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第2話:俺と、式典後の娘さん

 娘さんの妙な変化に気づいておられるのかどうなのか。クライゼさんは首をかしげて応じられました。


「ノーラは騎竜だが、それがどうした? 並みのドラゴンとは違えば自ら考えて行動出来る。魔術に関しては任せきりにしてしまうのもありではないか?」


 そんなご助言に、娘さんは「はははは」とこれまた無感情な笑い声で応じられます。


「クライゼさん、面白いことをおっしゃりますね。ノーラは騎竜に過ぎません。騎手に従うべき存在で、攻め口は騎手が考えるべきです」


 まぁね。こんなことになるだろうと思ったけどね。


 案の定だったけど、クライゼさんの発言が呼び水になってしまったようでした。式典以来の娘さんの俺への態度を引き出してしまったようで。


 とは言っても、それはあくまで片鱗。クライゼさんにとっては気にされるほどのことは無いらしく、次のお言葉は娘さんの発言の内容についてのものでした。


「まぁ、それはその通りだとは思うが。適切な攻め口を見出すのは騎手の本分であり、ノーラに出来ることでは無いだろうな」


「ですよね? だから、魔術の指示はあくまで私が……」


「だが、ノーラはずっとお前の攻め口を見てきた。お前が望む攻め口を実現させるために、ノーラが魔術を行使していく。それは十分に可能ではないか?」


 出来る自信は実際けっこうあるのですがね。


 ただ……うーん。娘さんにとってはだよねぇ。娘さんは笑って首を左右にされます。


「ははは。確かに、ノーラは色々考えてくれると思いますけど。それでも無理だと思いますので、やはり私ががんばろうかと」


 一貫しての否定お言葉でした。ただ、それでもクライゼさんは納得がいかないご様子でして。首をひねって口を開かれます。


「そうか? お前とノーラの仲であれば、成せると俺は思うが」


 ピシリ、と。娘さんの表情が凍るのでした。まぁその、娘さんと俺の仲ってフレーズが問題なのでしょうが。


 不意にバシンとです。


 娘さんは俺の鼻面をはたかれました。


「あははは! クライゼさん、面白いことをおっしゃいますね。私とノーラの仲って。私は人間で、ノーラはドラゴンの間柄ですのに」


 その発言内容自体には、俺には異論はまったくありませんでした。しょせんはと言いますか、俺はドラゴンで、娘さんは人間なんですから。根本的な違いというものがやはり存在しますし。


 ただ……う、うーむ。


 やはりだよなぁ。先日のアレの影響だよね、これ。本当後悔の思いがぐじゅじゅと俺の胸を侵食してくるけど、それはともあれ。意識は過去では無く現実へ。娘さんがバッシバッシ俺のウロコばった鼻面を叩かれているということが気になりまして。


「あ、あのー、サーリャさん?」


「なに? 騎竜のノーラくんに何かご不満なことでも?」


「い、いえいえ。そのー、手が……」


「手? ノーラの?」


「違います。サーリャさんのお手です。騎手としての大事なお体なのですし」


 別に、妙なことを言ったつもりはありませんでした。


 でも、え? こ、これもダメなの? 娘さんは「だ、大事な……?」みたいなことを呟かれて、次いで顔を真っ赤にされて目を尖らせられて。


「ノーラっ!」


「は、はいっ!」


「貴方は騎竜でしょうがっ! 飼い主に変なことは言わない! 良いっ!?」


「ま、まったくその通りで。でも、あの手が……」


「口答えしないっ!」


「は、はぃぃ……」


 俺は涙目で引き下がることになったのでしたが、そんな俺たちの様子を眺めてのクライゼさんでした。


「……ふむ」


 いよいよ、俺たちの異常事態に気付かれたのかどうか。激しい反応を見せられている娘さんを見つめられます。


 で、それに対する娘さんの反応なのですが。「うっ」なんて口にされて、気まずそうに視線を左右にされて。


「く、クライゼさんっ! 水飲んできますっ!」


 そうおっしゃって、あとはけっこうな勢いでした。水場の方に、足早に去っていかれたのでした。


「……どうやら、自分が普通の状態では無いことには気づいているようだな」


 クライゼさんはそう口にして俺を見つめてこられます。


「気づいてはいたが、妙なことになっているようだな。何かあったのか?」

 

 まぁ、お気づきになられていますよねぇ。


 俺は頷きを見せさせて頂きます。


「はい。色々とありまして」


「どうにも、サーリャは騎手だとか騎竜だとか、そんなことにこだわっているようだが。なんなんだ、アレは?」


 不思議そうにされるクライゼさんですが、俺はまぁ当然よく分かっているのでした。


 好きって言っちゃったんですよね。


 俺は好きですけどー……なーんて、式典の当日に俺は娘さんに伝えてしまって。


 もちろん、その後です。アレはあくまで騎竜としてです! 他意なんてさっぱりありません! って弁解させてもらったのだけど。


 多分、ショックだったのでしょうねぇ。ただの騎竜ないし、しゃべることの出来るペットぐらいだったはずの俺が、いきなりガチテイストで好きですなんて口にしてきて。


 おそらく、だからの今ってことで。俺に立場をわきまえさせようということなのでしょうけど、ことさら騎手と騎竜という立場を娘さんは言い立てられているのでした。


 本当、どないしようって思いしか無いなぁ。俺は当然肩身の狭い思いをしているんだけど、娘さんもそんな穏やかな日々を送っておられるって感じは無く。


 クライゼさんが心配して下さっていますし、是非ともおすがりしたい心地ではありました。ただ、そうなると……俺が好きですって口にしたこともお伝えしないとだよなぁ。それはちょっとねぇ? 今度は、クライゼさんにまでドン引きされかねないし。


「本当、色々とありまして……ただ、大丈夫です。問題は特にありませんので」


「そうか? とにかく気まずそうに見えるが」


「だ、大丈夫です。空戦自体への影響はあんまりですし。大丈夫です。何とかなります、何とかします」


 言い切らせてもらったのだけど。


 本当、どうしようなぁ。


 元通りの日々に戻るためには一体どうしたらいいのか。


 クライゼさんの手前だけど、俺は死ぬほど首をひねることになるのでした。


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