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第28話:俺と、王女様とデート(保護者付き)(2)

 ちょっと思い出していまして。昨日のアルベールさんの一言です。娘さんが結婚する気になれないのはノーラのことが頭にあるからじゃないのかって。確か、そんな内容でしたが。


 この熱の入れようでは、確かにそう思われても仕方ありませんかねぇ。男性諸氏に向けられる熱意と、俺に対して向けられる熱意には天と地の差があるでしょうし。


 もちろん、ノーラがいるから他の男となんて……っ! みたいな、わけの分からないことを考えていらっしゃるわけではないのでしょうけど。


 ただまぁ、この熱意を是非とも男性に向けて欲しいもので。どうすればいいですかねぇ。アルベールさんにドラゴンの仮装でもしてもらいましょうか? 現状を思いますと、案外こんな策が娘さんに効いてしまう気もそこはかとなく。


「しかし、本当に愛されているのですね?」


 ケーラさんにも娘さんの熱意は伝わっているようでした。笑顔でそんなことをおっしゃって、俺はもちろんと頷きを返します。


「えぇ。あの方のドラゴンに対する熱意は相当なもので」


「ふむ。ドラゴンに対する熱意はですか? 貴方に対してでは無く?」


「いえいえ。ドラゴンに対してはです。ラウ家はドラゴンを渇望していた家柄ですから」


 別に俺だからということじゃ無いですよね。ドラゴンを奪われそうになっている。このことに、娘さんは過敏になっておられるだけで。


 ただでした。俺の意見に対して、ケーラさんは意味深な笑みを浮かべられます。


「そうでしょうか? 私はサーリャ殿に嫉妬されていると思っていましたが」


「へ? 嫉妬……ですか?」


「はい。私がノーラ殿になれなれしく接して、あまつさえ今日こうして逢引を楽しんでいて。そこにサーリャ殿は嫉妬されているのだと」


 いやいやそれはでした。


 俺は苦笑の心地で、首を左右にします。

 

「さすがに、それは無いかと」


 いくらドラゴンフリーク殿である娘さんであってもねぇ。嫉妬までは無いでしょ。ペットが赤の他人と楽しく散歩したところでね。くそぅ! 私以外のヤツと楽しそうになんてっ! とか、そこまで病的な感じは……あながち否定出来ないかもしれん。で、でも、いやいや。娘さんは分かち合いたい系ですから。ドラゴンの良さを分かち合いたい系なのです。実際、気まずかった時のアレクシアさんともそんな感じでしたし。

 

「無いでしょうか?」


「無いです、無いです。あれは嫉妬では無く、心配の表情かと」


「そうでしょうか? 私にはそう見えますし……貴方たちの関係の深さのようなものがうかがえるような気がしますね」


 それはまぁ、でした。俺はすかさず頷きを見せます。


「私が孵化した時からの付き合いですからねぇ。一緒に色々と経験もしてきましたし」


「なるほど。(じつ)も大いにあればとなり……ふふふ。あのバカ共も騒ぐわけか」


 へ? となりました。


 一瞬です。一瞬ですが、ケーラさんの笑みに冷たいものが過ぎりまして。


 今のは一体何なのか。


 そう考えている内にでした。ケーラさんは足を止められます。


「着きました」


 言われて、俺も足を止めてケーラさんの視線を追います。


 そこにあったのは、レンガ積みの平屋でした。品が良くとも、王都ではよくある家屋に見えましたが、表にはタテ看板があり、そこには屋号が刻まれていて。


 何より甘い匂いがプンプンしますしね。ここがくだんのお菓子屋さんなのでしょう。


 さきほどの冷たい気配は、今のケーラさんにはありませんでした。ニコニコとして、お菓子屋の両開きの扉に手をかけられます。


「では、入りましょう。あらかじめ話は通してありますので」


 戸惑うところはありましたが、誘われるままにでした。俺は開け放たれた扉をくぐることになりましす。「し、しまったっ!」なんて声が聞こえてきましたが、まぁ、これはどうでも良い話で。


 そしてお店の中は……って、あら?


 ケーラさんに続いて入った場所は作業所っぽかったのですが。ガラーンでした。誰もですね、いらっしゃらなくて。

 

「お休みですかね?」

 

 俺の尋ねかけに、ケーラさんはいたずらっぽくほほ笑まれます。


「錠もかけずに? 治安の良い王都でも、それはちょっと不用心ね」


 訳知り顔という感じでしたが、えーと、へ?


 戸惑いを深めている内に、従者さんたちによって扉が閉じられて。


「確かあっちだったわよね? そう。では行きましょうか」


 従者の方からの答えを受けてです。ケーラさんは俺を手招きされて歩き出されます。その後ろ姿を、俺はすぐには追うことは出来ませんでした。


 ……ふぅーーーーむ。


 これは、うーむ、なんとも。


 どないしようとは思いましたが、ここにいるのは王女様に従者の方々が五人。その五人の方々は目の配り方、呼吸などから察するに魔術師では無さそうで。


 そして、外では娘さんとラナが元気そうにわーきゃー言っていて。


 何かは感じますが、まぁ、問題は無いかな。


 狭い屋内で、俺は身を縮めながらにケーラさんの背中を追います。すると、ケーラさんは振り返って俺に目を細めてきて。


「やっぱり素敵ね。男はこのぐらい胆力がないと」


 度胸があるって褒めてもらえたのでした。うーん、やっぱりドラゴンって素敵かもしんない。心臓がドガバガ弾けかけていても、それが表情に出せないのですから。


 ビックビクですけどね、本当マジで。


 でも、自分の身の安全ぐらいは図れそうですし、娘さんたちに危害が及びそうな気配は無いですし。だったら今のところは、ラウ家の騎竜として王女さまに礼節を尽くしておくのが妥当かなぁと。


 と言うことで、廊下をミシミシさせながら進みまして。


 たどり着いたのは居間なのかな? ドラゴンと人間が一人、なんとか余裕をもって収まることが出来そうな空間です。


 ケーラさんは悠々として、固そうな長椅子に腰を下ろされました。そして、俺にニコリです。


「なかなかね、大変なのよ。私が貴方と二人きりで話すっていうのは」


 その発言と同時に、扉が外から閉じられます。なるほど。これで二人きりですか。


「私と、何か内密に話したいことがおありで?」


「そういうこと。カミール殿のお屋敷じゃあね。二人っきりになろうと思っても、眉をひそめる家臣が多いだろうし。王宮に招待するっていうのも、これはカミール派を怒らせるだろうし。市中を一緒に回って、その流れの中で。このぐらいだったら、まぁ、なんとかってところじゃない?」


 尋ねられても、さーてどうだか分かりませんが。しかし、ココはそのための舞台ということで。家主さんから借り受けられたりされたんでしょうねー。


 そして、内密なお話ですか。


 俺への内密な話。始祖竜モドキへの内密な話。あんまり聞きたかないかなー。でも、そういうわけにもいかんかなー。


「お話についてうかがっても?」


「もちろん。お題目は二つあるんだけど、まず一つ目。お願いの方から聞いてもらおうかしら」


「お願い……ですか?」


「そう。刺激的な言い方をするのならだけどね、貴方にカミール・リャナスを裏切って欲しいの」


 ケーラさんは静かな笑みでそうおっしゃったのでした。


 俺はじっとケーラさんを見つめ返すことになります。うーむ。これは、案の定……なのですかね? 

 

「刺激的な言い方ですか?」


「そう。名一杯刺激的にしたら、こんな感じね」


「ではあの、穏やかな言い方なんてのも?」


「もちろん。そんな形で言い直すとするならば、そうね。この国とカミール殿のために、一肌脱いでもらいたいの」


 裏切るから、カミールさんのために。


 落差が激しすぎて、俺は首をかしげるしかないのでした。


「あのー、すいません。おっしゃられている意味が、そのイマイチ……」


「あはは。そうね、少なくとも私の立場から説明しないとね。私は王家の中のリャナス派って感じなのだけど、その辺りのことはアルベールから聞いてないかしら?」


 質問に答える前に、俺はひとまず一安心でした。どうやら、ケーラさんと何かしらやり合うことは無さそうでして。



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