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第26話:俺と、王女様襲来(3)

「は、はい。何でしょうか? 私に何かおっしゃりたいことが?」


「手伝って下さい! 王家がノーラに魔手を伸ばそうとしているんです! その対策について是非!」


 アレクシアさんは娘さんに言葉を返されませんでした。代わりに、俺に困り顔を向けてこられます。


 どうしたらいいんでしょう? って感じでしょうね。ぶっちゃけ、俺もそんなことは分かりませんが、アレクシアさんのためです。ここは俺が口を開かせて頂きましょう。


「あのー、サーリャさん? アルベールさんが話されたことですが、ちゃんとお聞きされていましたか?」


 ちゃんと耳にされていれば、そんな結論にはならないと思うのですがねぇ。


 娘さんは、分かりきったことを聞くなとばかりに、荒々しく首をタテに振られます。


「そりゃ聞いてたよ。いい迷惑だっておっしゃっていらしたでしょ? 私ももちろん同意見だよ」


 ふーむ。なかなか特殊な情報の切り取り方だと、妙に感心してしまいましたが。い、いやいや、ちょっとそれは斬新すぎるでしょ。


「さ、サーリャさん、そこは別に良いんです。大事なのはその前です、その前」


「その前?」


「ケーラさんは、諸事情があって私に手を出すようなそぶりを見せなければならなかったという話で。本気じゃないんです。心配なんて、する必要はないでしょ?」


 そんな話で、そういう結論だったはずなのですがね。しかし、娘さんです。この方は、仏頂面に口を開かれまして。


「そんなの、希望的観測に過ぎないじゃない。本心は本気でノーラを狙っているかもしれないでしょ?」


「そ、それは確かにそうですが、でも、アルベールさんの推論には非常に説得力がありまして……」


「あんなになれなれしくノーラを籠絡しようとしていたじゃない! 絶対に本心は狙ってるって!」


「ろ、籠絡……いや、違うと思いますが……」


「違わない! そもそも、ノーラ! さっきのは何? 抱きつかれて、嫌がるそぶりも見せないでさ!」


 なんか、話が妙な脱線を見せてきたような。よう分かりませんが、俺は娘さんの気迫に押されつつ応じます。


「そ、そりゃあの、驚きばかりでしたからね、あの時の私は」


「じゃあ本当は嫌だったの?」


「いえ、別に嫌とかでは……」


「なんでよ! 初対面の良く分からない人に抱きつかれてさ! あんなの無礼でしょ! 嫌に思って当然でしょ!」


 俺は娘さんの剣幕にたじろぎつつ、同時に既視感に襲われてもいて。なんか、この論法には聞き覚えあるなぁ。やっぱりこのお二人はお似合いなのではと思いつつ、しかし、そこは置いときまして。


 明らかに脱線していますよね、これ。このままでは話題が明後日の方向をさまようことになりそうですし。ここは強引にでも話を切り替えさせてもらいましょう。


「と、とにかくです! 逢引に一度、二度付き合えばそれで終わる話だそうなので! この件は私に任せて下さい。サーリャさんは別のことをですね。ほら、真剣になって考えるべきことがありますでしょう?」


 暗に示したのは、もちろん親父さんの期待に関することです。実際、逢引だかデートだか散歩だかで終わる話よりも、そちらの方がはるかに重要ですし。娘さんには是非そちらに脳内リソースを割いて頂きたかったのですが。


 ところがぎっちょんです。娘さんはしかめ面で首をかしげられます。


「は? 私が考えるべきこと? そんなの、今のこのことしかないでしょ?」


 とぼけておられるのか、マジでそう思われているのか。いずれにせよ、俺は慌てて首を左右することになります。


「い、いや、ありますでしょ! ほら、最近ですけど、親父さんとそのことで色々と……」


「ない! 騎手の名家ラウ家から騎竜が……ノーラが奪われようとしている! これに勝る問題は無し!」


 力強い目をして言い切られましたが、多分ですね。覚えてはおられるのでしょうね。ただ、優先順位が驚くほど下になっているだけで。


 まぁ、その、俺のことを気にかけて下さっているのはありがたいのですが、優先順位をググっと下げて頂きたいたいところでした。おそらくケーラさんは本気では無くて、俺も寝返る気はさらさら無くて。そんな本気になって頂く必要はないでしょうしねぇ。


 しかし、うーむ。娘さんはアレクシアさんを捕まえて、対抗策とやらについて熱っぽく話し出されていています。どうにも頭に血が上っているご様子。今言葉を重ねるのは悪手かなぁ。


 娘さんが落ち着いた頃合いを見計らって、また言葉をかけさせて頂きますかね。そう決めて、俺はアルベールさんに顔を向けます。


 洩らしたい胸中があったのです。ケーラさんがいらっしゃって、娘さんがケーラさんのことで頭が一杯になって。テレンスさんがいらっしゃった時も思ったものですが。


「なかなか上手くはいきませんねぇ」


 娘さんに結婚する気になってもらって、その相手はアルベールさんでってやっては来てるんですけど。なかなか、すんなりとはねぇ。


 きっと同じ胸中なのでしょうね。


 アルベールさんはどこか切なく苦しげな表情で、俺を見つめてこられました。


「……いいなぁ。ノーラは羨ましいなぁ」


 そして、羨望の眼差しでそんなことをおっしゃりましたが、は?


「……あの、本当にどうされました?」


 首をかしげてしまいます。いいなぁって何? そんな羨ましがられることってありました?


 アルベールさんは「いやな」と前置きされて。


「俺の時はさ、何も無かったろ?」


「無かったろって言われましても。そもそも何の話かさっぱりなのですが」


「俺がアレクシアさんの手を握っていてもさ、サーリャ殿は驚いただけだったろ? アレクシアさんと良い仲であっても別にって感じだったろ?」


「……もしかして、サーリャさんの私への態度についておっしゃってます?」


 アルベールさんは、変わらず切なげに頷かれます。


「それ以外にないだろ? ノーラは良いよな。抱きつかれて奪わそうになったら、あんだけ怒ってもらえて」


 俺が人間であれば、めちゃくちゃ妙な表情をしていたと思います。だって、その……ねぇ?


「アルベールさん。かなりお疲れで?」

 

「疲れていないとは言わないが。何かおかしなこと言ったか?」


「正直。ドラゴンの私と、人間のアルベールさんでは比較対象にならないでしょうに」


 アルベールさんに関する娘さんの反応は、異性としての思い入れのアレコレで。俺に関する反応はと言えば、ラウ家の騎手としてのアレコレでしょうから。


 大事な騎竜が奪われそうだと。それだけの話であって、その点については、アルベールさんも分かっていらっしゃるようでした。


「まぁなぁ。でも、思わず考えたぞ。サーリャ殿は分からないけど結婚する気にはなれないんだよな?」


「えぇ。そう聞きましたけど」


「それさ、お前のせいじゃないのか? お前のことが頭にあってさ。お前がいるのに他の男となんてとか、そんなことを無意識に思われているんじゃって」


 ん? って、俺はアルベールさんの顔をマジマジと見つめることになりました。


「なんかこう……ちょっと頭の調子が……」


「恐ろしく失礼なことを言いやがったな。だから、思わず程度の話だっての。本気で考えたわけじゃないさ」


「あぁ、ですよねー。ドラゴンがお好きな方ですが、さすがにそんなわけはありませんし」


 多少おかしなところはあっても俺はドラゴンですからねー。さすがに人間様とは土俵が違います。娘さんが俺に向ける好きは、騎竜であるドラゴンに向けるものに他ならなくて。


 まぁ、アルベールさんのナイスでも無いジョークは置いときましょう。


「ともあれ、これ、問題ですよね?」


「だな。もうサーリャ殿の頭はノーラで一杯だろうからなぁ」


 一人と一体をして、やれやれと見つめることになりました。


 娘さんは、困惑するアレクシアさんを相手にして、ケーラさんの野望をどう阻止するかってそんなことに熱を上げられていて。


 結婚うんぬんなんて、絶対に頭から吹っ飛んでますよね。


 これ、なかなか問題だよなぁ。


 式典までにちゃんと決着がつくのかどうか。そんな不安が胸に去来しますが、


「とにかく、ノーラはケーラ様と上手いことやっといてくれ。全てはそれからだ」


 アルベールさんが冷静にそうおっしゃるのでした。


 ですねー。ケーラさんのデートに付き合って、娘さんの懸念を払拭する。


 それが一番でしょうかね、はい。


 

 

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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新お疲れ様です。 そして、ご返事ありがとうございます。 アルベールさんからすれば、道が果てしなく厳しいことが分かってしまいましたから厳しいですよね。 しかし今までゼロだった可能性が、ゼ…
[気になる点] そういや王家に始祖竜の資料とか残ってないのかなぁ...デートのさいにそんな話とか聞けませんかね..?実はそれが日本語で書いてあって読めないとかw [一言] なんというか...以前引き合…
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