第8話:俺と、思わぬ援軍(2)
あ、って感じでした。
娘さん、アレクシアさん、アルベールさんと俺に視線が集中します。
これは……俺、空気を読めない普通に嫌な奴ですな?
「す、すいません!! 失敗ですので!! なんか、言葉を作るのに失敗しただけですので!!」
そういうことでなんとか逃れようとしたのですが、あ、だめ?
あはは、そうかそうかとはなってくれませんでした。ただ幸い、「テメェ空気読めねぇのか、オラ!!」みたいなことにもならず。
「……ふむ。予想はしていましたが、ノーラはかなり心労を溜め込んでいるみたいですね」
アレクシアさんに、逆に同情を示していただけたのでした。
心遣いが心に染み渡るでぇ、って気分でしたが、それよりもですね。俺は首をかしげて見せることになります。
「あの、予想はされていたので?」
「はい。人に転じるドラゴンが現れたと聞いていましたので。でしたら、アルヴィルの始祖竜である貴方が注目されるはずですし、あとはその、ノーラですから」
あの小心者は必ず心労を重ねているだろうって予想されたってことですかね。うーむ、ズバリのご予想ですが、ともあれ俺が言わいでものことを言ったのは事実だよなぁ。
「あー、あらためてですがすみません。とにかく、今言うことではありませんでしたよね」
「いえいえ。重要なことであれば、まったく問題は。敵は我々が来た程度では敵うものではありませんか?」
へへ、アレクシアさんとアルベールさんがいらっしゃったのであれば楽勝っすよ! なんて言葉を求めてはおられないだろうアレクシアさんの眼差しだったので、正直に答えさせていただくことにしました。
「その……正直、不安は覚えています。魔術をあやつるドラゴンは強力ですし、何より……やはり始祖竜の存在は大きいもので」
これで大体察していただけたようです。アレクシアさんは頷きを見せられます。
「そうでしょうね。私も黒竜と王都での騒乱を経験していますから。ノーラの不安は理解しているつもりですし……どうやら一安心のようですね」
俺は首をかしげることになりました。疑問の先はもちろん、アレクシアさんの最後の一言についてです。
「えー、アレクシアさん? その、一安心というのは?」
「え? あぁ、すみません。伝わらない言葉でしたね。これはその、最悪を想定しておいて良かったという意味です。その想定の元に準備を進めて良かったと」
「準備?」
アレクシアさんは淡々として頷きを見せられます。
「はい。黒竜と同種の敵ということで、その時と同じ武器を用意させていただきました」
覚えは非常にありました。黒竜の雷撃を封じるために、穂先に魔力を錬るための式を刻んだ槍が用意されましたっけ。
それはアレクシアさんの発案によるもので、穂先という形で見当違いの式を刺しこまれた黒竜は、雷撃の魔力を上手く練り上げることが出来なくなったものですが、
「あの時の、魔術封じの槍ですか?」
「今回は矢じりという形でも用意させてもらいましたが、そういうことです。他にも、対始祖竜ということで人員の選定の方を」
「選定? と言うと……始祖竜にも臆さないということでしょうか?」
「その通りです。相手が始祖竜だとして、寝返るような者を連れてくるわけにはいかなかったので。ちょっとスレたようなと言いますか、地に足の着いた勇士を連れてきました。そのせいで、総勢は2000ばかりとなりましたが……間違いなく頼りになる2000です」
そうして、アレクシアさんはぎこちなくもほほ笑みを浮かべられました。
「任して下さいとは言い切ることが難しい状況です。ですが、信じては下さい。私たちは貴方たちの力になるためにここに来ました。ノーラ。貴方が始祖竜としての重荷を背負いこむことはありません。私たちが必ず力になります」
対して、こちらは自然なほほ笑みでした。アルベールさんが笑顔で……しかし、力強い目で俺を見つめられます。
「そういうこった。俺たちはお荷物になるためにここに来たんじゃない。必ず力になるから、遠慮なく頼ってくれよな」
残念ながら、ドラゴンは感情によって涙を流すようなことは出来ないんですよね。
だから俺は、この胸にあふれる感情を言葉にするのでした。
「アレクシアさん、愛してます」
「はい。ありがとうござ……え?」
「アルベールさんも愛してますから! 本当にもう、心から!」
あふれる思いをどストレートにぶつけさせていただいたのでした。アルベールさんは「ははは」なんて楽しそうな笑い声を上げられます。
「そりゃまったく、ドラゴンに愛されるなんて騎手冥利に尽きるな。よし、相思相愛の一体に1人、一緒にがんばろうな?」
俺はもちろんと頷かせてもらいます。一緒にがんばらせていただきますとも。ラブパワーで張切らせていただくとも。
そして、俺が愛を伝えさせていただいたもう一方ですが……う、うーむ。感情の伝え方を間違えたかもしんない。アレクシアさんですが、愛しているなんて言葉にどう返せばよいのかと頭を悩まされているようで。
「……え、えーと、その……私もあ……愛していますよ?」
困り顔でのなんとかかんとかって感じのご発言でした。すいません、本当に。妙な言葉のチョイスをするもんじゃなかったって、本当反省ですね、反省。
ともあれ嬉しい限りでした。援軍として頼りになりまくることもあれば、心遣いが本当に嬉しくて。
そんな俺の内心を察せられたのでしょう。娘さんがにっこり笑顔で俺の鼻面をなでられます。
「良かったよね。こんなに頼りになる援軍が来てくれてさ」
肯定以外なんてありませんでした。俺は大きく頷きです。
「嬉しいです。心の底から、本当にもう」
「ははは、だよね。私も同じだよ。ただ、うん。私、ちょっと気になってることがあってね?」
「はい?」
「アレクシアさんやアルベールさんより、私の方が付き合いが長いはずでね? それでいて騎手と騎竜って関係なんだけどね? でも、私は愛してるなんて、一度も伝えてもらったことが無いなぁって思うんだけどね? その辺りのことを、ノーラくんはどう考えてるのかって、私は気になっているんだけどね?」
俺は娘さんの笑顔から顔を逸らすのでした。いやだって、圧がすごいし。無言の圧力がすごいし。愛しているって言えって、そんな圧力しか感じないし。
冗談にならないのはNGなのでございます。ただ、その辺りの事情はご存知にならない娘さんです。俺の視界に回り込んで圧力を維持されようとしてこられまして、
「……えーと、サーリャさん? 騎手という立場を悪用して、騎竜に不当な圧力を加えるのはいかがなものかと……」
「な、なにさ、その言い草はっ! いいじゃん、愛してるって一度言うぐらいさっ!」
だから、冗談にならないのはNGなのです。意地になられそうな娘さんでしたが、ここでアルベールさんが苦笑で間に入って下さいました。
「ま、まぁまぁ、ノーラも恥ずかしいってさ。それよりも、ほら。ここで立ち話もあれだろう? 俺たちは、ハルベイユ閣下とも話がしたいわけでさ」
案内を要求されているみたいです。娘さんも当然自身の立場を理解されているわけで、すかさず頷きを見せられます。
「そうですね、分かりました。閣下も間違いなくお喜びになられると思います。こちらへ」
そうして、ハルベイユ侯が滞在している民家を目指すわけになるのですが……ふーむ。
俺は自身の足取りが軽いことを自覚するのでした。
これはですね、良いですね。
人化が上手くいっていないこともあって、心には重いものばかりがあったのですが。
どうにかなるような気がしてきました。
次の空戦が正念場でしょうか。余裕綽々で油断たっぷりの敵さんに対して、新戦力、新装備が奇襲的に働くであろう第一戦です。
上手くやれば、テセオラを墜とすことが出来るのではないか? そう俺には思えるわけです。
いや、出来るんじゃないか? じゃ無いですよね。墜としてやりますとも。次の機会で必ず。
このお二方の力があれば、必ず成し遂げられますとも。俺は意気揚々と皆さんの後に続きます。




