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第14話:俺と、名手との戦い(2)

「サーリャさんっ!! 後ろの2騎ですっ!! 上司を困らせてやりましょうっ!!」


 正直、我ながらなんのこっちゃって進言でしたけど、疑問の声は返ってきませんでした。まぁ、そこはさすがの娘さんということなんでしょう。俺の考えつくことなんて、もちろん思いつかれていたんでしょうねぇ。


「ははは、よしっ! その気にさせてやるとしますかっ!」


 なんか心が通じ合ったみたいでうれしー。なんてコミュ障の錯覚はともあれ。攻勢の時間でございます。反転する。んで、狙いは後ろの2騎。狩人気取りで油断たっぷりのお2方に肉薄し、そして、


「……ッ!?」


 声にならない悲鳴が響いた。騎手の一人が、娘さんの釣り槍でお空にふわり。あとはズシーンだけど、娘さんはそれを見届けるようなマヌケじゃない。取った軌道は最初から2騎を一息で片付けるためのもので、その通りの結果が訪れる。すかさずふるわれた釣り槍がもう一人を青空にポイっと。


 この結果は、明らかにカルシスさんに動揺をもたらしたらしい。眉をひそめた表情で、背後の俺たちの様子をうかがってきていた。悠々と逃避行にしゃれこんでいたせいだって、自身を責めているのかもねぇ。


 ただ、カルシスさんの判断は変わらずの逃走だったけど。うーむ。お供が2人落とされたぐらいじゃ足りないか。だったらそりゃあね。


「左手に3騎見えますっ!」


「よーし、次行こうか、次っ!」


 手綱の指示は一瞬で来ました。俺たちは青空に浮かぶ飛影に一目散で向かいます。すると……よしよし。カルシスさんは逃走を止めました。慌てて新たな軌道を取りましたが、それは俺たちを追いかけるものです。


 まぁ、そりゃそうだよね。カルシスさんって、カルバ反体制派を代表する騎手さんって話なんだから。


 目の前で味方の、あるいは配下の騎手たちが次々と落とされたとして、それを黙って見ていられる立場かどうかって話だった。そりゃ、黙って見てられないでしょうってことで。お前がついていたのに何故こんなことにっ! って、そう詰られるのは当たり前で。いや、それですまないか、この世界なんだから。下手したら打首的なことも? 


 ということで、狙いは大成功。実力もあれば責任もある人は大変だよね。凡人以下の俺としては遠い目でしみじみとさせてもらうのですが……どうされますかね? 娘さんの決断が気になります。迎撃に向かうか、それともって話ですが。


「せっかくだからっ! 苛立たせられるだけ苛立たせるよっ!」

 

 それともってことのようでした。相手が腕利きであることはまぎれもない事実。そんな相手と有利に戦うために、娘さんは精神的ダメージを与えることを選ばれたと。うーむ。騎士道精神とかとは無縁な感じですが、まぁ、ラウ家は田舎の豪族めいた小貴族ですし。当然、高潔さよりも勝ちゃあ良いんだよ勝ちゃあの精神でいっぱいでございます。


 と言うことで、いざゴーゴーゴー。


 カルシスさんの騎竜の方が速さは全然上ですし、追いつかれないために大翼に必死で働いてもらいます。んで、目についていた3騎を強襲。ハルベイユ候領のなじみの騎竜が追われていましたので、3騎は間違いなく敵の騎竜。安心して餌食にさせていただきましょうか。


 一人が宙を舞いました。その事実に思考停止したっぽい残りは、娘さんの前にあえなく餌食に。これでカルシスさんは5騎を見殺しにしたわけです。背後をうかがえば表情には如実に焦りの色が浮かんでいるようですが、しかし娘さんはまだ足りないと思われたご様子。


「まーだいくよっ!」


 へい。娘さんが望みとあれば、それに従うのが私の役目でございます。


 手近に集団戦を繰り広げている空域がありましたのでそこにカチコミです。ハルベイユ候領の騎手の姿が目立って視界に映ればアレか? クライゼさんが出来るだけ敵を引き寄せてくれている空域に来たのかな?


 なんにせよ、敵が分かりやすくてけっこうなことです。娘さんに停滞は無く、釣り槍が猛威を振るうことになり。またたく間に1騎に2騎、旋回をはさんで3に4に5。すきを見せている騎手を狙って食い散らしますが、うーん。しかしですね。当初の予定を考えるとこれは……


「……サーリャのやつ、こんな計画だったか?」


 どこかでクライゼさんの声が聞こえたような気がしましたが、ほ、本当ですよね。まったく当初の予定とは違いますが、即席の目的の方は上手くいっているようでした。


「アルヴィルの弱卒風情が……ふざけるなっ!!」


 背後から、そんな憎々しげな叫びが耳に入りました。ふーむ、大分頭に血が上っているご様子ですが、しかしけっこう近い? ちょっと後ろを見る余裕はないけど、この感じで声が届くってことはおそらくはね。


「サーリャさんっ! すぐ後ろですっ!」


 一応、お知らせさせてもらって。反応は一瞬で返ってきました。


「じゃ、そろそろ仕留めるよっ!」


 とのことでしたが、まず問題は背後を取られているこの状況をどうするかですけどねぇ。腕前に差が無い限りは、なかなか攻守を反転させるのは難しいことなんですけど。


 さて、どうされるのかと思っていると指示は急降下でした。ふーむ? 娘さんの考えることはおよそ察することの出来る俺ですが、これはちょっと分からんかな。ここから地上までのチキンレースをやるって選択肢もあるんだけど、それで動揺を誘えるのは初心者ぐらいだし。相手が腕利きであれば、頭上を取られるだけで終わってしまう話であるけど。


 そしてです。はてさてなんて疑問に思っているところに来た娘さんの指示は……はいぃ? 


 突っ込めってものでした。森の中に。なるほどね、そうきたか。そうきた……か? え、マジ? そうくるの? そうきちゃうの? いや、やれと言われれば従いますけど、そりゃ娘さんの騎竜であれば当の然のことなんだけど、大丈夫かこれ? 


 不安で一杯ですが、俺は娘さんラブ勢の最右翼ですので。もちろん拒否なんて選択肢はありません。


 ということで、ゆるく弧を描きながらに森の中へダイブ。娘さんがハイになった末にヤベェ選択をとってるんじゃないかって若干疑ってましたが、なるほどなるほど。


 割と飛べてます。その理由はと言えば、これが管理された森だからでしょう。そう言えば、付近の地上に村が見えたような気がしましたけど、木々の間には十分な間隔があって、枝も適度に落とされていて。


 おそらく空戦の最中に目星をつけられていたんでしょうね。カルシスさんを引き離すのにこれは使えるって。さすがは娘さんでありナイスなご判断ですが痛っーだだだだだ。枝くっそ痛ぇ! 小柄な俺ですが、それでも枝葉をさけきることは出来ずの痛ーだだだだ。でも、これはマシな方だよね。一歩間違えれば枝にひっかかって地面に叩きつけられるか、木の幹に直撃してこの世からもおさらばするかだし。


 ともあれ、飛行するのには正直地獄めいた環境ですが、その思いは娘さんも同じようでした。木々の合間をジグザグに飛行し、パパっと森の外へ。そして上昇。ちょうどその先に敵の騎竜がいたのでついでにと墜としまして反転。


 カルシスさんは常識の範疇の行動を選ばれたようでした。森の上空を旋回して俺たちを探していたようですが、完全に見失ってたっぽいね。上を取られて初めて俺たちに気づいたっぽい。


 ここで、どうやら今までの嫌がらせが日の目を見たようでした。カルシスさんは完全に攻め手の有利を失ったわけで、速力に優れればここは一旦逃げておくのが一番だと思うんだけどね。しかし、実際の名手さんは、ふらふらーっと俺たち目がけて上昇をかけてきていて。


 目の前で味方の騎手を散々墜とされて、さらには森の中に突っ込むとかいうワケワカメの行動を見せられたのです。正常な判断が出来る状態じゃないんだろうなぁ、気の毒に。


 ということで決着でした。降下します。上昇してくるカルシスさんの騎竜、その下に潜り込むように突っ込みます。多分、相手からは消えたように見えたでしょう。そして、すれ違いざまに娘さんの釣り槍が閃きまして。


 呆然としてカルシスさんが地に堕ちていきます。


 敵中に突っ込んで、散々目立ったことが功を奏したのかな? 多くの騎手たちがことの顛末を見届けていたようでした。頭上からは、歓声やら驚愕やら恐怖やら色々なざわめきが降り注いできます。果たして、これがこの圧倒的に不利な戦況にどう影響するのかは分かりませんが、まぁなーんにせよですね。


 俺たちは自分たちの仕事を果たしたわけです。


 娘さんは手綱を持つ手でポンポンと俺の首を後ろを叩いてきました。これは何度も経験がありました。ねぎらいのこもった仕草でありましてこれは……ふ、ふふふふふ。


 これ、成し遂げちゃったんじゃないかな?


 騎竜として娘さんの期待に応えることが出来て、信頼とか回復しちゃったんじゃないかな? いや、以前にも増した信頼を勝ち取ったんじゃないかな?


 ……ふはははは。やった! やってやったぞ! がはははは!


 非常に豊かな気持ちである俺でしたが、それはね一旦忘れておきましょうかね。まだ戦闘が終わったわけじゃないからね。娘さんも勝利の余韻に浸ること無く俺を再び上空に向かわせました。まーだまだ戦うつもりということでしょう、これは。


 さて、正直かなり疲れている俺だけど、信頼値を稼ぐちゃーんすであればだ。ふくくくく。疲れなんて忘れましたよ。アドレナリン全開ですよ、ぬはははは!


 俺は意気揚々と娘さんの指示で次の標的に向かうのでした。


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― 新着の感想 ―
[良い点] こんなギクシャクしてて大丈夫かと思ったけどいざ全集中しだしたら(笑)あっという間でしたね。アドレナリン全開で再び戦いに飛び出していったけどこれ絶対やりすぎてさすがドラゴンの寵姫だと祭り上げ…
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