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第35話:【ラナ視点】よー分からんが、護衛

 もうさ、さっさと寝たい。


 そうとしか思ってなかったんだけど、まぁねぇ。ノーラの心配も、そこまで見当違いなものじゃなかったわけか。


「……おかしいだろ。ドラゴンは人を傷つけないものじないのかよ」


 誰かがよく分からんことを呟いたみたいで、とりあえず適当ににらみつけてやって。


 暗がりの中でなんか囲まれてるんだけどさ、その輪がちょっと広がった感じだった。すると隣に立つ例のアイツだ。ノーラは笑っているって表現したけど、えーとそういう表情なの? よく分からんけど、サーリャはとにかく私の頭を軽く叩いてきた。


「ありがとう、ラナ。ごめんね、よろしくね」


 悪いけど頼んだって、ノーラっぽい感じのお願いよね。嫌なこったって気分だけど、そのノーラから頼まれたわけだからなぁ。まぁ、仕方ないか。


 なんか、襲われてるのよね、多分。


 ノーラがどっか行った後だけどさ。コイツのえーと父親? 父親がどんな意味を持つかは知らんけど、ソイツがサーリャを呼んでるとかで。


 私とアルバも付いていくことになって。で、これよね。十ちょっとの数に囲まれることになって。私とアルバで、一応守ってやろうみたいなことになってるわけさ。気は進まないけどね、本当。


「……ちっ。田舎の小娘風情が、無駄な抵抗を」


 で、私とサーリャの前に立つ、一番うっさいヤツだった。


 よく分からん発言をサーリャに向けて。サーリャは「ふん」と鼻を鳴らして口を開いた。


「なにが無駄ですか、バカバカしい。そちらこそ無駄な行いは早々に止めるべきかと思いますが」


 強きに出てるって感じかしらね。まぁ、なんでもいいけどさ。私はとにかく眠いし。アルバなんかはなおさらよね。


『なぁ、ラナ? まだ終わらないのか?』


 アルバはわたしはたちの背後を見てくれてるだけどさ。ぬむったそうにそう聞いてきて。


『まだねー、終らなそうよ、多分』


 うっとうしいことに、サーリャは動く気は無さそうだしね。まぁ、何を期待しているかは私も分かるけどさ。


 とにかく、うざったい時間が続くわけでさ。


 正面のうざったいヤツもうざったく何事か口にして。


「全て、お前が悪いのだぞ。お前が強情に私の誘い拒み続けるから」


「意味の分からないことを。当然の話でしょうに。ノーラを利用し、王国を混乱陥れようとする悪漢の誘いなど」


「……気づいていたか。まぁ、いい。式典に間に合わなかったが、利用のしどころはいくらでもある。とにかく、お前には私たちに付いてきてもらうぞ」


「その必要はありませんし、私が貴方がたの思い通りになることはありえないかと」


「ふん。減らず口を。まぁ、いい。しょせんは小娘だ。一晩かわいがってやればどうとでもなる」


 よー分からんが、周囲の連中が笑ったっぽかった。心からどうでも良いけど。それよりもヒマ。眠い。さっさと終わって欲しいけど、その思いが自然と口を突いて出て。


「だってさ? いいんじゃないの? かわいがってくれるって言ってるんだから、かわいがってもらったら……って、ぬがっ!」


「き、聞かないっ! 聞かないの、ラナっ! ラナにはまだ早いからっ! いや、私にだって早いって言うか、そういう次元の話じゃないけれどっ!」


 サーリャはいきなり私の両耳を押さえてきて。なにさ、コイツ。ケンカを売ってきたって雰囲気じゃないからいいけど、本当ビックリするじゃないの。


 しかしまぁ……まったく、騒がしいヤツよねぇ。


 あらためて、サーリャののっぺりとした顔を見つめちゃうけど。ノーラですら、私にはたいがい騒がしいヤツだったけれど。正直、比較にならないわよね。これはまぁ、人間がっていう話だけれど。不気味なぐらいに表情はころころ動くし。感情もころころって感じだし。


 真似してやろうかと思ったんだけどねぇ。


 あの腹の立つアイツはコイツのことが好きみたいで。だったらまぁって思ってさ。コイツらの言葉を学んで、どうにかしてやろうかと思ったんだけど。


 どうにもねぇ? 無理よね、こんな。そもそも、言葉が分かるようになって、このサーリャとか言うヤツのマヌケな能天気さもよくよく分かるようになったし。真似なんてしたく無いわね、ぶっちゃけ。


 本当ねー。


 アイツも何でこんなヤツをねぇ? 分からんし、分かる気もしないような。あんまり、コイツに関する興味も薄いし。真似るのも無理であればこれ以上はね。


 ただ……ちょっと気になるところが出来たかな。


「アンタ、アイツのことは好きでもないのよね?」


 正面のウザいヤツを鼻先で示して尋ねてみた。コイツの男の好みなんかを聞き出してやろうと思ったのだけど。サーリャは平たい顔にある目を、バカみたい丸くしてきた。


「ら、ラナ? それ、今聞かなきゃいけないこと?」


「いいじゃないの。こんなヒマなんだしさ」


「いや、私はそこまでヒマって心境じゃ……」


「で、どうなのよ? 実は好きだったとかないの?」


 反応はサーリャらしいっていうか。


 細い首がどうにかなるんじゃないかって勢いで、思い切り首を左右にして。


「な、ないないないっ! そりゃ、最初は都会ってすご! みたいな感じで思ったけど! 時間が経つとなんかこう、ちょっとうっとうしさが目立ってきて……あ」


 サーリャの視線を追ってみるとさ。剣っていうの? 正面のうざいヤツが、そんなのを手に取って。


「……小娘が。また妙なドラゴンを手にしているようだがな。こちらには魔術師もいる。目に物を見せてやるぞ」


 人間の声音なんてよく分からないけど。えーと、ん? 怒ってるってことで良いのかしらね? 


「ら、ラナっ! こんな時に妙なことを聞くから大変なことに……っ!」


「いや、私のせいにしないでよ。それよりも、どうすんの?」


 やんの? って話だけど。


 サーリャはそれには応えずに、暗い空を見上げて。


「え、えーと、あー、もうちょっと……もうちょっと待ったら……」


 とのことだったけど、まぁ、そうなるか。


 アイツを待とうってことよね。アイツは不器用なクセに魔術なんかも上手く扱えるし。ここにいる一人と二体よりも、アイツを待った方がってことよね。


 しかし、まぁねぇ。


 サーリャの横顔を見つめてみるけど。どうなのかしらね。人間の表情なんてさっぱりで、何を思っているのかなんてのも分からないけど。


 多分、アイツのことを信頼してるのよね。


 それでコイツは……アイツのことをどう思っているのかしらね。この人間みたいなのは嫌いみたいだけど、一体コイツはノーラのことをどう思っているのか。


「……どうやら、来たみたいよ」


 ようやくだけど。


 耳に届いてきた羽音の響きは、間違いなくアイツのものだった。




 




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