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第21話:俺と、黒竜の系譜(2)

 鞍無しのドラゴンたちは明らかにざわめき立っていた。


『なんだ?』


『墜とされた? 何者だ、アレは?』


『他とは違う。明らかに手強いぞ』


 なんかめっちゃ注目集めてやんの。で、そのドラゴンたちは次々と咆哮と共に俺に突撃してきて。モテ期、到来。とかふざけてる場合じゃないよなぁ。またまたの冷や汗だった。た、多対一かぁ。低周波シングルコアの俺の脳みそじゃ、ちょっと以上にキツイよな、これ。


 でも、意外となんとかなったりするのでした。


 風の魔術を活かしつつ、頭突いたり尾ではたいたり、ドラゴンブレスを叩き込んだり。魔術含みの猛攻をかわしつつ、何とかそれらを実行することが出来ていた。


 やっぱり違うよなぁ。


 一体をバチコンと尻尾で弾き飛ばしながらにそうあらためて実感した。黒竜とはやはりさっぱり違う。アレはまさしく練達の戦巧者って感じで、迫力も恐ろしいものがあった。だけど、コイツらはね。技術はあるっぽいけど、迫力みたいなのはまったく無く。俺ですら気圧されることなく冷静に対処することが出来た。


 ただ、楽な相手かと言えばそうでは無いけどね。つ、疲れた。そもそも俺に複数を悠々と相手出来る実力は無いし。本当、娘さんが恋しいなぁ。娘さんが背中にアレば余裕のよっちゃんでしばき倒せそうなんだけど。俺一人じゃどうにもこうにも。一体をしばく間に二体が集まってくるような有様で。


『……ど、どないしよう』


 思わず呟いちゃいます。これじゃあ任務を果たせないばかりか、最後にはやはりあの世で娘さんをお待ちすることになってしまいそうな。


 誰かたすけてー。


 なんて凡ドラゴンが分不相応に願ったのが悪かったのか。新たに近寄ってくる飛影があった。そして、その姿に俺は心臓をピタッとさせることなる。


 ……黒竜なのでは?


 そっくりだったのだ。体色はもちろん、体格も同様だった。アイツはハルベイユ侯領で倒れたはずなんだけど、それでもこの見た目、雰囲気は……こ、殺されるのでは?


『尋ねる価値があると判断し尋ねるっ!! 良いかっ!?』


 ビビリながら、ドラゴンたちの包囲を外すべく飛び回っている最中だった。不意にだ。その黒竜から大音量の問いかけがあって……はて?


 俺は思わず首をかしげることになった。そこに敵意は無いし、声音がえーと女性? 凛々しい女性の声音であれば黒竜のしわがれ声とはほど遠い。そして質問するけど良い? って問いかけられているみたいだけど、


『こ、この状況で伝わるものが色々とあるんじゃないかなっ!?』


 んな余裕はございませんってことで。


 女性版黒竜さんは距離をとって俺の背後についているみたいなんだけどね。『なるほど』なんて納得を口にしてきて。


『承知したっ!!』


 で、そんな返答だった。『なにを?』って感じだったけど、う、うおっ!? 死ぬほどびっくりした。いつぞやを思い返さざるを得ないというか、背後で膨大な光量が弾けた。雷撃。あかんヤラれるって感じだけど……んー? 


 振り返る。三、四体に追われていたはずなんだけど、青空にその飛影は無かった。黒竜ライクな女性のドラゴンさんだけどが、悠々と翼をはためかせている。


『これで良いだろう。どうだ?』


 ちょっとにわかには応じがたかった。どうだってどうだ? 『フレンドリーファイア?』って感想しか浮かばないけど、このドラゴンさんのおかげで俺が窮地を脱出したのは事実であり。


『え、えーと、あー、ありがとうございます。助かりました』


『それは良かった。ようやく見つけた言葉の通じる竜種だからな。堕とさずにすんでなによりだ』


『俺も堕ちずにすんで何よりで……それであの、何かご用で?』


 戸惑いながらに尋ねます。旧黒竜の件もあれば、鞍の無いドラゴンは全員敵ぐらいに思っていたからねぇ。この展開にはそりゃ動揺を隠せないわけです。で、新しい方の黒竜さんでした。するりと俺の隣に並んできます。


『聞きたいことがある。シドのカレイジャス。この名に覚えはないか?』


 誰? とか思ったのは一瞬だった。思い起こされるのはくだんの旧黒竜。そんな名乗り上げを俺にしてきたような気がしするけど、あの、もしや? ゆるく旋回しながら、俺は旧黒竜そっくりの新黒竜さんを見つめる。


『もしかして、ご親族様で?』


『……なに? 知っているのかっ!? 我が名はシドのアヴァランテっ!! カレイジャスは我が祖父だっ!!』


 案の定だった。アヴァランテさんとやらは、あの旧黒竜のご親族のようで。うん。俺たちが命を奪うことになったあの旧黒竜のご親族のようで。


 これ、ヤバくね?


 冷や汗が止まりませんぬ。このドラゴンさんは祖父である旧黒竜を探しているみたいだけどさ。俺ってさ仇みたいなもんだよね?  いや、それ以外の何者でもないよね?


『どうした? 何を黙り込んでいる?』


 そんなことを尋ねてきたけど、そりゃあの黙り込みもしますよ。下手なことを口にすれば、雷撃がビビビっと襲ってくるかもだよなぁ。ハイゼさんの期待に応えたければ、娘さんを残して死にたくもない我が身だ。ここはその、何か上手いこと誤魔化しておく必要があるけど……もう遅いか?


 意味深な沈黙が色々と伝えてしまったっぽい? アヴァランテさんは俺にすっと目を細めてきた。


『……貴殿か? 貴殿が我が祖父を地に墜としたのか?』


 謝り倒すべきか、誤解だと言い張るべきか。どちらの方が俺の命脈をつないくれるか悩ましいところだったけど、この沈黙自体が悪い事態を招きそうだよなぁ。


 とりあえず覚悟はした。本当、ここで死ぬわけにはいかないし。強敵の気配はするけど、なんとしても戦って勝つ。生き延びる。それだけだよね本当ね。


 ただ、えーと? どうにもだ。アヴァランテさんには殺気のようなものはみじんも感じられなくて。


『……どうだった? 祖父の死に際は? 満足していたか?』


 穏やかな問いかけだった。やはりそこには殺気は無く。俺は首をかしげて問返すことになる。


『え、えーと、復讐とかそういう話ではないので?』


『そんなことは考えたことも無い。私が知りたいのは祖父の顛末だ。どう生きて、どう死んだか。知っているのだろう? 早く教えてくれ』


 どうにも空戦に至ることはないのかな? いやまぁ、教えた途端にやっぱ殺すわってなる可能性もあるけど。ただ、教えなかったらその時も色々起こりそうだし……ここは素直にいきましょうか、素直に。


『あー、なんと言ったらいいか難しいですけど……かなり鬱屈したものを抱えていたみたいだったけどまぁうん。最後は多少は納得と言うか、そんな感じだったような』


 思い返すとそんな様子だったっけね。穏やかにとは間違っても言えないだろうけど、こ、これで返答は良かったですかね? 『そうか、じゃあ死ねっ!』みたいなことになったりしない?


 アヴァランテさんはわずかに沈黙をはさんだ後で口を開いてきた。


『……納得か。それは……良い最後だったようだな』


 どうやら俺の返答はアヴァランテさんにとって悪くないものだったようだ。ただ、十分なものであったかと言えばそうでは無いらしく。


『詳しいところを聞きたい。祖父はどう戦ったんだ? どう戦い、どう地に堕ちることになった?』


 そう尋ねられたわけだけど、え、えーと、あー。身内の死にまつわるあれこれを知りたい気持ちは分かるんだけどうーん。


『す、すいません。今ちょっと忙しくてですね』


『む? そうなのか?』


『それはもう。ご存知かと思いますが、こんな状況ですので。ちょいと託されたことがありまして』


 ちょっとゆっくりお話出来る状況じゃあ無いよなぁ。空戦で大分時間をロスしちゃったわけで、急いで本来の用事を果たさなければ。アヴァランテさんは『なるほど』と頷きを見せてきた。


『そうか。では、貴殿の用事、私が手助けさせてもらおう』


 へ? となった。手助けってさ、このドラゴンさんは間違いなく鞍無しドラゴンズの一員のはずなんだけど。


『えーと、貴女のお仲間さんと俺はけっこう戦うかもですが……』


『問題ない。と言うかだな、貴殿も私がそのお仲間を墜としたことを知っているはずだが』


『あ、はい。そういえば』


『私は祖父やあの連中とは違う。だから気にするな』


 違うって一体何がどう違うのか。そもそもこの連中は何故に現れたのかってことも含めて色々と聞きたいことはあるけどね。でも、今は本当悠長にしていられる時間は無いわけで。


『ありがとうございます。よろしくお願いします』


 こうしておくのがベストだろうさ。


 アヴァランテさんは『了解した』と返してくれて、さてさて。ようやく仕事にとりかかれそうだった。俺は地上に目をこらしながらに大翼に力を込める。


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