第22話:俺と、第二次作戦会議(5)
妙齢のご婦人なのでした。
多分、アレクシアさんと同じぐらいのお年なのでしょうかね? 何やら娘さんと会話をされているようなのですが……本当にですね、本当におキレイな方で。
その様子は何って言えばいいのやら。華やかと言いますか、艶やかと言いますか。
背が高く、目鼻立ちのくっきりとされた方で、クセのある栗色の髪を背まで優雅に流されていて。派手めな緋色のドレスに身を包まれているのですが、それを派手に映させないような立派な容姿をされていて。
そしてですが、ちょっとテレンスさんっぽい雰囲気をお持ちかな? 自身の魅力を重々承知されている感じでして。褐色の瞳を弓なりにした笑みには、静かな自信が満ち溢れている感じです。
うーむ。ただものではない感じはありますねぇ。現にです。マルバスさんはいつも通りでしたが、娘さんは分かりやすくワタワタされていますし。おそらく、娘さんが平静ではいられないぐらいには大きな意味を持つ人物なのでしょうが。
「どなたなのでしょうかねぇ? 貴族であることは間違いないのでしょうが」
「さて? 私は社交界には円も縁もありませんので。リャナス一門のどなたかでしょうか」
とかく身元は分からずで、しかし存在感はバリバリで。アレクシアさんと二人で思わず注視してしまいますが、「ごほん」でした。
咳払いの音が響いたのです。
アルベールがうらめしげに俺とアレクシアさんを見つめておられます。
「なぁ? そっちが気になるのは分かるけどさ、本題に入ってもいいか?」
気が散るんだけど? って感じのアルベールさんでした。俺は慌てて視線を中庭からアルベールさんに戻します。
「え、えーと、はい。すみません。こちらが本題でしたよね」
「そう思ってくれていて嬉しいよ。どうだ、ノーラ? サーリャ殿だが、間違ってもこの部屋に来る気配はないよな?」
念押しって感じですね。よくよくアレクシアさんの手を取るところを、娘さんに見られたく無いようで。俺はちらりと中庭に再び目線を向けます。
「えー、大丈夫かと。お客様と話し込んでおられるようですので」
娘さんは緊張しているようで、何故か不安そうな表情もされていて。そこが気になるところですが、今すぐこちらに向かって来られるような気配は無いかなぁ。
「……よし。それじゃ……いくぞ」
多分、前回の騒動の時よりも、はるかに緊張されているでしょう。額に汗を浮かべるアルベールさんは、恐る恐るといった様子でアレクシアさんの手に指を伸ばされて。
握られます。
華奢なガラス細工を扱うような手つきで、アルベールさんはアレクシアさんの手を下から包まれて。うーむ、さすが美男美女ですねぇ。アルベールさんが非常に挙動不審なことを除けば、実に絵になる光景です。
で、問題は次ですよね。テレンスさんは、悠長に娘さんの手つきを褒め称えたりされましたが。アルベールさんは一体いかがされるのか……って、えーと?
完全に熱暴走を起こしちゃってる感じでした。アルベールさんは顔を真っ赤にして、ピクリとも動かなくなられて。
「あ、あの……アルベールさん?」
「……俺を情けないとお前は思うか?」
「いや思いませんけど、あの練習ですから。何か口にしませんと……」
「だって仕方ないだろっ! 小さいし、柔らかいし、なんか良い匂いがするし! 何かなんて口に出来るもんか!」
そして、親近感しか覚えることの出来ないことを口にされて。で、ですよねー。俺がアルベールさんの立場であれば、同じことを思って何も出来なくなるとは思いますが。
ただ、戸惑わられてばかりでは何のためのこの状況かとなってしまいますので。
飾りっけの無いストレートな絶賛を受けたアレクシアさんです。この方は何と反応していいのやらと困り顔をされながらに、アルベールさんにアドバイスを送られます。
「え、えーとですね、私は練習台ですので。サーリャさんのことを思い浮かべて、何か思いつくことを口にされては?」
「さ、サーリャ殿を? ……だ、ダメだ。何も思い浮かばん。騎竜の背にあって空をかける姿はそれもう美しいのだが……」
「でしたらその、とりあえずテレンス殿の手法を真似られては? 騎手であるのに美しいと、そんなことをおっしゃっていましたよね?」
「確かに、とりあえずは……って、いやいや! そんのはダメだっ! 練習とは言え、あのテレンスの猿真似などっ!」
「さ、左様ですか。それは志が高いことでけっこう……なのでしょうか? いえ、思いつかないのでしたら、猿真似でも二番煎じでも仕方ないような気がしますが」
「う、うむ。だが、それは……の、ノーラっ!」
なんか大変そうと、気楽な傍観者に従事していた俺なのですが。不意の呼びかけに驚き反応することになります。
「は、はい? 私ですか? 何か出番ですか?」
「サーリャ殿への、この状況での褒め言葉だ! なんか任せた!」
思わずマジマジとアルベールさんを見つめ返してしまいます。そらもうビックリでした。なかなかな無茶振りを食らった感じでして。
「えー、私にサーリャさんに対する口説き文句を考えろと?」
「そうだ! サーリャ殿との付き合いは、この中じゃお前が一番だろ?」
い、いやいやいや。
アルベールさんは熱い目をして俺に催促されていますが、本当いやいやいや。
自信を持って言うことが出来ます。俺を頼るなんて正気の沙汰じゃありません。恋愛経験なんてゼロもゼロ。そんな俺に口説き文句の催促? 病気の治療にインチキ霊媒師を頼る以上の何かを感じますが。
ただ……よく考えたら、この場に専門家はいませんね。そして、アルベールさんばかりにがんばって頂いているこの状況もアレですし。
よし、と決意を込めてアルベールさんを見返します。信じるのに値しないヤベェ素人ではありますが。ここは一つ、出来る限りで頭を絞らせて頂きましょうか。