどういうことなのか。アルフォンソには疑問しかなかったが、テセオラもまた同様のようだった。
「それは……あー、どういう意味でしょうかな?」
「ですから、討論会です。テセオラ殿とあのドラゴンが一対一で、カミール殿の前で討論をしていただくのです。どちらが、始祖竜として人々を導くのに値するのかと」
「……なるほど。始祖竜としての格を競うと?」
「そういうことになります。まぁ、貴方と違って向こうは人にはなれませんので」
「ふふ。となると、向こうは格を晒すということになりそうだが……討論会となると、聴衆はカミール殿ばかりではないので?」
「それはもちろん。カルバ、アルヴィルを問わずに主要な諸将を集めてのものです。どちらが、信じるに足る始祖竜なのか? この機会に明らかにすることは、今後の役に立つことかと思いますが」
この案が、テセオラにどう響いたのかは明らかだった。彼は満足そうに何度も頷きを見せていた。
◆
テセオラが去った応接間にて、アルフォンソは早速問いかけることになった。
「ケーラ様。何故あのようなことを?」
あのようなこと。それはもちろん、彼女の提案についての話だった。
テセオラを喜ばせることは出来たが、それだけですまないように彼には思えたのだ。
ケーラは十分にアルフォンソの心情を察しているらしい。苦笑を返してくる。
「まぁ、問題がある提案だったことは否定しないわ」
「正直なところ、非常に危ういものを感じます。今はまだ、カルバによりテセオラは秘匿されています。それが衆人に晒されるようなことになれば、あるいは決定打になるのでは?」
いよいよ、諸侯がテセオラへの忠誠を確かにしてしまうのではないか? それが彼の懸念であり、ケーラは頷きを見せてくる。
「でしょうね。でも、どうせこのままじゃ勝ち筋がないでしょ?」
「勝ち筋が無ければ、テセオラを利してもかまわないと?」
「そういうことじゃないの。だって、逆の場合もあるじゃない?」
「逆?」
「そう。テセオラが馬脚を露わにして、諸侯の心が離れるってこともね」
ケーラはいたずらっぽくほほ笑みを向けてくる。アルフォンソはしばし考え、そして頷くことになった。
「確かに、テセオラの言動には平穏への思いが見えません。その実態がさらされることになれば、諸侯の心が離れる可能性は十分にあります。ですが」
「問題は……ノーラかしらねぇ?」
アルフォンソは再び頷くことになった。
「思想がどうであれ、テセオラが常勝の始祖竜であることに変わりはありません。それに逆らうためにはやはり寄る辺が必要かと」
「テセオラに対抗できる始祖竜としての器を、ノーラが見せられるかってね」
「私はあのドラゴンをよくは知りません。人には成れないようですが、それを覆せるだけの何かがあれにはあるのですか?」
それが無ければ、人心が離れたところで現状が変わる見込みは無い。ケーラは苦笑を深めてくるのだった。
「実際、厳しいわねぇ」
「厳しいですか?」
「あの子じゃ、テセオラに対抗するのはちょっと無理ね。人を惹き付けるだけの何かは……ふふふ。本当、良い子なんだけどね」
「それでは結果は……」
「でも、期待はしてるわよ? 貴方、あの子に王都で痛い目に会わされたわよね?」
「あまり思い出したくはありませんが、確かにそのようなことは」
「あの子ね、ああいうことが出来る子じゃないの。でも、騎手の子のためにがんばったみたいでね。まぁ、うん」
ケーラは割り切った笑みを見せてくる。
「私たちには大して出来ることも無いしね。機会は作れたみたいだし、あとは信じて待たせてもらおうじゃない」
アルフォンソは正直なところケーラのように信じることは出来なかった。ノーラなどは信じることはなく、自分に出来ることをなしていくつもりだった。
それでも彼の頭にはかつての王都でのことがあった。
(迫力は確かにあったように思うが……)
多少は期待してもいいのだろうか。アルフォンソはケーラに1つ頷きをみせた。




