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第16話:俺と、……あれ?(2)

「気を悪くされたのなら謝罪させていただきますが、どうでしょうか? 努力の仕方が間違っていないはずというところが気になりましてな。相手の方とはよくを話されましたか? お互いにお互いをどう思っているのかなどと相談の方は?」


「い、いえ、それはまったく……」


「ははは。でしたら、まずはそこでしょうな。もちろん気まずいところはあるでしょうが、まずはそこです。そこで初めて適切な努力というものが見えてくるでしょうとも」


 お、おぉ。


 にこやかなレオニールさんに俺は内心うなることしか出来ませんでした。こ、これは、なるほど。確かに。本当に確かに。正直なところ、それしか理由はないと思うけどね。娘さんは俺の騎竜の分別を超えた言動に怒っていて、騎竜の分を守っていればいずれ以前の関係に戻れるって。


 でも、現状を思えば……思い込みが強いかぁ。確かに思い込みかもなぁ。俺の予想もしないところで娘さんは俺に騎竜らしいところを求めていらっしゃる可能性は否定出来ない。


 話し合う、か。


 このまま騎竜らしくって活動するよりもだ。その方が良いかもね。娘さんと以前の関係に戻るためには、それが一番の近道かもしれない。


「ありがとうございます、レオニールさん。なんだか道が見えたような気がします」


 長い首でべたりと頭を下げさせてもらいます。レオニールさんはいやいやと、笑顔で手のひらを左右にされました。


「お礼などはそれはもうけっこうですがな。カルバの救世主殿に喜んでいただけたのならばそれに勝る喜びはございません」


「そうおっしゃって下さるとありがたいです。しかし、本当すごいですねぇ。本当にさすがメルジアナ様が信頼を寄せられるお方で」


 心からそう思うのでした。お若い方なんだけどなぁ。多分前世の俺と同じぐらいなんだけど、そのインテリジェンスは比べものにならないよな、絶対。


 尊敬ですね、マジ尊敬。そう思って見つめちゃうけど、レオニールさんはどこか照れくさそうに頬をかかれました。


「そう褒められてしまうと居心地が悪いですなぁ。実際のところ、これは私が言われたことでして。だからこそもしやと思ったのですが」


「へぇ? レオニールさんがですか?」


「えぇ。そうであろう、そうあるべしという思いを捨てて私を見て欲しいと。私もたいがい思い込みが強いものでして、一度そんなことを」


 再びの「へぇ」でした。余裕があり柔軟な人って感じのこの人ですけどねー。こういう人でもそういう側面を持っていたりするんです。ちょっと安心出来るような気も。


 ただ、しかし……な、なんかですね。なんかドキドキしちゃう。いやね、レオニールさんが自分も同じとして語ってくれた内容がね? どう考えても、そういうシチュエーションだったんじゃないかってことで。


「え、えーと、話をそらしますがすいません。先ほどの見て欲しいのくだりですけど、もしかして告白された時のお言葉だったりしますか?」


 思わず尋ねちゃいます。なんかもう気になって気になって仕方がなかったので。ただ……なんか、ヤバいこと聞いちゃったっぽい? レオニールさんは目に見えて顔を強張らせました。しまったって感じっぽいけど、これは。


「す、すいません。妙なことを聞いてしまいまして」


 とにかく謝って引き下がります。よく事情は分かりませんけど、出歯亀で人を困らせる趣味は無いですし。でも、レオニールさんでした。固い表情のままで引きつった笑みを浮かべられます。


「い、いやその、はははは。別になんでもありませんぞ? 後ろめたい話では、これはもうまったく。是非聞いていただければ」


 多分、後ろめたい話なんだろうなぁ。なんか普通じゃない恋愛をされているっぽい? それが露見することを恐れられているっぽい? そして、動揺を示してしまったものの、普通の恋愛話の体を取り繕おうとされているっぽい?


 ど、どうしましょう? どんな恋愛しているんですかね? って問いかけたくはありますが、ここはまぁ一般的感性で応じることにしますか。俺は1つ頷きをします。


「そ、そうでしたか。まぁその、レオニールさんほどの騎手殿であれば、それは女性に好かれるでしょうしねぇ」


「は、はは。そうですな。それなりには、はい」


「でしょうねぇ。ですと大変ですね。この内乱じゃ、連絡を取ることも難しいでしょうし」


 割と妥当に会話を回せたような気がしました。でも、え? これもダメなの? レオニールさんは冷や汗で応じられます。


「そ、そうですな。なかなかそう、連絡の方も難しく……そう難しいですな、はい」


 多分、難しくないんだろうなぁ。連絡の容易い方と恋愛されているんだろうなぁ。


 レオニールさんは「ごほん」と一息でした。その上で、軽く頭を下げられます。


「そ、それでは失礼を。あまり油を売っていると怒られてしまいますのでな」


 で、そそくさと立ち去られました。俺はもちろん追求なんてせずに見送ることになるのですが……うーん、気になる。公には出来ない感じの恋愛で、すぐ連絡が取れるほど相手は近しいところにいる。むむむむ。レオニールさんは一体どんな問題のある恋愛をされているのか……


『うーむ』


 俺は隣を見つめることになった。いやだって、俺の唸り声じゃなかったですし。俺の視線を受けて、ラナが見つめ返してくる。


『あ? なによ? 何か文句でもあんの?』


『いや文句なんて欠片も無いけど、起きてたの?』


『そりゃ見ての通りでしょうよ』


『ま、まぁ、うん。でも何? 何が気になったわけ?』


『別に。なんとなく』


『なんとなく?』


『そう、なんとなく。あれはそうね。恋? そんな感じの話題よね?』


 なんか、遊びの時みたいにラナの瞳が輝いているような気も。年頃ってことなのかねぇ。ラナさんは人の恋路に興味津々のようだ。しょ、正直意外だな、うん。


 ともあれ、俺だって興味津々ですし。良いね、恋バナ。レオニールさんには悪いけど、他人の恋路はなんかこうワクワクするよなぁ。


『まぁ、恋だろうね。気になるよなぁ。あの詩人騎士さんは、一体どんな恋愛をしているのやら。相手なぁ』


『相手ってアイツじゃないの? さっきもいたヤツ。うざいヤツと一緒にいたアイツ』


 誰? とはさすがにならなかった。そりゃまぁ、メルジアナさんのことだろうけど……いやいや。俺は苦笑の心地で首を振ることになった。


『ないない。あの人はカルバの総代を務める王家のお偉いさんだよ? で、レオニールさんは名騎手とは言えども、ラウ家と大差ないぐらいの家柄らしいし。それが恋仲なんてさ』


 許されるはずが無いってことだ。ただ、人間の事情にはまだまだ疎いラナだ。ややいぶかしげに目元をしかめてくる。


『アンタが何を言っているのかはよく分からないけど……でも、けっこうアイツら一緒にいるわよ?』


『へ?』


『私らのいる周辺でこそこそとさ。アンタはうじうじしてて気づかなかったかもしれないけど』


 俺は思わず周囲を見渡します。俺たちのいる周辺で? つまるところ、人影の少ない場所でお二人でってことで? 逢い引きしてるってこと? 内緒の逢い引きをしてるってそういうこと?


 ……いやぁ、それは無くね?


 俺はラナの見間違い説を内心で推すのだった。だって、それはね? 身分というものの価値が高いこの世界において、そんな恋愛が成り立つわけが……って、あぁ、そう言えば。


 ちょっと思い直すことにしました。そう言えば、レオニールさんがおっしゃっていたもんね。俺が思い込みが強いかもしれないみたいな話を。なんか確かになぁって実感するよな。俺って、自分の中の常識をかなり大事にしがちなような気も。


『そう言えば、アイツ良いこと言ってたわよね。アンタが思い込みが強いかもしれないって話』


 ラナからもそう言えばの意見でしたが、本当まぁね。俺はラナに頷きを見せる。


『だね。確かにそうだよなぁ』


『そうよ。ホントのホントにそうだから。アンタはもうさ、まったく思い込みが強くてそれ意以外の可能性は考えなくて……って、むむ?』


 不意に唸り声を上げたラナだけど、えーと? ラナはしばし間を置いて口を開いてきた。


『ま、いいんじゃない?』


『へ?』


『いいんじゃないの? そのままのアンタで。その方がいいわよ、うん。絶対良い。そうやって思い込んでうだうだしてるのって、すごいアンタっぽいし』


 とりあえずのところ、褒められていないことは非常に分かりました。


 ラナの思惑不明の発言はともかくだ。だよなぁ。レオニールさんのおっしゃったことは本当にごもっとも。ここはそのアドバイスをありがたく活かさせていただいた方がいいだろうなぁ。


 娘さんが実際に何を思って俺と距離をとっておられるのか。


 レオニールさんの言に従って、直接うかがうのが吉なんだろうね。



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