第11話:俺と、勝利の夜(1)
さて、大勝した夜には何が起きるのか?
勝って兜の緒をしめろなんてよく聞きはしますがね。ただ、始祖竜もどきに散々苦しめられて、相当鬱屈し続けたところでようやく訪れた今日ですから。
ここで「気を引き締めろっ!!」なんて厳命でもすれば暴動が起きちゃうよね。ということで、そういうことです。見事にお祭り騒ぎになっているのでした。
「はっはっは! 良いな! やっぱ、勝ち戦の後はこうでなくちゃな!」
祝宴のにぎわいから少しばかり離れた村の一画です。楽しそうに声を上げておられるのはアルベールさんでした。酒杯を片手にわずかに頬を染められていますが、うーん陽キャ感がすごい。
俺なんかはアレですね。昼間の疲労がすごくてアドレナリンすら枕を手にしている感じなので。軽く丸くなりながらに感心の眼差しを向けさせてもらうことになります。
「すごいですねぇ。体力ありますねぇ」
「はははは! そりゃ楽しければこうなるさ! どうだ、ノーラ? お前も一杯? 酒を入れれば元気も出てくるぞ?」
ですかねー? みたいな感じで、俺は疲れ目でアルベールさんが差し出してきた酒杯を見つめることになります。
すると、俺の視界に手のひらが差し出されました。それは娘さんの手でした。俺の腹に背を預けておられる娘さんがアルベールさんを制止に出られたのです。
「あーっと、止めて下さい、止めて下さい。この子、前にお酒でひどい目に会ったんですから」
「ノーラがお酒の失敗? そんな手合には見えないけど、悪酔するまで痛飲でも?」
「違います。ウチの当主の絡み酒に巻き込まれて。3日ぐらい体調崩しちゃいましたから」
そう言えばそんなこともあったような。アレは王都で、娘さんの結婚うんぬんの話が出ていた時でしたっけ。なんかもう遠い昔のように感じるわけですが……んん?
俺の腹側は大きめのソファぐらいの収容力があるのですが、利用されているのは娘さんだけではありませんでした。
アレクシアさんもまた酒杯を両手で包みながらに背を預けておられるのですが、「へぇ?」なんて俺の目を覗き込んでこられて。
「しかし、飲むんですね。少し気になります。ノーラは酔ったらどうなるのでしょう? 明るくなったりするので?」
俺はわずかに首をひねることになりました。前世はともかく、ドラゴンの俺はそうですねー。
「……気持ち悪くなっただけのような」
前世よろしく、アルコールを楽しめる生涯とは無縁ってことでしょうかね。そんな俺に対して、アルベールさんは苦笑を浮かべられます。
「ははは、そっか。そりゃ、酒を進められはしないが……」
アルベールさんは酒杯を軽く俺の鼻面に当てられます。
「これで乾杯の代わりとしようか。しかし、本当に良かったな。何もいうことはない大勝だ」
娘さんもアレクシアさんも、笑顔で俺の鼻面に酒杯を集められました。うーむ、なんか良いなぁ。絆とか、そういった類の素晴らしいものを感じるなぁ。
ともあれ、なんで俺たちがこうして集まっているのかですよね。
それは乾杯の理由そのものです。知人で集まって、今までの苦労を労おうってことです。
「ただまぁ、呆気ないもんだったな」
酒杯をかたむけつつ、アルベールさんは首もかたむけられます。
「内乱を戦い抜いてきた連中がそのまま相手だって聞いていたからな。もっと手強いものだと思っていたが」
その感慨は理解出来るものでした。テセオラが墜ちた後の敵さんだけどね。まったく粘るところも無く敗走していったからねぇ。鞍無しどもが多少がんばりを見せたってぐらいかな?
「始祖竜もどきがあって、息を吹き返した連中ですからねぇ」
これが俺の意見でしたが、アルベールさんは「あぁ」と頷きを見せられます。
「なるほど。始祖竜もどきがいなくなれば、死に体に戻るだけか?」
「始祖竜もどきがあってこそ傘下に加わった人たちも多いでしょうし。疲労もたまっていれば、こんなもんじゃないでしょうか?」
始祖竜もどきさえいなければ敵じゃあない。勝利続きだった敵さんではありますが、綱渡りのと言うか、薄氷の上のと言うか。地力があっての勢いではなく、そんな危ういガラス細工だったわけですねー。
「でも……逃しちゃったなぁ」
ため息混じりのお言葉でした。
その発言は娘さんのものでした。酒杯を胸に当て、大きく天を仰がれます。
「本当、仕留めきれていればなぁ。そうすれば、明日からの戦なんて考えずにすんだのに」
まぁ、そこはそうですよねぇ。俺もまた、暗めの心地で頷きを見せることになりました。
どうやら仕留めきれなかったようなのです。地上の部隊さんたちが追撃をかけて下さったのですが、向こうさんもテセオラを守ることに必死なわけで。なかなか上手くはいかなかったようなのです。
ただ、これは娘さんの責任じゃないからね。そんな思いは俺だけのものじゃないようです。アレクシアさんが、そっと娘さんの肩をさすられます。
「今までのことを考えれば十分な戦果でしょうに。確かに逃しはしてしまったようですが……ノーラ? どうでしょうか? テセオラとやらが受けた手傷は、すぐに戦場に出られるようなものでしょうか?」
さてはて。俺はわずかに上を向いて考えることになります。けっこうドラゴンブレスを浴びせてやったわけですが、うーむ。俺が黒竜に散々にやられた時のことを思うとですね。
「そうですねー。10日ぐらいは、体が痛くて飛べないと思います。20日ぐらいじゃ、元通りとはいかないような」
「ドラゴンの回復力でもその程度はかかりますか?」
「万全に戻るためにはもっとかかると思います。治ってから体を鍛え直して……50、60日ぐらいはおそらく」
俺はそのぐらいはかかったという話でした。この俺の見解に、アレクシアさんは笑みで頷きを見せられます。
「だとしたら、猶予は十分です。そもそも始祖竜が負傷した時点でらしくない話です。始祖竜神話はすでに地に堕ちています。当のテセオラが戦場に出られないのであれば、将兵の士気などはあって無いようなものでしょう」
これにアルベールさんが同意の頷きを見せられます。
「だな。その上で、こっちにはカルバの王族がいるんだろ? 離間策を講じれば、十分に効果も上がるはず。相手さんを追い詰めるのには十分以上に余裕があるだろうさ」
そして、アルベールさんはニヤッと何故か俺を見つめられまして。空いた片手でポンを俺の鼻面を叩かれました。
「そして、こっちには始祖竜殿が健在なんだからな。なぁ、ノーラ?」
まぁ、こっちは人に成れない始祖竜のなりぞこないではあるのですが。でも、今の状況だったら多少は役に立てますかね? 俺は頷きを返させてもらいます。
「えぇ、がんばらせていただきますとも。テセオラが動けない内にこの戦をですね」
「終わらせてやるってな。出来るさ、この状況ならな」
後悔を表情ににじませておられた娘さんなんですけどね。ここで、いつもの笑みを見せて下さいました。
「そう……ですよね。よし! 今が好機! さっさと戦争を終わらせてやりましょう!」
いーいムードになってきましたかねぇ。
アレクシアさん、アルベールさんに続いて、俺も頷きを見せさせていただきます。そうですよね、今が好機なんです。この機会に、俺も全力を尽くしてね。この戦争をさっさと終わらせてしまいしょうかね。
「でも……そうなると、気になってくるのは東ですよね」
そして、娘さんがそんなことをおっしゃったのですが……えーと? お二人に続いて、俺も首をかしげることになります。




