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第8話:俺と、やる気は高め(2)

「えー、でしたら、こんなゆったりしていても良いのでしょうか?」

 

 ハーゲンビルの時と比べても、気持ちゆっくりな道中であるように俺には思えるのです。こうしている間に現体制が倒されてしまうんじゃって、そんな不安も覚えてしまうのですが。親父さんは苦笑を浮かべられました。


「良くは無いな、ただ、何分敵地なのだ。現体制から案内の者が出ているのだが、それでも慣れぬ土地であり土地の者も味方とは言い難い。慎重に進まざるを得ないのが現状だな」


「それはあの、確かにそんな感じは」


「あとは救援で来たことも大きい。本来、敵地侵攻となれば現地調達が基本だがな。今回はそうもいくまい? 小麦もまぐさも、穏便な調達が求められる。否が応でも時間はかかるというものだ」


 あえてゆっくりしているわけでも無ければ、それなりの理由があるという親父さんの話でした。そりゃそうか。ハルベイユ候にしろ、救援を命じられた手前、急ぎたくないわけが無いでしょうし。


 納得は出来ました。ただ……う、うーむ。理由があるにせよ、もしかしたら救援が間に合わないってこともあり得るのでしょうかね。娘さんに危険が及ばないことはある意味喜ばしいことだけど、騎手としての娘さんの活躍の場が失われることにもなります。そして何より、俺の名誉挽回の機会がね。


 今回を逃したら、騎手として活躍出来るのがいつになるのか分からないもんなぁ。この妙な緊張感は早く解消したいところだし。体制派の方々にはがんばって欲しいなぁ。なんとか、救援まで持ちこたえて頂けないかなぁ。


「ノーラ。もう一つ尋ねたいことを思い出したのだが、良いか?」


 悩める俺の姿に、一体何を思い出されたのか。親父さんがそんなことをおっしゃって、俺は当然と頷きます。


「はい。ご当主とあれば、それはもちろんいくらでも」


「サーリャとだがな、お前ケンカでもしたのか?」


 そう言えば、親父さんはカミールさんから領地をもらえることになったのです。実際には、領地相当の実収を得ることに落ち着いたらしいのですが、ともあれ収入相当の家臣団を編成するのに忙殺されていたようなのでして。


 そんな理由もあって、このタイミングということなのでしょう。俺と娘さんの確執に気づかれたようです。しかし、どないしよう。素直に打ち明けて、親父さんを心配させるのもどうかって思ったりもして。ただ、細心の親父さんに対して、ぱっぱらぱーの俺がこの状況を隠し通せるともなぁ。


「ケンカというわけでありませんが、その色々と」


 細部に関しては我が身の恥として控えさせて頂くとしましてです。肯定の方をさせていただきました。親父さんは「やはり」と頷かれます。


「だろうな。どうした? いよいよ、サーリャに愛想でも尽かしたか?」


 その親父さんの疑問の声に、俺はもちろん首をかしげることになりました。


 サーリャさんに愛想を尽かした? 俺が? 現状は、明らかにその逆なわけです。俺の方が愛想尽かされかけているのが現状で。


「……えー、あー、当主殿は何故そのような理解になっておられるので?」


「ん? 違うのか? サーリャは会いに行きたいがそれはためらわれると言った様子だったからな。騎手は騎手、騎竜は騎竜などと妙なことを口にしていてそこはよく分からんが、どうだ? 二度と来るなとでも言ってやったのではないのか?」


 事実誤認も良いところでした。いやその、まさか俺が娘さんにそんなことを言えるわけが無いのだけど。


「ち、違います。俺がんなこと言うわけありませんから」


「まぁ、お前の性格からして、それは無さそうだとは思っていたが。違うのか?」


「もちろん。そんなわけはまったく」


 むしろ、妙なことは二度と口走りませんので是非ともおいで下さいませって感じだし。本当、そんなわけが無いのだった。


 しかし……そうなのか。娘さん、俺たちに会いたいとは思われているようで。そりゃそうかでした。アレだけドラゴンのことが大好きな娘さんなのだ。ドラゴンのもとを訪れたくないなんて、そんなことはあり得ない。


 だからこそ、う、うーむ。この俺の罪深さというか何というか。娘さんが俺たちのもとを訪れにくくなっているのはただただ俺の迂闊な発言が原因でしょう。これは本当にもう……俺がね、責任を取らなきゃだよなぁ。


「……ご当主、お任せ下さい。今回で私大活躍しましてですね。絶対にです! 絶対にサーリャさんの信頼を取り戻して見せますので!」


「う、うむ。正直よく事情は分からんが、解決にがんばってもらえれば助かる。サーリャもかなり悩ましげだからな。あれだけ嫌がっていた婦人会にも自ら出向いているようであれば」


「さ、サーリャさんが? それはあの、い、異常事態ですね」


「色恋の話ばかりで辛いって泣きついてきたこともあったのだがな。人づてにだが、色恋話も熱心に聞いているらしいぞ?」


「い、色恋話を熱心に? これは……お、おぉう」


 罪悪感で思わずうめき声が止まらず。俺のせいでしかありませんでした。俺のせいで娘さんは精神に変調を来たすようなことに……


「が、がんばります! 責任をとって、私がもうがんばりますとも!」


 決意を叫ばせていただきました。ただ、その機会が無いことが大きな問題だよなぁ、うーん。


 

 結局のところ、活躍の機会の無い穏やかな日々は、その後3日間続くことになりました。



 で、その4日目です。


 戦闘は無くても、騎竜が空を飛ぶ機会は少なからずありました。


 なんとか体制派の本隊と連絡がとれないかってことで、偵察の意味合いの飛行でした。ただ、敵地で迷子になったら大問題ということで遠くまでは飛べず、出来るだけ高所からという見張り台的な感じの意味合いが強いものではありましたが。


 で、昨日まではです。飛行から帰ってくる騎手の人たちは、やれやれひと仕事終わりってそんな緊張感が無い感じでした。でも、今日はそんなお気楽な様子はさっぱりもさっぱりで。


 どこぞの村の開けた郊外。


 そのドラゴンの集結地に騎竜が降りてきます。いつもであれば地上でゆるやかに速度を殺すところを、騎手はやや強引に騎竜を静止させました。そして、慌てた様子で背から飛び降りると、一目散にハルベイユ候のいる村の中心へと駆け出します。


『どったの、あれ? いつもと違うじゃないの』


 ラナは寝そべりながらにのんびりと声を上げたけど、俺はそうはいきませんでした。


 騎手の様子は、明らかに平穏の終わりを告げるものであって。


 そして俺を呼ぶ使者がハルベイユ候のもとからやってきて。


 いよいよ、その時が来たようです。

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