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第17話:俺と、直談判(1)

 ヘタレドラゴンと言ってこの上ない俺なのだ。


 正直めちゃくちゃためらっていたんだけどね。俺のプライマリーパッシブスキルである『問題の先送り』が発動しそうな気配しか無かったんだけどね。


 でも本当、どうにもこうにも現状に耐えねていた俺ですので。


「あ、あの……サーリャさん。少しいいですか?」


 偵察と訓練をかねた飛行の後です。ドラゴンの集結地に降り立ったタイミングで俺はおずおずとそんな声をかけることになったのでした。


 で、サーリャさんですが。「ん?」と眉をひそめられました。そして、にわかに手を差し出してこられまして。


「……お手」


 ホワイ? って感じですけど、とりあえず言うとおりにします。お、お手。すると娘さんは仏頂面で頷かれました。


「よしよし。分をわきまえているようでけっこう。じゃ、ノーラ。またね」


 足早に娘さんは立ち去ろうとされるのでした。そ、そのね? 娘さんの意図するところはひっじょーに分かりましたがね? 今日はですね、ちょっとそこに反抗させて頂きたくてですね?


「ま、待って下さいっ! 大事な話があるんですっ!」


 無視されちゃうかなぁってちょっと思ったのですが、そこはお優しい娘さんでした。仏頂面のままでしたが、足を止めてこちらに振り向いて下さいました。


「……なに? 食事にでも文句つけたくなったの? 水が体に合わないとか?」


「そ、そんな文句つけたことは一度も無かったと思いますけどねっ! そうじゃなくってですね、あの……話をさせて下さい。本当、私にとっては大事な話があるんです」


 めっちゃ喉が乾くけど、なんとか嘆願を言葉に出来ました。娘さんは難しい顔をされました。無視するかどうかを悩んでおられるって感じですけど、しばしの間を置いてです。娘さんは一つため息を吐かれました。


「はぁ。なに? 大事な話って?」


 人間の時であれば、俺は安堵の笑みを浮かべていただろうなぁ。娘さんの気が変わらない内にと、俺は慌てて頷かせてもらいます。


「は、はい! あの、大事な話でして……ちょっと場所を変えてもいいですか?」


 プライベートな話でもあれば、邪魔はされたくもないですし。現在、周囲には誰かの姿は無いけれど、いつ騎手の人が現れてもおかしくは無い。ラナやアルバに聞かれているってのも、なんか妙な緊張を覚えるし。


 重たい話を予感されたようでした。娘さんはちょっと嫌そうな顔をされます。ただ、受諾の頷きを見せてくださいました。


「……仕方ないな。分かった。向こうでいい?」


 早速移動となりました。もとからここは人気の少ない場所であり、少し進めば鳥の声しか聞こえなくなりまして。俺は娘さんと、足を止めて向き合うことになります。


「ありがとうございます。私のわがままにお付き合い下さいまして」


「本当だよ、騎竜のくせに。で、なに? 私も疲れてるから手早くね」


 もちろんのことゆっくりじっくりなんて俺のメンタルポイントが尽きてしまいますし。『問題の先送り』が発動しない内にもケリをつけませんとね。


「あの……サーリャさんの態度の理由についてお聞かせ願いたいのですが」


 可能な限り単刀直入に失礼したわけですが、ご自覚は非常におありのようでした。その上であまり触れて欲しくはないところのようで。ぷいっと視線を逸らされてしまいます。


「なに、態度って? 言っている意味がよく分からないんだけど?」


「い、いえいえ! さすがにそれは無いです! 私に対する態度は以前とは明らかに違いますよね?」


「違わない。騎竜に対する普通の態度だから」


 このままでは話が進まない気配しかなくって。思い込みが強いって言われた手前、出来るだけ聞き手に回ろうと思っていたけどさ。ここはちょっと突っ込むしかないでしょうよ。


「……式典の日のアレですよね?」


 ここに関しては思い込みは無いようでした。娘さんがピクリと仏頂面を揺らされます。正直まぁ、あの時のことを口にすることは自爆ダメージが大きいけどね。話を先に進めるためにはこれは覚悟して失礼しましょう。


「あの時は本当にすみません。もちろん騎竜としての物言いですが、妙なことを聞かせてしまいまして。それであのですね、私はサーリャさんと以前の関係に戻りたいと強く願っておりまして」


「…………」


「ど、どうすればいいでしょうか? 私はそのために何でもするつもりでして。是非とも、その点について教えていただければと思っているのですが……」


 俺は固唾を飲んで娘さんを見つめることになります。俺にしてはスムーズに本題を口に出来たとおもうけど、ど、どうですかね? 娘さんは仏頂面でそっぽを向いて黙りこまれたままで。


 そのままの状態でえーと、な、何分経った?


 あかん。そろそろ心臓が緊張で死ぬ。そう思った時でした。ガシっとです。娘さんが俺の頭を両手でつかんでこられて。『へ?』となっている俺の目を、娘さんはすごい目でにらみつけてこられて。


「……私だってさ」


「は、はい?」


「私だって同じだってのバーカっ!!」


 とりあえず分かったのは罵倒されたって事実と、俺の耳がキーンとなったってことでした。な、なにごと? ってそんな感想しか頭に浮かばず。


「へ、へ、あの、サーリャさん?」


「私だってこんな態度取りたく無いってのっ!! でも仕方ないじゃんっ!! 全然忘れられないもんっ!! 忘れられなくって、こんな態度しか取れないもんっ!! そんなことあり得ないのにっ!! そんなことダメに決まってるのにっ!!」


「あ、あ、あのですね、そそそ、その、そんなに頭を揺さぶられますとちょっとあ、あわわわわ」


「……無かったことにしなさい」


「は、はひ?」


「時間戻してアレ無かったことにしてよっ!! 始祖竜でしょ? 出来るでしょ? だからやりなさってばコラっ!! ほら早くっ!!」


 なんか無茶なことを言われている気はするのですが、頭の中身をジュースにされそうな俺としてはその……あ、あかん。何を言われているのか、詳しいところが全然頭に入ってこない。って言うか、俺はどうしたら? これで娘さんの気がすむのならって思いはあるけどさ。でも、このままじゃ矮小ながらにがんばってきた脳みそがいよいよその役割からさよならしそうな気配が……



「誰だっ!! そこにいるのはっ!!」


 

 なんか本当止めてよ。これ以上、この状況に余分な要素を足さないでよ。


 俺は混乱しつつそんなことを思うわけですが、幸いにもって感じかな? この状況に娘さんはさすがに俺の頭をシェイクし続けはいられなかったようです。両手を離しては頂けませんでしたが、ようやくひと息がつけるようになりました。


 ただ、じっくり休憩なんて、そんなことはとてもとても。どなたですか? って、そこが気になりますし。俺は怒声の方向にすかさず目を向けさせてもらうのですが……んん? 


 非常に見覚えのある方でした。


 ある意味で、この状況のきっかけを作った方でもあるかな? 俺と娘さんの視線の先にはです。くだんのカルバ王家の誇らない詩人騎手、レオニールさんの姿がありました。

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