第18話:俺と、直談判(2)
レオニールさんとのまさかの遭遇でした。
しかし、さてはて。脳裏に疑問を浮かべるしかないわけです。人気のないこんな場所で何をって、そう思わざるを得ないわけで。
一方で、あちらさんは首をかしげていました。それもまた、当然と言うかさもありなんと言いますか。あの人の視界に映っているのは、俺の頭をグワシと両手でつかんでいる娘さんと、その結果として若干以上にグロッキーになっている凡ドラゴンの姿ですからね。
「……秘密の折檻とか、そういった感じですかな?」
「ち、違いますっ! 人聞きの悪いことを言わないで下さいっ!」
娘さんは不満を叫んだけど、実質そんな感じは否めないよね。娘さんの両手から解放された俺は、どうしようも無く長い首を地面に垂らすことになります。し、しんどかった。なんのためにここにいるのかを忘れてしまうぐらいにしんどかった。
ただ、俺の体調はともかくです。俺は首をかしげてレオニールさんを見つめます。
「れ、レオニールさんはなんです? どうしてここに?」
気になり尋ねかけました。こんな場所でやることなんてバードウォッチングか、王様の耳はロバの耳的なサムシングぐらいしか思いつきませんけどねぇ。
実際、何か秘密要素の高いご用事だったのかしらん? レオニールさんは「うっ」と言葉を詰まらせられますが……むむ? これはあの、ちょいと思い出させられます。ラナとの会話だけどさ、人気の無い場所でこの騎手さんは例のあの方と密会されているとかなんとかでしたが。
「おやまぁ。誰かと思えば貴殿らだったか」
発言はレオニールさんのものではありませんでした。レオニールさんの背後からひょっこり現れた人影がありまして。そりゃもう、目を見張ることになりました。うわぉ。ま、マジで?
「か、閣下っ!? メルジアナ様ではありませんかっ!?」
娘さんの驚きの叫びのままの方でした。人影は、カルバの実質的な指導者であるメルジアナさんその人に他ならず。俺は思わず頭を下げるのですが、しかしこれってまさか。
「れ、レオニール殿のお相手は、まさか閣下だったので?」
思わず尋ねかけますと、メルジアナさんは何故か嬉しそうな笑みを見せられました。
「お、やっとだな。やっと始祖竜殿の声が聞けた。見た目に似合わず優しい声だったな。うむ、素敵だ。実に良い。ただ……」
メルジアナさんは笑顔のままではありませんでした。ジトッとした非難の目をレオニールさんに向けらます。
「おい。詩人気取りの大間抜け。お前は何なんだ? なにを他国に気取られるような真似をしてくれているんだ? ん?」
レオニールさんは冷や汗まじりの笑みを浮かべられるのでした。
「い、いえいえまさか! 私は決して気取られるような真似はまったく。間違いなく、これは始祖竜殿の類まれなる鋭敏さが生んだ結果であると……」
「はぁ。なんたる無様な言い訳。お前は自分で思っているほど腹芸は上手くは無いからな? 詩の腕前と同じだからな? まったく、手のかかるヤツだなお前は」
メルジアナさんはただただ呆れ調子で、レオニールさんはひたすら恐縮されていますが。これって確定でいいよね? これって絶対にそういうことだよね?
俺が2人の関係について確信するのですが、一方で娘さんでした。この人は察するような機会に恵まれてませんでしたので。
「ね、ねぇ、ノーラ? なにこれ? これってどういうことなの? これってどういう意味なの? ねぇ?」
蚊帳の外の娘さんは、この異常事態に俺の頭を再びぐらぐらでした。まだ完全に回復してなければうーむ、辛い。でも、頼ってもらって嬉しー。ただ、これは俺の口から説明させて頂いても良いことなのかってことで黙り込むしかないのですが。
どうやら、ご本人が説明して下さるそうでした。
メルジアナさんは苦笑の表情で娘さんを見つめられます。
「まぁ、この状況を見られては説明しないわけにもいかんか。見ての通りだ。密会だな。内緒の逢瀬だ」
そしての、やはりの証言でした。
心構えのあった俺に対して、前情報も無ければ、身分社会の当人である娘さんです。絵に描いたように唖然と目を丸くされました。そして、
「え、えぇっ!? な、なんですかそれっ!? 一体どういうことですかっ!?」
疑問を叫ばれたのでした。やはり身分社会のお人です。理解が及ばなかったって感じでしょうねぇ。
メルジアナさんは引き続きの苦笑で娘さんに理解を示されます。その上で、隣のレオニールさんの肩をポンと叩かれました。
「だから、こういうことだ。これ以上は恥ずかしいからな。察してもらえるとありがたい」
これで腑に落ちたようでした。
娘さんはメルジアナさんとレオニールさんを交互に見つめられた上で、顔を赤くされます。
「そ、そういうことなのですか?」
「そういうことだ。内密にお願いするぞ? なにせ私は王族、一方のコイツは有力な貴族でもない一人の家臣に過ぎないのでな」
「き、禁断の愛ということで?」
「ははは。そんな大仰なものでも無いがな。貴殿らはどうした? まさかそちらも逢い引きか?」
こちらに矛先が向いてきたのでした。それはまぁ、そちらさんからすれば気になるところでしょうからねぇ。ただ、逢い引き。当然娘さんは慌てて首を左右にされます。
「は、はいっ!? い、いえ、私達はその、さ、散歩ですっ!! 騎竜の心労を軽くするためのものでしてっ!!」
「そうかそうか。では、邪魔したら悪いな。立ち去ることにしよう。ではな、また村でな」
そうしてメルジアナさんは居心地の悪そうなレオニールさんを連れて去っていかれたのですが……マジでなんのためにここにいたのか忘れそうだな。
「……ね、ねぇ、ノーラ」
「は、はい、サーリャさん」
「なんかすごいね」
「す、すごいですね、はい」
ただの逢い引きじゃないもんなぁ。れっきとした王家のお姫様と、家臣に過ぎない方の逢い引き。娘さんの言葉じゃないけど、禁断の愛って感じなんだろうね。この世界の人からすれば、本当そうとしか言えないのだろう。
「……ダメなはずなのに。でも、そうなんだ」
俺はちょっと娘さんを見つめることになります。なんかちょっと意味深なと言うか、感慨深げな呟きでしたが。娘さんは俺が見つめていることに気づかれたようで。俺を見返してこられて、しかもそこには怒気がにじんでいて。
「ちょ、ちょっと何よっ!! なに見てきてるのよコラっ!!」
「え、え、別に深い意味は……って、い、痛たたたたっ!! 目っ!! 目は止めて下さい目はっ!!」