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第34話:俺と、式典終了(2)

 親父さんとの冷戦は今後も続きそうな気配ですし。今日ぐらいは、無邪気に喜ばれたってバチなんてそんなそんな。


「ですねー。ヒース殿も喜ばれておられるかと」


「だよね? いやー、良かったなー。カミール閣下のお情けみたいのものだけど、参加出来て本当に良かった」


 心から満足そうな娘さんでした。ふーむ。俺は、親父さんからの頼み事を成し遂げることが出来ずに複雑な胸中ではありますが……まぁ、はい。娘さんが嬉しそうですので。モヤモヤとは別腹で、喜んでおくとしましょうかね。


「失礼。ノーラ殿でよろしいでしょうか?」


 そう決めたところで、そんな呼びかけを受けたのでした。


 はて? と、俺は声の方向に目を向けることになります。そこには、いかにも貴族の身分でございって感じの、上品な服装の若い男性がいまして。


 俺にご用事のようですがね。飼い主が目の前にいるのに、その肩越しに俺に声をかけるのはいかがなものか。なんて堅物の俺は思いましたので、娘さんに目配せをして対応をお任せします。


 娘さんは頷いて、俺の意図を汲んで下さいました。


「確かにこの騎竜はノーラですが、騎手は私でして。ご用件は私がうかがいます。ノーラに一体何のご用で?」


 このお貴族様は、「これは失礼」と娘さんに顔を向けます。


「ノーラ殿にと伝言がございまして。ケーラ様からです。伝えたいことがあるので至急来るようにと」


 ケーラさんが俺に? なんて疑問に思うと同時に気になることがあって。


「……ケーラ様がノーラにですか」


 娘さんがですね。露骨に嫌そうな顔をされたのでした。ケーラさんが俺を狙ってるなんて、若干の疑いをまだ持っていらっしゃいますからね。その疑心が表に出てきた格好でした。


 ただ、相手は王家の方ですので。娘さんは嫌々ですが頷かれます。


「分かりました。早急に向かせます。ただ、私も着いていきますが良いですよね?」


 これもまた、警戒心の表れでしょう。娘さんはそう要求したのですが、ケーラさんの使者さんは静かに首を左右にされます。


「いえ、ノーラ殿だけでとの伝言でして」


「……そうですか。それはそれは」


 不満たっぷりの娘さんの表情でした。何かあるのでは? と疑いもしている感じですが、俺もまたです。娘さんとは方向性が違えど、不思議の思いを抱いていました。


 ケーラさんが俺にご用事で、しかも娘さんはダメなのですか。


 用事の内容なんてさっぱり分かりませんが、しかし、娘さんはダメ? ちょっと腑に落ちませんでした。娘さんの安全に関して気をつけろって、そう忠告してくれたケーラさんですのに。


 ケーラさんは、護衛としての役割を俺に求められていたはずなんですけどねぇ。それなのに引き離すような、この伝言。式典が終わったから大丈夫ということなのかもしれませんが、なんか気になるなぁ。


「サーリャさん、すぐにです。すぐに用事に応じて戻って来ます」


 なんにせよ、王家からの頼みを娘さんが断れるはずも無いので。俺はそう声を上げさせて頂いて、娘さんは不満そうに頷かれます。


「あまり遅くなるようでしたら迎えにいきますので。そうケーラ様にお伝え下さい」


 使者さんが頷かれて、俺は娘さんの元を離れることになって。しかし、不安だなぁ。何が起こるか分からない現在の王都ですし。

 

 ただ、俺には頼れる友人が二体もいて。


『ラナ、アルバ。悪いけどさ、娘さんのこと頼んでもいいかな?』


 式典に疲れて、ぐでりとしていた二体でしたが。まずアルバが応じてくれました。


『頼むと言われても、正直困る部分は大きいが。なんだ? 確かコイツが危ない目会うかもしれないってことだったか? 襲ってくるヤツがいればって話か?』


『そうそう。そんな感じ。ラナもお願いしても大丈夫かな?』


 犬座りで、前足に頭を乗せてのごめん寝状態のラナだけど。こっちはうんざりした様子で俺を見上げてきて。

 

『アンタも心配しすぎな気がするけどねぇ。ま、何かあったらね、何かあったら』


 積極的では無くとも、ありがたいことこの上ない肯定でした。俺は当然二体にお礼を告げます。


『本当にありがとう。じゃあ、ちょっと行ってくるから』


 娘さんにも一言告げさせてもらいまして。


 そして、俺はケーラさんの元へ、使者さんの案内で目指すのでした。日はすぐに落ちて、光源は松明の光ばかりになって。


 その一際目立つ明かりを、使者さんは手のひらで指されます。


「あちらです。では、私はこれで」


 あっ、と思った時にはでした。


 使者さんは逃げ出すように人混みにまぎれて消えてしまって。う、うーむ。これは……嫌な予感がしてきたなぁ。


「あら、やっぱりノーラじゃない」


 声が投げかけられます。


 その源に目を向ければ、そこにいらっしゃったのはケーラさんでした。今日はことさら豪奢な衣装に身を包まれたケーラさんが、意外そうに目を丸くしておられて……ねぇ? もはや、これなぁ。


「どうしたの? サーリャ殿に嫉妬させたく無ければ、貴方が独りで私のところに来るとは思っていなかったけど?」


 からかうような声かけでしたが、わたわた慌てたりするような心地にはちょっとなれず。


「あー、実はですね? ケーラ様からの招待があって、私はここに来たことになっているのですが」


「……ふむ。私からの? ……早く戻りなさいな。飛んでも良いから、出来るだけ早くね」


 ケーラさんは真剣な顔でそうおっしゃられました。あー、ですよねー。そういうことですよねー。


 ラナにアルバがいるので。そこまで心配はしていないのですが、かなり腹が立つよなぁ。


 このタイミングでさ。式典を終えて油断が見込めるタイミングなのでしょうが、娘さんが充実感で胸が一杯の時にね。

 

 娘さんも不快でしょうね、まったく。


「ドラゴンが飛ぶからっ!! 皆、道を開けなさいっ!!」


 ケーラさんが鋭く指示を飛ばしてくれ、人混みが割れます。このお礼は後で必ずということで。俺はすかさず駆け出して、闇夜の空へと身を踊らせます。



 

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