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第7話:俺と、思わぬ援軍(1)

「お久しぶりです。サーリャさん、ノーラ」


 無表情だからこそ、なおさら端正な顔立ちが際立っている感じがしますねー。


 本当、作り物のように美しい人でした。端正な顔立ちをして、背中までの黒髪は陽光の下で濡れたように輝いていて。


 あらためてキレイな人だなぁって感心させられるのですが……えーと、はい。


 援軍の到来が近いと知った翌日です。


 援軍がいらっしゃったということで、朝早くに派手な空戦を繰り広げた疲労もどこへやら。娘さんは喜んで援軍を出迎えに向かわれて、俺もまた期待は無くとも誰が来たのかと気になって同行することになったのです。


 その結果がこれでした。


 娘さんは、目の前の方同様の無表情で首をかしげられます。


「え、えーと……あの、本物ですか?」


「はい。偽物が出るほど大した人間ではありませんので」


 俺は『お、おぉ……』なんて軽くうなることになりました。


 これは間違いありません。俺と似てなんて言うと失礼ですが、自身に自信がなければ時折自虐(じぎゃく)傾向の強い発言をされるのがあの方でした。


 容姿もそうであれば、この発言。この美人さんは、間違いなくアレクシアさん当人で間違いないでしょう。


 娘さんも確信されたようでした。


 ひまわりのような笑みをパァー! っと満開に咲かせられます。


「う、うわ、本物だ! 嬉しい! 本当に会いたかったです!」


 この喜びの声に対して、実際は感情豊かなこの人ですので。アレクシアさんはにじむように笑みをもらされました。


「はい。私もです。会うことが出来て本当に」


 そうしてお2人は笑みを交わされるわけですが、うーむ。まるで天使さまと女神さまやでぇ。お2人が再会を心底喜んでおられることもあれば、俺は豊かな気持ちで見守らせていただくのですが……おんや?


 アレクシアさん登場の衝撃で視野がせまくなっていたようでした。この場にはですね、喜ぶべき出会いがもう1つ用意されていたみたいですね。


 よっ、なんて笑顔で軽く手を上げてきた人影があります。


 よく日に焼けた肌をした、貴族の貴公子でありながらに屈託のない好男子であり、さらには王都を代表する騎手であらせられるお方です。


 うおー、この人も来てたのかぁ。嬉しくなって頭を下げさせてもらうのですが、相変わらず良く出来た人だなぁ。娘さんたちの再会を邪魔しないためにって、こうして沈黙を守られているんだろうなぁ。


 ただ、この人の登場を鋭敏な娘さんが気づかないはずが無いのでした。


「あれ? アルベールさん? アルベールさんじゃないですか!」


 驚きの声を受けて、その貴族の好男子さんは初めて声を上げられました。


「やぁ、久しぶり。悪いね、邪魔してしまったみたいで」


 表情同様に爽やかな口調ですが、うーむ。本当、良く出来ていると言うか、もはや出来すぎのような。


 この方、王都で娘さんと色恋方面で色々あったんですけどね。そのことをおくびにも出さないこの態度。人生3週ぐらいしてそうだなって思うのですが、まぁ、娘さんだって負けてません。


 アルベールさんの心配りが理解出来ないこの人じゃありませんので。


 ちょっと思い出すところはあったみたいですが、娘さんは変わらぬ笑顔でアルベールさんに頭を下げられます。


「はい、お久しぶりです。邪魔だなんてとんでもありません。お会い出来て嬉しい限りです」


 うーん、なんかこう心の中でうなっちゃう。この中で一番の子供は俺である可能性が。無駄に年だけは取ってるんだけどねぇ。本当、無駄には。


 とにかく、俺も挨拶させていただきましょうか。一度頭を下げさせてはもらいましたが、あらためて同じようにさせてもらいます。


「お久しぶりです。私もお会い出来て嬉しい限りで」


「ははは、そっか。もちろん俺もだよ。あとでステファニアにも会ってくれよ。あいつもお前に会いたがってたから」


 俺は『へぇ』となりました。よく考えたら当然ですが、あの子もここに来てるんだ。


 アルベールさんの愛竜ですね。ギュネイ家の誇る血統の良いドラゴンさんで、すんごい恵まれた体格で、でも性格はすごい可愛いらしくて。


 なんだか、懐かしいなぁ。ラナとのよく分からん謎の攻防や、言葉を教えろとせがまれたことが記憶に強く残ってるけど。


「ステファニアさんですか。どうですか? あの子もお元気で?」


「元気、元気。ノーラたちと会ってからは、本当毎日元気一杯。それでアイツ、まだ言葉を覚えるのをがんばっててさ」


「へぇ。まだ続けてたんですね」


「あぁ、まだ続けてる。それで……最近な。アイツ、面倒くさいって言葉を覚えたみたいで……」


 若干遠い目をされるアルベールさんでした。そ、そうですか。なんと言うか、面倒くさいことになっている予感がありますね。


 ドラゴンって人に従うものの、別に人間が好きとは違うからね。なんか、色々起こってるんだろうね、うん。


 ともあれ、アレクシアさんとアルベールさんとの嬉しい再会でした。そして思うのが……そういうことでいいのでしょうかね?


「アルベールさんだったんですね。今回の援軍の指揮官殿ですが」


 言葉にもしてしまいますが、そういうことなのでしょう。


 娘さんもまた同じようなことを考えられていたんですかね? すかさず頷きを見せられます。


「そうそう。そこだよね、そこ。リャナス一門のどなたかが指揮を取っているって聞いて、それでのアレクシアさんでビックリしたけど……そりゃそうですよね。そりゃアルベールさんですよね」


 俺は娘さんと頷きを交わすことになりました。ですよねー。そういう理解になりますよねー。


 そりゃ、アレクシアさんが軍勢の指揮なんて畑違いのことをやっておられるわけが無いですよね。他にそれっぽい人影がなければ、アルベールさんだってそういうことになるでしょうとも。


 まぁ、この人はギュネイ本家の人間ですので。若年であれば、その辺りでちょっとひっかかるところはありますが、そこはえぇ。カミールさんの決定ですし、何かしらの意図だったりがあったりするんでしょう、多分。


 とか思っているところに、アルベールさんでした。何故だか愉快そうな笑みを見せられまして。


「はっはっは! だよな。誰だってそう思うよな」


 俺と娘さんはそろって首をかしげることになります。と言うことはつまり……


 そろって、今度はアレクシアさんを見つめることになります。無表情な女神さまはすかさず頷きを見せられました。


「そうです。私がこの援軍の代表です」


 なんですと? 俺は目を丸くすることになり、娘さんは素直に驚きの声を上げられました。


「え? じゃあ噂通りにアレクシアさんが!?」


「そうです。私がこの援軍の代表です」


「な、なんとまぁ。正直、畑が違うような……って、あのアレクシアさん?」


「そうです。私がこの援軍の代表です」


「……えーと、えー?」


 娘さんが心配そうな目をされましたが、そりゃそうです。俺だって似たような視線を向けることになっています。


 なんか壊れたレコードみたいになってますが、これはその、大丈夫な状態なんですかね?


 本当どうなんでしょう。アレクシアさんは引き続きの無表情で再びを口を開かれます。


「そうです。私がこの援軍の代表です。そうです、私が……何故か、私が……本当、なんでしょうね? もしかしてですが、あの方ってちょっとアレな方なんでしょうか?」


 エンドレスから抜け出していただいてほっと一安心でしたが、あの方ってあの方ですかね? 


「あー、あの方とはカミール閣下で?」


 俺の問いかけにアレクシアさんは肯定の頷きを見せられます。


「はい。私を援軍の代表にとご指名されましたが……一体なんなのでしょう?」


 問われても困るわけですが、ともあれ不満たっぷりなことは伝わってくるのでした。よく拝見すれば、アレクシアさんの目元には疲労の影がうかがえるような。案の定ですが、けっこうな心労を抱えながらの道中みたいですねー。


「あー、うん。別に、カミール閣下のきまぐれってわけじゃないぞ? ちゃんと考えがあっての人選だからな?」


 ここでアルベールさんでした。苦笑で説明をして下さいます。


「まず考えるべきはハルベイユ閣下と軋轢を生まないことでさ。妙なドラゴンと戦ってきたみたいだけど、その指揮官が邪険にされるのは損失以外の何物でもないだろ?」


 やっぱり、その辺りが思案にあったんですねぇ。俺は納得の頷きを見せさせてもらいます。


「ですよねー。ハルベイユ閣下とその参謀格の方たちは、対鞍無しの専門家みたいなものです」


「へぇ、鞍無しって呼んでるのか。なかなか端的で分かりやすい呼び方だけど、まぁ、うん。そういうこと。ハルベイユ閣下と喧嘩せず、ただ家格は十分でカミール閣下の本気は示せるって、アレクシアさんはそんな人選だな」


 俺と娘さんは納得の頷きを見せることになります。なるほど。意外性たっぷりに思えましたが、そう考えると妥当な人選なのかもですねぇ。


 ただ、どうにも当人は納得がいっておられないご様子。


「とは言え、リャナス一門に人材は豊富にあります。別に、指揮官が私である必要は無かったように思いますが」


 疲れた目をしてのアレクシアさんでした。そして、実際そうではあるんですかね。アルベールさんは苦笑で頭をかかれます。


「ははは。まぁ……カミール閣下の茶目っ気が無いとは言えないけど」


 俺の脳裏にはあの皮肉屋さんの笑顔が浮かぶわけですが、アレクシアさんも同様のものを思い浮かべておられるのでしょうか。一瞬遠い目をされてのため息です。


「はぁ。まぁ、今さら愚痴を言っても仕方ありませんが。大任を任された者として、すべきことをしませんと」


 そうして援軍の指揮官さんは俺と娘さんに真剣な目つきを見せられます。


「よろしくお願いします。我々は、必ずや貴女たちの力になってみせましょう」


 その鋭い目つきは間違いなく信頼を呼ぶものでした。娘さんは笑顔で大きく頷かれます。


「はい! 頼りにしています! こちらこそ、よろしくお願いします!」


 なんか良い雰囲気ですねー。


 光明が差したってそんな感じです。頼れる友人が助けにやって来てくれて、いよいよ反撃って。


 ただ……うーん。俺はですね。しかし、俺はですねちょっと。


「……でも、なかなか簡単にはいかないと思いますよ」


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