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第5話:俺と、老将の解説(1)

 カルバへ救援に向かう。

 

 そんな良くわからない招集の伝令がハルベイユ侯から来たわけだけど、伝令さんが伝えてくれたのはそれだけではありませんでした。


 詳しく説明もしてやるし、直接伝えたいこともあれば来いってさ。俺を名指しして、そんな言葉もラウ家には伝えられていたのです。


 だからの今でした。ラウ家の屋敷から、休憩を挟みつつ飛んで丸一日。無事、ハルベイユ侯のお屋敷を眼下におさめることになりました。


 王都のものと比べると、いくぶん以上に質素でこじんまりとしたお屋敷でした。あるいは、ハイゼさんのお屋敷と競うぐらいの規模かな? ただ、側にある竜舎の規模なんかはハイゼ家とは比べものにはならなかった。さすがはハルベイユ侯領を治める人の家だよねぇ。


 ともあれ、目的地に到着したのです。俺の背には、親父さんの代理として娘さんがおられます。手綱からの指示は降下。と言うことで、ゆるく旋回しつつ地上に近づきましての……よっと。


 正門前に直接失礼したのでした。するとです。屋敷からは当然俺たちの姿は見えていたようでした。若く品の良い男性が急いで正門までいらっしゃいます。


「よくぞいらっしゃいました。さ、こちらへ」


 そして、出迎えてもらえました。で、その態度にですね。俺はなんかこう妙な感動を覚えたり。ハルベイユ侯の家の人が、ラウ家の娘さんを相手している。そんな状況なのに、男性の態度には娘さんへの敬意しかないのだ。


 本当、犬猿の仲だったはずなんだけどねぇ。王都でのアレコレがあってのこの状況なんだろうけど、良い風に関係が変わってくれて良かったよなぁ。本当、ちょっと感慨深くなっちゃう。


 娘さんも当然、笑顔で迎えの人に応じられます。そして早速です。ハルベイユ候の元に案内してもらうのでした。


「ふむ。思いのほか早かったな」


 俺も一緒にということで、応接間では無く広間での会見になりました。ここでも俺は少しばかり感慨深くなるのでした。


 ハルベイユ侯は立って出迎えてくれたのですが、本当に元気になったよなぁっていうのが1つ。


 もう1つは、この人の娘さんの態度です。前はもっと、娘さんを下に見つつ無関心な感じだったんだけどねぇ。今はこう、ある程度の敬意を払ってくれているって感じなのです。


 多分だけど、王都での一連の内の何かが影響を与えたのはおそらく間違いないでしょう。そこには多分、俺の行動などもきっと含まれていて。そう考えると、何とも誇らしいというか、そういう気分になるよなぁ。ふふふふふ。


 まぁ、俺の感慨はともあれです。ちょっと頭を切り替えます。今日はもちろん、世間話に来たような気分でいるわけにはいかないのだから。


「お久しぶりでございます。サーリャ・ラウです。今回の件についての説明がいただけるとして、ヒース・ラウの代理として閣下の召還に参上いたしました」


 娘さんが膝を突いての挨拶をされて、俺はその背後に控えつつ耳をそばだてるのでした。敵国カルバを救援っていうのは、本当によー分からん話なのです。娘さんが参戦されることもあれば、詳しいところへの興味はもちろん重々にありました。


 ハルベイユ候は小さく頷きを見せられます。


「そういうことだな。説明と、伝えるべきことがあり呼びたてたのだが……ノーラはどうした? 何を黙り込んでいる?」


 挨拶はどうした? って感じなんだろうね。この人もまた、俺が話せることは重々承知している人ですから。


 もちろん、俺も礼儀大切の精神で挨拶はすべきだと思ってはいました。でも、娘さんなぁ。本当、娘さんがなぁ。


 なんとなく不機嫌そうに見える小さい背中を見つめつつ、俺は恐る恐る声を上げさせてもらうのでした。


「す、すいません。少しばかりその事情がありまして」


「事情か?」


「はい。その事情が」


 騎竜は騎竜らしくあるべし。そんなテーマを持って俺に接しておられる娘さんなのです。


 なので当然、騎竜が騎手と並んで人様に挨拶することはNGなのでした。だからこうしてね。ふっつーの騎竜らしく、大人しく犬座りなんかで控えることになってるんだよね、うん。


 ハルベイユ候は、不思議そうに俺と娘さんの顔を交互に見渡されました。ただ、言及するほどには興味をひかれたわけでは無いようです。


「まぁいい。私もそこまで時間に余裕があるわけでは無い。さっさと説明の方に入らせてもらおうか」


 ということで、ありがたくも早速の本題なのでした。


「基本は使者に知らさせた通りだ。我々ハルベイユ侯領の戦力は、救援としてカルバに向かうことになった」


 とのハルベイユ候でした。ただ、そこがメインで分からないところなのです。娘さんはもちろん疑問の声を上げられます。


「そこが分からないところなのですが。カルバを救援なのですか? 敵国カルバを? そして、そのカルバをどの勢力から救援するのでしょうか?」


「ふむ? その辺りについては委細に伝えさせたはずだがな。知らんのか?」


「はい。伝えて頂いた内容に具体的なところは」


「そうか。その辺りは、こちらに不手際があったようだな。まぁ、こちらも急なことで混乱があってな。悪いが許せよ」


 なにやら戦時っぽい情報の混乱やら不足があったようなのかな? ともあれです。ハルベイユ侯はその辺りについてしっかり説明をして下さるようでした。すかさず口を開かれます。


「内乱がな、どうにもカルバで起こっているようなのだ」


 そしてのこの発言でしたが……内乱? 俺が首をかしげたのと同じように、娘さんも大きく首をかしげられました。


「内乱ですか?」


「王族間の争いらしい。言ってしまえば権力争いだ。権力の外縁に置き去りにされていたような連中が現体制に挑戦を挑んだといった形だろう」


「それはまったく権力争いといった感じですが……それで、あの、救援……なのですか?」


「疑問に思うところがあるのか?」


「正直、はい。救援となれば、現体制か反逆を企てた側へのという話になるのだと思うのですが」


「そこに疑問か?」


「この機に双方の共倒れを狙い、カルバの打倒を目指す。そんな選択肢もあるような気がしたのです。侵攻ではないところに正直疑問が」


 なかなかに攻撃性の高い娘さんのご意見でしたけど、ぶっちゃけ俺も似たようなことを考えていたりしました。ハーゲンビルの記憶も新しいけど、カルバは敵国。カルバ国民の皆さんには申し訳ないけど、ここで両倒れを待って、そこを狙って叩く。それがこの国にとって最善のような気がするような。


 そんな俺と娘さんの一致する見解に対してのハルベイユ候の反応でした。キレイに整ったアゴヒゲをなでりなでり。その上で、少し愉快そうな視線を娘さんに向けられます。


「ふむ。さすがはヒース・ラウの娘だ。勇猛だな。その意見、私は嫌いではないぞ。共倒れを狙い、そこで武力を投じて強力に干渉を進める。都合の良い者を傀儡として王位につけるなどを出来れば、比較的穏健にカルバの実権を得ることも出来るだろうて」


「い、いえ、私はそこまでのことは考えてはおりませんでしたが……救援をということは、それは愚策ということなのでしょうか?」


「カミール・リャナスはそう考えているようだな。手間をかけて傀儡を立てるよりも、救援を送るべきだと。現体制を助けるべきだと。連中が良い隣人でもあればな」


 ん? って、思わず声を上げそうになるのでした。良い隣人? その良い隣人とやらは、ハーゲンビルに侵入した上で、そのカミールさんを謀殺しようとしていた気がするのですが。


 その疑問はやはり娘さんも同じらしく。大きく首をかしげられます。


「良い隣人……でしょうか? カミール閣下はそう考えられているのですか?」


「領土争いぐらいなら、隣国であればどうしても起こり得るものだからな。多少のいさかいは当然のことだ。その上で、現体制は信頼出来る連中であるということらしい。意味も無く侵攻を企てる連中でも無ければ、為政者としても無駄に国内を乱すことも無く。政情不安になった挙げ句に、点数稼ぎとしての侵略を強いられるような者たちでも無い」


「え、えーと、計算出来る相手という感じでしょうか?」


「カミールはそう思っているらしいな。まぁ、アルフォンソ・ギュネイのこともあれば、大規模な干渉などは夢のまた夢だ。現体制に救援を送ることが適当な決断ということになるのだろう」


 なーんとなく分かったようなそうでも無いような。


 そんな俺だったけど、まぁいっか。そこら辺りの政治的な判断なんかは、ハルベイユ候が語ってくれたこと以外にも色々な判断材料があったからこそのものだろうしねー。とにかく、現体制への救援が決まったって、それだけを理解しておけばいいかな。


 ともあれ、前座的な説明は終わったっぽい? この辺りのことは本当は使者の人が説明してくれたはずのことみたいだし。次が本番ってなるのですかね?



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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新お疲れ様です。 隣国の救助は分かるのですが、この国自体今内紛の最中だったような。 ギュネイとは現状小康状態だから厄介になりそうな方優先ってことですかね? ギュネイをいつまでも放ってお…
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