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第23話:俺と、第二次作戦会議(6)

「え、えーと、娘さんはどちらかと言えば華奢に見える方でありまして」


「ふむ。それで?」


「華奢で可愛らしい手で。これが傷つかないよう、常に私の手で包んでいたくなる……な、なーんて」

 

 実際は、娘さんは俺に守られるような方では無いので。華奢な外見からのただの連想ゲームですが、俺なりに必死に考えてみたのでした。


 これが少しでもアルベールさんの参考になれば良いのですが。そう思って、アルベールさんの反応をうかがいます。アレクシアさんの手をとったままのアルベールさんは、何故か無表情に口を開かれます。


「ノーラ……ちょっとさ、軽薄過ぎないか? テレンス超えてないか? 正直な? 正直なところ、ちょっと……ひく」


「な、なんですか、それはっ! 頼まれたから答えたのに、なんでそこまで言われなあかんのですかっ!」


 さすがに俺も黙ってはいられないでした。一応求められて、恥ずかしい思いをしながらも必死に考えましたのに。その言い草はなんですか、その言い草は。


 アレクシアさんは俺よりの立場でいて下さるようでした。わずかにたしなめるような目つきをしてくださって。


「ひくはちょっと無いと思いますよ、ひくは。まぁ、正直どうかとは思いましたが」


 完全な味方では無かったようでした。いやまぁ、質については自信は無かったですけどね。でも……そうかなぁ? 意外と良かったりしないかなぁ? テレンスさんの言葉の雰囲気と、さほど違いは無いような気はするけどなぁ?


 俺は悶々としつつ、意見の相違がある二人から目を離し中庭を眺めて。なんだかなぁ。やっぱり悪くないような気が……って。


 あんら?


 中庭ぐるりと見渡してみます。どう見てもです。娘さんの姿がどこにも見当たらなくて。合わせて、マルバスさんと艶やかなご婦人の姿も見当たらなくて。


 そして、何か耳に遠く響くものがありました。バタバタと耳馴染みのある足音が近づいてきているような気が。


 これってね。経緯は分かりませんが、そういうことですよね?


「あ、アルベールさんっ!」

 

「なんだ? ひくとか言ったのは謝るけどさ、俺も必死であって……」


「そ、そこはどうでもいいですから! え、えーと」


 アルベールさんはアレクシアさんの手を取られたままで難しい顔をされていて。とにかく手を離された方がと口にしようと思ったのですがね。


 どうやら全ては遅きに失したようで。


 ドバタン! と、応接室の扉が音を立て。これまた耳馴染みのある声が飛び込んできたのでした。


「の、ノーラっ! なんかすごいお客さんが……」


 その勢いのある闖入者(ちんにゅうしゃ)は、途端に冷温停止しました。いえ、その闖入者はもちろん娘さんなのですが、視線の方はアルベールさんとアレクシアさんにガッチリ固定されていまして。


 アレクシアさんとアルベールさんも、娘さんを見返しておりますが、うーむ。娘さんも含めて、皆さんキレイに無表情。不意の事態に、皆さん処理能力がパンクしておられるようで。


 それは当然俺もですが。えーと、これ、どういう反応したらいいんですかね? 


 アレクシアさんもアルベールさんも似たような胸中にあることでしょう。ただ、この人は別にそんな風に頭を巡らせる必要は無いわけです。


「う、うわぁっ!? カミール閣下のお屋敷で二人で何やってるんですかっ!?」


 すぐさま顔を真っ赤にされて驚きを叫ばれて。まぁ、うん。誤解を招くだろうことは想像に難しく無く、だからこそアルベールさんはあれだけ警戒されていたのでしょうが。悪い意味で、キレイに図にはまっていますねぇ。


 当然と言いますか、誤解など死んでもされたくなかったアルベールさんです。こちらも顔を真っ赤して叫び返されます。


「ち、違うっ! これはそういうこじゃないっ!」


「じゃあ、どういうことなんですかっ! そんな愛おしそうにアレクシアさんの手を握られてっ!」


 至極当然なご指摘なのでした。アルベールさんはいまだにアレクシアさんの手を大事そうに握られているのです。


 慌てて手を離されるアルベールさんを見すえながらにでした。娘さんは、驚きの胸中を呟かれます。


「何の集まりかって不思議に思ってたけど、まさかこんな……この二人がまさか……いや、お似合いではあるんだけど……祝うつもりはあるんだけど……」


 めっちゃアルベールさんにダメージを与えそうな呟きなのでした。驚き以上に受け入れちゃってますね、この人。


 で、アルベールさんは案の定精神に重大な損傷を負われたようで。弁明する余裕も無いらしく、顔を真っ赤にしたままで口をパクパクされるばかり。


 一方で、アレクシアさんも予想外の事態に対処に困っておられるようでした。片手で頭を押さえて、悩ましい表情をされていて。そして、これまた困ったような目つきで俺を見つめてこられます。


「えーと、ノーラ?」


 どうにかしてくれと、そんな感じでしかないでしょうね。


 俺はすかさず頷きます。俺は半分蚊帳の外で、そのおかげでこの面子の中ではかなり冷静っぽいですし。ここは俺の出番でしょう、そうでしょう。


 昨日のことがあって、少し話しかけ辛くはあるのですが、今朝は意外といつも通りでしたし。大丈夫でしょう。俺はすぐさま言葉を作ります。


「いやいや、サーリャさん。それ、全部勘違いですから」


 半ば以上に、俺の存在を忘れていた感じかな? 


 あ、と口にされて、娘さんさんはお二人から俺に目を移されます。


「そ、そうだ。ノーラもいるんだったか。え、勘違い? そうなの? 見たとおりじゃないの?」


「違います。サーリャさんはおそらく、このお二人がこの応接室で逢引をしていたと思われているのでしょうが。それだったら、何で俺が同席しているのかってなりませんか?」


 パッと思いついた単純な反論でしたが。効果はなかなかのようでした。なるほど、と小さく頷かれて。


「確かに。お邪魔虫以外の何物でもないよね。でも……じゃあさっきのは? さっきのアレは何?」


 アルベールさんがアレクシアさんの手を握っておられたことを指しての尋ねかけでしょう。うーむ。この点についての弁明は難しいようで、いや、そうでもないか?


「突き指をされたとのことで」


 娘さんは「へ?」と首を傾げられます。


「突き指? アレクシアさんが?」


「そうです。談笑の中で、そんな話題が上がりまして。痛みが引かないということで、アルベールさんがですね。私は残念ながらどうしようも出来ませんし」


 それっぽくまとめることが出来たのではないでしょうか? 娘さんとしても、まさかアルベールさんとアレクシアさんという思いがあったのでしょう。すぐに頷きを見せられました。


「な、なるほど。確かに、ちょっと話が急過ぎるとは思ったけど」


 理解を示されたのに乗じて、早速アレクシアさんでした。笑みを作られて、俺の作った流れを引き継がれます。


「そういうことです。親切に甘えておりました」


 で、アルベールさんもこの機を逃さずと慌てて口を開かれて。


「あ、あまりに痛そうだったので。良ければということでしたが、それよりもですね。慌てたご様子でしたが、ノーラと口にされていましたかな?」


 さらには話題を移そうといった感じでした。そして、それは望み通りの結果を得たようで。娘さんは「あ」と再び慌てふためかれます。


「そ、そうだった! ノーラ! なんかもう、すごい人がノーラに会いたいっていらっしゃって!」


 どうやら窮地をしのげたようなので、俺は安心して娘さんの発言に意識を向けます。


 すごい人ですかね? 俺は大きく首をかしげます。このお屋敷の主もたいがいすごい人であって、娘さんは割と平然とそのすごい人と接していたりするですが。


 その娘さんが驚くすごい人。なんでしょう? きっと、さきほどの麗しいご婦人のことなのでしょうが。そうは見えませんでしたが、実は王国を代表する伝説騎手さんだったりするのでしょうか?


 ただうーん。それにしては、娘さんの表情が冴えないようで、言って見れば不安がにじみ出ていて。そこが非常に気になるところでしたが……


 そんなことを思っていると、くだんの方がいらっしゃったのでした。


 開けっ放しの扉の向こうからです。優雅な笑みを浮かべた例のご婦人が、こちらに歩いてこられていて。


 うーむ。心中で何とも唸ってしまうのでした。テレンスさんと似た雰囲気をお持ちだと思ったものですが。しかし、こうして間近にすると……なんか違うなぁ。


 自信満々な雰囲気は変わらないようで、なんかこう違うような。威厳なのかな? マルバスさんと、他に二名の従者さんを背に連れていらっしゃったのですが。その様子には、その足取りには不思議な凄みがあって。


 娘さんがワタワタされるのも何だか納得でした。で、アレクシアさんも静かに腰を浮かされて。そして、アルベールさんです。この人の反応が一番激しいものでした。


 音を立てて腰を浮かされて。その目は驚きによるものか、大きく見開かれていて。


「で、殿下っ!? お、王女殿下ではありませんかっ!」


 どうやらアルベールさんはご存知だったようで、そういうことのようで。


 王女と称されたご婦人は、艶やかに微笑まれました。




 


 

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