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俺と、クライゼさんの嫁取り(3)

 何はともあれです。


 クライゼさんが嫁取りとかになればです。俺は詳しい事情を聞かざるを得ません。


「く、クライゼさんが嫁取りですか。それはまた、あの、何でまた?」


 率直に尋ねかけさせてもらいますと、ハイゼさんは何故か面白そうにほほ笑まれました。


「ほぉ? 何でまたか? そんなに不思議か? クライゼはそんな、嫁取りに早いような年に見えるか?」


「い、いえ、そういうわけじゃないんですが……」


 確かにと言いますか、クライゼさんは間違いなく前世の俺と比べても年上で。別にお嫁さんを迎えられても何もおかしくは無いのですが……な、なんでしょう? それでも、いきなり感がすごくてですね、えーと。


「正直あの、クライゼさんはそういう話とは縁が無いような感じがしていまして」


 内心をなんとか言葉にします。


 ハイゼさんは俺の胸中を理解して下さったみたいで、笑顔で頷かれました。


「なるほどな。唐突に感じたか? まぁ、クライゼはわざわざ、お前やサーリャ殿にその手の話はせんだろうからな」


「えぇ、まったく無かったですし、その、あの方はあまり女性に興味が無いような感じで」


「ははは。そうだな。そう見えても仕方ないだろうな。あやつが、サーリャ殿やアレクシア殿の容姿について言及したことは一度もあるまい?」


「一度もはい、ありません」


「だろうな。お前の思った通り、私にもアイツが女性に興味があるようには思えん。だが、そろそろだな。アイツにも身を固めてもらわなければな」


 ハイゼさんは決意を固めるように、真面目な顔をされて頷いておられて。とにかくハイゼさんはクライゼさんにお嫁さんをと考えておられるようでしたが、俺はちょっと首をひねります。


 何故、今? って感じが少しばかり。


 どうなんでしょう? なんとなく、我がラウ家の事情が頭に浮かびますが。娘さんとアルベールさんうんぬんで色々あって、親父さんが出来れば娘さんのお子さんに後を継いで欲しいのにみたいに嘆いておられまして。


「クライゼさんのご家族から要望などが? そろそろ跡取りをのような」


 そんな感じでせっつかれて、ハイゼさんは当主として面倒を見ようとしておられるのではないか? ちょうどですね、王都には式典を前にしてです。お貴族様の年頃の女子、男子が勢揃いしているようですし。この機会にうりゃーって感じで。


 そう俺は思ったのですがね。


 ハイゼさんは笑って首を左右にされました。


「ははは、そういうわけでは無いな。いや、ある意味近いか? 私の要望となれば、家族の要望のようなものだからな」


 俺は「へ?」と目を丸くすることになりました。


「え、クライゼさんってあの、へ? ハイゼさんのご親族だったんですか?」


 てっきりです。ハイゼ家の家臣のお一人だと思っていたのですが。実は一門の方だったと? なるほど、そう思ってクライゼさんとハイゼさんの顔を思い浮かべますと、何かしら通じるところが……あるかな? 無精ヒゲと無精さも無いヘッドでは、あまり共通点は。まぁ、うん。似ていない親子、似ていない兄弟なんて珍しい話では無いでしょうからね、そういうことなのでしょうか。


 そう思って、しかしまたもやでした。


 ハイゼさんは大笑いで首を左右にされます。


「はっはっは! 違う、そうではない。まぁ、親族のようには思っているがな。あやつはな、私が戦場で拾ってきたのだ」


 ふぇ? でした。


 ぴくりとも出来ずに俺はハイゼさんを見つめることになります。クライゼさんがハイゼさんの親族かもしれないなんて、そこにまつわる驚きとは比較にならないものが俺の胸中に湧き立ったのでして。


「……ひ、拾った? それはあの、ど、どういうことで?」


「文字通りだな。拾ったのだ。もう何年前になるかも分からんが」


 ちょっと反応が出来ませんでした。これは衝撃的……だよね? この世界の人たちがどう思われるのかは分かりかねますが、少なくとも前世の価値観を引きずっている俺にとってはです。なかなかこう、響くところはありましたが。


 しかし、あの、その。


 これってですね、クライゼさんの非常にプライベートなお話ですよね?


「は、ハイゼさん? これ、私が聞いてもいい話なので? クライゼさんは良く思われますかね?」


 あまりですね、本人の許可も無くして良い話じゃない気がするのですが。ただ、ハイゼさんでした。いつもの笑みで平然とされていて。


「まぁ、気にすることは無かろう。本人はまったく気にしておらんしな」


「とは言っても、やっぱりその……」


「ははは、だから気にするな。公然の話でもあればな」


「こ、公然なので?」


「クライゼが名を馳せ始めた時にな。血統自慢の貴族にありがちだが、妙にクライゼの身の上を気にする連中が出てきたのだ。そして、私もクライゼも隠すつもりは無かった。そこで周知だ。ヒースも当然、このことは知っとる」


 ある年代以上の人にはってことでしょうか? 俺や娘さんが知らないだけで、皆さんご存知っぽい? そうなると、うーむ。多分、何故ハイゼさんがクライゼさんに嫁取りを求めているのかに関係しているでしょうし。話題にする申し訳無さよりも、興味の方がむくりむくり、と。


「聞きたそうだが、どうだ? 聞くか?」


 ハイゼさんがいらずらっぽく尋ねて来られて。


 俺は思わず頷きを返します。


「よければ、あの、是非」


「はは、そうか。では、聞かせてやるとしようか」


 そうしてハイゼさんが語られたところによるとです。クライゼさんとの出会いは、戦地になった農村にて。ハイゼさんが二十代の青年だった時のことのそうでした。


 

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