第18話:俺と、第二次作戦会議(1)
翌日はすっきりさっぱりの晴れ模様でした。
ただ、本日は晴れ模様さんをお頼みする予定は無く。
再びの作戦会議なのです。
舞台は、今回もカミールさんのお屋敷で。その以前にも利用した応接間に、以前のメンバーで集まってもらったのでした。もちろん、メンバーはアレクシアさんとアルベールさんです。これまた以前と同じような位置に腰を降ろされています。
で、俺も前回と同じく床に犬座りをしていますが、まずはということでした。頭を下げまして、感謝の意を表明させてもらいます。
「お二方とも、お忙しい中ありがとうございます。昨日の今日ですが、再びお集まり頂きまして」
俺の感謝に対してです。
まずアレクシアさんが楚々としてほほえみを見せて下さって。
「そんなかしこまった挨拶は必要ないでしょうに。私もアルベールさんも、それぞれ思惑があっての参加なですから。いつぞやアルベールさんが話された通りです。くだけた感じでいくとしましょう」
この方の地の性格がふんだんににじみ出ていると申しますか、優しさに満ちた言葉をかけて下さったのでした。そして、この方は、
「……あぁ、アレクシアさんの言うとおりだ。必要があって集まっただけだからな。今後の作戦についてだが、これはもう至急で話し合う必要がある。そう、本当至急にな」
なんか、妙に力強いのでした。
発言の主は、もちろんアルベールさんなのですが。口ぶり同様に、目には力強い意思の光が宿っていて。
まぁ、さもありなんって感じではありました。昨日ことがあって、そして今日もって感じですので。
アルベールさんはちらりちらりと、その力強い目で応接室の窓の外に目を向けておられまして。この応接室は中庭に面しています。なので、アルベールさんが目にしておられるのも当然中庭なのですが、意識が向けられているにはその鮮やかな花景色では間違いなく無くてですね。
中庭には、簡素なズボンスタイルの娘さんがおられました。ただ、アルベールさんの意識を占めているのは、その隣です。
先日に引き続き、今日もド派手でキラキラされているのでした。
テレンス・エフォード。
昨日の集まりに、そんなお名前の貴公子が彗星の如く現れたりしたものですが。今日もね、いらっしゃったのでした。
この屋敷を訪れて来られましたが、もちろん目的は娘さんでして。それで現在です。中庭に娘さんを連れ出した上で、女たらしさんの手腕を発揮されているようなのです。
これがアルベールさんの力強さの原因で間違いないでしょう。
明確な脅威を目の当たりにしてということで。
昨日は、テレンスさんの女たらしの社交術に翻弄されて、今日もまたその手腕と積極性を目にすることになったので。
アヤツをどげんかせんといかんと、アルベールさんはそんな強い意思を発露されているに違いないのでした。
そしてですが、対抗心と同時に、不安感は相当あるようで。アルベールさんは顔をしかめながらに、中庭の光景に目を細められます。
「しかしなぁ、大丈夫なのか? あのナンパ男とサーリャ殿一緒にさせておいて? またサーリャ殿を困らせるようなことをしでかしたりしないか?」
不安の種は、おそらく昨日の一幕でしょう。
女たらしの手腕の一つなのでしょうが。テレンスさんがにわかに娘さんの手を握られたことがありましたので。
今日もまた同じことが、いや、それ以上のことが……? なんて、アルベールさんは心配されているのでしょう。
正直、その不安は理解出来ました。ただ、俺はアルベールさんほどには心配はしていなかったりしまして。
「大丈夫じゃないですか? まさかあの状況ですし」
俺もまた中庭に目線を向けます。
そこにいらっしゃるのは、くだんのちょっとオドオドな娘さんにド派手なテレンスさん、そしてです。もう一方いらっしゃるのでした。
上品なふるまいに、穏やかそのものの笑み。初老のお執事様と言った感じのあの方は、無論のことリャナス家の家宰さんであるマルバスさんです。
最近もう頼り切りなのですが、今回も無理をお願いさせて頂いたのです。いや、最初に声を上げて下さったのはマルバスさんなのですが。
俺たちの事情を、ほとんど一から十までご存知で、なおかつテレンスさんの風評も耳にされていたようでして。お邪魔虫になろうかとおっしゃって下さって、それに素直に甘えさせて頂いたのが現状でした。
いやー、もうね。御恩ばかりが山のように積み上がっている感じです。いずれ必ず恩返しはさせて頂かないといけませんが、ともあれですね。この状況じゃあ、テレンスさんも自らの持ち味を発揮するのは難しいんじゃないでしょうか。アレクシアさんも同意の頷きを見せられます。
「今や名実ともに王国第一のカミール閣下、その家宰様を間近にされているのです。なかなかテレンス殿も、浮き名通りの活躍は難しいかと」
アルベールさんはまだ懸念を捨てきれないようでしたが、それでも中庭から目を離されます。
「 ……まぁ、うん。心配ばかりをしていても仕方ないか。これからの話をしないとな」
そう口にされたアルベールさんの瞳はまるで燃えるようで。
「じゃあノーラ。始めてくれ。昨日の反省と、今後の計画。そして……あのテレンスへの対処とか、そんなところだよな」
多分、アルベールさんを燃え立てているものは、テレンスさんへの対抗心なのでしょうね。あのナンパ男に負けてたまるか、あるいは邪魔されてたまるかと。若々しく心が燃えたぎっているようで。
うーん、相変わらずです。相変わらず頼りになるご様子で。アルベールさんの熱意に任せて、このまま議論を進めたい。そんなことを思いもしましたが、んー。
その前にです。言わなかんことがありますよねー。絶対にこれからの話し合いに影響を及ぼすようなことであり。自らの失敗を晒すようなもので、思わず保身に走りたくなる感じはありますが、これはマストです。口にせねばなりますまい
「えー、話し合いの前にですが、皆さまにお伝えしなけれならないことがありまして。良いですか?」
お二人とも、すでにこれからの話し合いの方に意識を向けられていたようなので。そろって「ん?」って感じで首をかしげられまして。
「ノーラが伝えたいことですか?」
「なんだ? もちろん、今日のことには関係があるんだろうな?」
それぞれに一言置かれて、俺が言葉を作るのを待ち構えられます。ではですね。情けないことですが、白状させて頂くとしましょうか。
「すみません。サーリャさんにですが、私たちがひそか動いていることがバレてしまいまして。私がその、白状の方を」
とにかくです。犬ずわりで頭を下げてのごめんなさいでした。