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第22話:俺と、明日に向けて(1)

 アヴァランテさんの助力を得て、なんとか俺は自らの役割をこなしまして。


 そしての夕闇の山中だった。俺はハルベイユ侯の本隊に合流したわけですが、やはりというかなかなかな歓迎を受けることになりました。


「……ふーむ。ラウ殿」


「ふーむですなぁ、ハイゼ殿。なにをしでかすか分からんやつですがなぁ」


 親父さんとハイゼさんが率先して迎えてくれたんですけどね。お二方の視線は、新たな客人に向けられていました。ゆるりと犬座りをされるアヴァランテさんです。


凡ドラゴンがこの混乱の最中で敵の一体を口説いてきたみたいな感じでして。お二方は驚きを露わにされているんですねー。


 で、コイツもまたそれなりに驚いているみたいだった。


『ノーラ。誰だ、あいつは?』


 発言の主はアルバだ。丸くなりながらも、興味深げに首を伸ばしている。


 俺はかなり休憩が必要な体調で、親父さんたちやアヴァランテさんから離れ、アルバの隣で横になっていた。俺はぐったりと頭を地面に横たえながら、珍しく興味津々な友人に応じる。


『えーと、アヴァランテさん。俺のやることを色々と手伝ってくれたドラゴンさん』


『ふむ。それは気の良いヤツなんだな』


『まぁ、そうかな? 向こうさんも色々事情はあってのことっぽいけど』


 少なくとも、袖振り合うもみたいなノリでの手助けではなかったような。アルバは『そうか』と相づちを打ってくる。そして、


『しかし、ノーラ』


『ん? なに?』


『アヴァランテだったか。アイツ、良い女だな』


 俺は『……へ?』って感じだった。


 思わずアルバの横顔を見つめてしまうのだった。今ってけっこうな状況なんだけどね。なんかこう、人間でアレばなかなかそういうことを言い出せる状況じゃないんだけどね。


『そ、そうだね。アヴァランテさんって、うん。キレイな方だよね?』


『あぁ。キレイだな、うむ』


 そう言えばコイツも年頃だなって思い出すわけだけど、さすがはドラゴン。人間の事情なんてさっぱり念頭には無いってことだった。


 でも、仲間の事情を忘れるコイツでは無かったらしい。不意にアヴァランテさんから目を外すと、俺に真剣な目つきを見せてくる。


『ともあれ、ラナだな。結局戻っては来なかったか』


 俺はちょいと胸にズンと来るものを感じるのだった。どうやらそうみたいでねぇ。ラナも当然娘さんも、ここには合流していないのだ。


『……だねぇ。でも、どっかで元気にしてると思うけどね』


 あの一人に一体が、今日の敵ぐらいでどうにかなっているとは思えないし。アルバもすかさず同意を示してくる。


『だな。ラナが困っている姿が想像出来ん。乗っているうるさいヤツもきっとな。あまり心配しすぎるなよ』


 そして、さすがのイケメンドラゴンだった。気遣いがありがたいなぁ。笑顔は出来ないけど、それでもそんな気分で頷かせてもらう。


『ありがとう。そう思っておくことにするよ』


 あの一人に一体は大丈夫。そう信じておくことにした。今はそうしておいてね。親父さんにハイゼさん、それにクライゼさんも無事ですんだみたいだし。娘さんの大切な方々のために俺が出来ることをしっかりこなす。それが一番大事に違いない。


「ノーラ! すまんが通訳を頼む。色々と聞きたいことがあるでな」


 早速その機会が来たらしく、ハイゼさんからの呼びかけでした。あと3日ぐらいは惰眠を貪りたい俺だったけど、当然否の選択肢はありませんとも。急いで立ち上がって、ハイゼさんたちに合流する。


「え、えー、はい。聞きたいことですか?」


「うむ。まずはこの状況を把握せねばならないからな。アヴァランテ殿と言ったな。質問には答えて頂けそうか?」


 そりゃそうですよねってハイゼさんの要望でした。


 ありがたくも、この状況を説明し得る方がいらっしゃるわけで。もちろん答えてもらえるかお伺いさせていただくわけですが……えーと?

 

 ちょっと首をかしげることになった。何故かアヴァランテさんは俺とハイゼさんとのやりとりを不思議そうに眺めていた。


 まぁ、この世界じゃ確かにおかしな光景だけどさ。人間とドラゴンとの会話。アヴァランテさんからしても、それは同じなのかどうか。ともあれ、俺は慣れない通訳業に励まさせてもらうことにした。


『アヴァランテさん? こちらのハイゼさんが尋ねたいことがあるそうですが良いですか?』


『尋ねたいことか。それはもちろん、こちらの人々には色々とあるだろうが……しかし、私からも良いか?』


『へ? なんですか?』


『この二人はなんだ? お前にとってなんなんだ?』


 俺にとって? 思わぬ質問にちょっと首をかしげちゃうけど、応ずる言葉は明確なものはあるかな。


『俺にとって大切な人たち。お一人は俺の飼い主さん』


『……飼い主?』


『うん、飼い主だけど……どうされました?』


 この方もドラゴンらしく表情に乏しいのだけど、それでもいぶかしく思っているってそんな雰囲気が伝わってきた。


 なんだろうかね? アヴァランテさんは考え込むような沈黙を挟まれた上で口を開かれました。


『……ここでは普通のことなのか? その、竜種に飼い主がいるということは?』


『へ? そりゃまぁ』


『……袂を分かって久しいが、こちらではそうなっているのだな。家畜のようであれば、そうか。ソームベル。自らを家畜化したか? 守護者としての有り様を自ら捨て去ったということか』


 正直なんのこっちゃって感じでした。ソームベルっていうのが始祖竜ってのは分かりますが、他は本当さっぱりで。


 俺の戸惑いはアヴァランテさんに伝わったみたいでした。苦笑の雰囲気で口を開かれます。


『すまん。つい物思いにふけってしまったが、もちろん良いぞ。聞いてくれ。貴殿の頼みとあれば断る理由など何も無い』


 なんかこう俺への信頼がにじんだ言葉でした。これはですね、ここへの帰り際に黒竜とのあれこれをお伝えした結果でして。なんか過分な評価を受けてるんですね。


 ビリビリされっぱなしでしたよ、わはははは。みたいな話をすることになったのですが、アヴァランテさんは終始感心してくれたのです。正直よー分からん評価ですが、この状況ではありがたいですよねぇ。甘えさせてもらって、質問の方を取次がせてもらうとしましょう。


「ハイゼさん。アヴァランテさんですが、質問に答えて下さるそうです」


「それはありがたい。では、まずはだな。貴殿らの素性は? 一体どこから来られた?」


 当然すぎるまずの疑問でした。俺も大いに気になるところで、そしてのアヴァランテさんの返答ですが。


『素性としては人類の守護者たる竜種だ。どこからとは一概には言えない。私はシドの出身だが、おおむね旧アベス一縁の竜種たちが今回のことに参加している』


 俺が首をかしげたのと同様に、ハイゼさんも大きく首をかしげておられました。


「人類の守護者とはなんとも大仰だが、シド? アベス? 土地名か? まったく聞き覚えの無い名だが」


 これに対してのアヴァランテさんの返答ですが。


『無理も無い。こちらに対してのあちらの世界の話だからな。【道】がつながることを利用して、我々はこちらの世界にやってきたのだ』


 とりあえずファンタジーな匂いがかなりのところするのでした。もしかして異世界的な話してますかね? 俺は転生的な感じですが、このドラゴンさんたちは転移か? そんなこんなでこちらの世界にやってきたと?


 経験者の俺がなーんとなく察する一方で、ハイゼさんや親父さんにはさっぱりの話だったようで。顔を見合わせられた上で、ハイゼさんが一つ苦笑を浮かべられます。


「理解するに難しい話だが、まぁ置いておこうか。重要なのは目的だろうからな。目的が別れば対処も見えてくる。ノーラ、その辺りについて聞いてくれ」


 確かに、重要なのはこの現実的な脅威にどう対処していくかですからねぇ。早速、尋ねさせてもらって、アヴァランテさんも早速返答してくれました。


『戦いを求めて』


 この端的な説明に、俺は思わず問返すことになりました。


『戦いを求めて……ですか?』


『そうだ。私は違うが、他の連中は全てその意図を持ってここにいる』


 とりあえずのところです。はた迷惑なって感想が浮かんだものですが、ハイゼさんも同じ思いを抱かれたようでした。


「それはまったく迷惑であれば、理由も気になるが……となると停戦などは難しかろうな」


 アヴァランテさんの返答は肯定でした。


『停戦などはあり得ない。彼らは最後の一体になるまで戦い尽くすだろう』


 まーたはた迷惑な感じでした。ハイゼさんは悩ましげにアゴをさすられます。


「そうか。それでもあがきたいものだが、どうだ? 交渉の窓口になり得る代表者などはいるのだろうか?」


 これに対してのアヴァランテさんですが、


『いる。クシャのテセオラがそれに当たるだろう。だが、そいつはこの闘争を先導してきた内の一体だ。説得は難しければ、成功したところでテセオラが指導者の立場を失うだけだろう』


 つまるところ無駄って感じでしょうかね。引き続き悩ましげにならざるを得ない感じのハイゼさんでしたが、これ以上可能性を追求するのもまた無駄と考えられたようで。


「ノーラ、アヴァランテ殿にお礼を伝えておいてくれ。そうか……厄介な闖入者を迎えたものだな」


 軽く眉間を押さえられるハイゼさんで、隣の親父さんも腕組みをされていて。まぁ、それが結論になりますよねぇ。厄介な闖入者。素性やら経緯はともかくとして、そんな事実だけが現状としては強く残った感じになりました。

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