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第6話:俺と、老将の解説(2)

「では、本題だがな。まず招集をかけた通りだが、ラウ家の参戦は決まっている。救援はこの、ハルベイユ候領の戦力で行うとなったからな」


「はい、参戦のほどは承知しておりますが、ハルベイユ候領の独力なのですね」


「そうなる。アルフォンソの件もあれば、この戦力が妥当ということになったようだ。しかし、カミールは面白い男だな」


「はい?」


「カルバに内通していたと疑っていた男を救援の総大将にするとは。反対派と通じている可能性も考えられれば、なかなか出来ない決断だろうにな」


 そう言えばと言うか、この人、そんな疑惑を受けてましたっけね。


 思い出されるのはやはりハーゲンビルだけど、カミールさんも娘さんも、この人が裏切り者だって名指しをしていたような。そんなことも含みで、俺もこの人のことを毛嫌いしていたものだけどねー。でも、この話しぶりを聞く限り冤罪ってことなのかな?


「え、えー、そのー……やはり閣下は関係が無かったということで?」


 気になるところを、娘さんはやはりなんて社交性を見せながらに尋ねられました。ハルベイユ候は当然と頷きを見せられます。


「あの当時の私に、そんな面倒な企みに加担する余裕など無いわ。首謀者はアルフォンソ・ギュネイと見て間違いなかろう。良く覚えてはおらんが、アイツらしい婉曲さで加担に誘われたような気がせんこともない」


「それはあの、良かったです、はい」


「そんなことよりも本題だ。お前には、今回の救援で騎手としての働きを期待している。そこで当然、ノーラを連れて行くことになるだろうが……」


 ハルベイユ候の視線は俺にありました。どうやら、その本題とやらは俺に関係しているっぽい? さてはて。俺が取りざたされるような理由なんかは一つしか無いけれど。


 娘さんはちらりと俺をうかがった上で、ハルベイユ候に応えられます。


「ノーラが始祖竜とされていたことと関係がおありで?」


 やはり娘さんの頭にあったのはその事実のようでした。俺がちょっとばっかし伝説上の始祖竜さんに似てるとかなんとかで、王都で話題になったことがあったりしたのだけど。凡竜の俺に言及があるとすれば、そこしかないよなぁ。そして案の定、ハルベイユ候は同意の頷きを見せられました。


「まぁ、ノーラのこととなれば当然な」


「カルバ領内で始祖竜のようなふるまいはするなということでしょうか? カルバにも始祖竜の伝説があったように記憶しておりますし」


 俺は『へぇ』となったり、『なるほど』と納得したりだった。


 始祖竜うんぬんはこの国のローカルな伝説かと思っていたけど、意外な普遍性があったみたいでした。確かにそれだと、始祖竜ライクにふるまいなのはうーんなのかな。ウチら始祖竜持ってますよー、始祖竜に認められた勢力ですよー、みたいなことをやっちゃうのはなんか嫌味たらしいと言うかうん。救援という目的を考えても、余計な反感を買って提携に影響が出ちゃうような。


 ハルベイユ候は、今回もまた頷きでした。


「そういうことだ。言葉を話すことも、魔術を扱うこともな。カミール・リャナスからは、特に魔術の使用は控えろと厳命があったが」


「魔術を? 特に魔術をとは何故でしょうか?」


 俺も小首をかしげたりします。魔術をねー。始祖竜っぽいふるまいって言ったら、どちらかと言えば話せることのような方が大きいような気がしますけど。それでも厳命は魔術についてなんですかね?


「黒竜の件だがな、当事者でもあればお前たちも覚えてはいるな?」


 で、ハルベイユ候は逆にそんな尋ねかけをされたのでした。娘さんは当然と頷かれて、俺も当然のものとして思い出します。あれはね、ちょっと忘れられないし。驚異度だけで言ったら、王都でのアレコレなんか比較にならなかったし。あの黒竜は、本当にね。はたしてどこから来て、そもそもどんな存在だったのかなんて疑問もあれば、忘れることなんてちょっとありえないかな。


 しかし、その黒竜が今回の件にどんな関係があるのか? 予想もつかずに耳をそばだてていると、ハルベイユ候は「ふむ」と一言置いて口を開かれました。


「黒くは無かったそうだがな。カルバの領内に出たそうなのだ。魔術を操るドラゴンが」


「え?」


 娘さんは驚きの声を上げられたけど、俺もまた同感でした。お隣さんもあんなにの襲われたのか。それは何とも、最初に浮かんだのは同情の思いであるけれど。


「大丈夫だったのでしょうか? その、あちらの領民の方々は」


 優しい娘さんも、気にされたのはそんなところでした。一方で、そこまで優しそうじゃ無いハルベイユ候は淡々として応じられます。


「大丈夫では無かったようだぞ。カルバ王家が直々に対応に出る程度には大きな被害が出たそうだ」


「それは……悲しいことですね」


「確かにそうだが、それは我々の気にすべきことでは無い。問題はその災害への対処の経緯だ。カルバ王家は散々に苦闘することになったそうでな。結果、諸侯への求心力にかなりの影響が出たらしい。そのことが、今回の反乱劇の大きな要因になったという話もある。だからこそ、魔術を使うなということにつながるのだが」


「……えー、カルバの混乱の原因を思い起こさせるから……でしょうか?」


「良い理解だ。下手をすれば、アルヴィルの関与が疑われかねん。カルバを荒らしたドラゴンは我が国が送り出したものではないかとな。我々にとっては異邦の地での行軍だ。連携に支障が出るようであれば、我が軍勢の命取りになる恐れもある。可能な限りカルバの連中に妙な邪推をさせないことが肝要ということになろう」


 事実無根であったとしても、疑われるような素振りはするなってことなのでしょうね。


 確かに、見知らぬ土地で孤立無援とかしゃれにならないし。これはまぁ、心してかからないとかねぇ。俺の一つのふるまいが、あるいはハルベイユ候領の人々を陥れる可能性があるってことです。


「承知しました。ノーラには、妙なふるまいは決してさせません」


 娘さんにも同様の緊張感はあるようで、固い口調で返事をされました。ハルベイユ候は頷きを返されます。


「それでいい。本題は以上だ。この点以外には、お前には一人の騎手として働いてもらうことに変わりは無い。ラウに戻って準備を進めるが良い。期待しているぞ」


 そうして、俺と娘さんは帰宅する段となりました。


 屋敷から出て、青空の下へ。ハルベイユ候の屋敷の放牧地に出て、助走路を得て、いざ駆け出そうとして。その時です。背にある娘さんが、俺に声をかけてこられました。


「そういうことみたいだから。あくまで騎竜らしくね。頼むよ、ノーラ」


 確認って感じであり、それ以上の言葉はありません。戦争を前にした胸中とか、カルバに出現した魔術を扱うドラゴンとか、それらへの言及はありません。


 前の関係であれば、そんな話を娘さんはしてくれたのだろうけどねぇ。うーん、自業自得とは言えくっそ寂しい。何で俺はあんな言葉を娘さんの前でもらしてしまったのか……ぬががが。


 しかし、うん。これ、チャンスと言えばチャンスかな? 戦場という場で、ちゃんと騎竜として騎竜らしく娘さんに貢献し続ければさ。信頼を取り戻せる可能性も? やっぱノーラ私の信頼出来る騎竜じゃんってなる可能性も? 


 もとより娘さんのために全力を尽くさせて頂く覚悟だったけど、これはちょっと自分のためにもね? やる気出てきたかも。これはちょっと全力を尽くしましょうとも、えぇ。


 俺は一つ頷きを見せた上で、娘さんの手綱に従います。放牧地を駆けて、大空へと飛び出しました。



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