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第17話:俺と、娘さんの本音(2)

「そうですか。アレでしたか」


「 そう。アレだった。男の人たちに囲まれるのもアレだし、アルベールさんも、その……前にあんなだったし。今日もすごい優しかったし。あと見てたよね? テレンスさん。なんかもう、すごかったよね?」


「あー、はい。確かにその、すごかったですね」


「手だよ、手! あれなぁ。びっくりしたし、その、ね? 顔が真っ赤になるか思って、何とか表情には出さないようにして。あれは、うん。本当、ドキドキしたなぁ」


 思い出してということなのでしょうか。娘さんは顔を真っ赤されていて。この様子を拝見するとです。確かに娘さんのおっしゃる通りのようで。


「男性に興味はおありなんですね」


「まぁ、うん。あると思う。だから、ノーラの疑ったようなことは全然無いかな」


 とのことらしかったのでした。


 これはまったく朗報……なのでしょうねぇ。正直です。娘さんを好きな俺としては、なーんかモヤモヤしたものを感じてしまったのですが。


 娘さんも誰かを好きになられるのだろうなぁって、その事実を突きつけられた感じでなんともこう。娘さんが男性にドキドキされていたということも、ちょっとこうねぇ?


 ただまぁ、アルベールさんや親父さんにとっては朗報以外の何物でも無く。しかし、うーむ? ただの朗報じゃないかな? どうしても、だったら? っていう疑念がおまけでついくるような。


「でも、サーリャさんにはどうにもその気は無いように思えますが」


 この辺りに娘さんの、この件に関する難しいところが眠っているのかしらん。


 娘さんは、悩ましげに眉根を寄せた表情で応じられました。


「まぁ……そうだよね。だったら、当主の意向を聞いてやれって思うよね」


「 正直申しまして、はい」


「 ……だよね。一応さ、私は真面目に考えてるんだよ?」


「当主殿の意向についてですか?」


「そう。皆期待してくれているのは分かるしさ。お父さんも、それに他の家中の人たちも。お家のため以上の感情で、優しく期待してくれていることは分かってるから。応えて上げたいってのは正直思ってて」


 これまた親父さんたちにとっては朗報な感じでした。やっぱり娘さんは娘さんでしたねぇ。大事な親父さんの思いを、やはり無下には出来ないようで。


 しかし、今回もです。でもって感じになってしまいますが。


「その気にはなれませんか?」


「……まぁね」


「理由はお尋ねしても?」


「いいけど、答えられることは無いよ。私も分からないから」


「 へ? 分からないですか?」


 俺の問いかけに、娘さんはため息つきで答えられました。


「まったくね。本当さっぱり」


「さっぱりですか。何かしらの手がかりなども?」


「そこも含めてさっぱり」


「なるほど。それはまた……サーリャさんもお辛いでしょうね」


 親父さんの期待に応える意思は大いにある。そんな娘さんらしいので。もともと責任感の強い人でもありますし、けっこうな心中にあるのではと勝手に推測したのですが。


「……正直、うん。分からないっていうのが、何とも情けなくてさ」


 心からという様子でした。


 娘さんは苦しげに再びため息をつかれていますが、本当に辛いのでしょうね。大事な親父さんの期待に応えられないことが。


 うーむ。出来ればです。俺に出来ることなら、なんとかして差し上げたいところですが。


 ただ、理由が分からないとなりますとねぇ? ただでさえ、他人の悩みなんて黙って頷き係になるぐらいがせいぜいですのに。年頃のお嬢さんの不明瞭な悩みなんて、手に余るどころの話では無く。


「何かしらの手助けが出来ればと思うのですが……」


「いいよ、そんな悩んでくれなくても。本当私の問題なんだし。でも……」


 でも? と、俺は首をかしげることになります。


「でもでしょうか?」


「……ノーラは本気でお父さんに協力しようとしてるんだね」


 俺はわずかに身を固めることになりました。


 お父さんを気遣ってくれてありがとうなんて。そんな雰囲気では欠片も無くて。


 先ほどと酷似していました。


 ノーラは何故当主に協力しているのかと、娘さんは詰問して来られましたが。その時のドロっとした空気が、今回も漂っているような気がしまして。


 この空気って、本当何?


 戸惑うしかありませんが、ともかくです。冷たい表情をされている娘さんに俺は応じます。


「え、えーと、はい。当主殿のお頼みであれば、もちろん本気で」


「……ノーラは優しいね。でも、私はそういうのは……なんか嫌だな」


 その発言が意味するものが何なのか。


 理解が及ぶ前にです。不機嫌そうな娘さんは「それじゃあ」ときびすを返されて、玄関に向かわれて。どうやら会場に戻って行かれたようでしたが……えーと、あー?


 娘さんを呆然と見送った俺ですが、えー、あのですね。


 怒らせてしまったと。


 そういう理解でいいのでしょうか。流れから察するに、俺が親父さんの企てに参加していることがお気に召さないご様子で。


 テメェなんかに、そんなお世話を焼かれたかねぇんだよってそんな感じでしょうか? ……うわぁ、なんかめちゃくちゃ手を引きたくなってきた。覚悟はしていたはずなんだけど、実際にこうなりますとねー。自分がグラスハートであることを再認識させられますね。やだ、めっちゃ辛い。


 どうしよっかなーなんて、とぐろを巻きながらウジウジと思ったりしますが。いや、そんなわけにはいかんよなー。


 親父さんに頼まれた上で、アレクシアさんとアルベールさんに協力頂いて、カミールさんとマルバスさんにも手を貸して頂いていて。


 これで、俺がイチ抜けしまーすだなんて、そんなの無しだよなぁ。


 覚悟を据え直した方が良いでしょうね。


 こんな大きなお世話を焼こうものならそりゃ嫌われもする。ましてや、それが俺みたいなのであれば。


 そう思って、大きなお世話を続行させて頂くとしましょう。その末に、娘さんとの関係どうなってしまうのかが気になるところでしたが……い、胃が痛いなぁ。しかし、うん。しゃーない。乗りかかった船だ。


 とにかくです。


 娘さんに企みがバレてしまったこと。俺が確証を与えてしまったこと。これはアレクシアさんとアルベールさんにお伝えしないとですね。今後の方針に影響を間違いなく与えるだろう事項ですし。しかしなぁ。またまた胃が痛いなぁ。バレたこと自体は俺ばかりの責任とは言えないでしょうが、白状してしまったのはですよねぇ。ちょっと場の雰囲気に流された感があり、拙速だった可能性もあり。


 失敗だったかもなぁ。あのお二人の期待を裏切ってしまったかもで。ぶっちゃけ、全てを胸の内にしまっておきたい衝動に駆られますが、仕方ない。一応首謀者の一人として、この件を秘密にしておくような無責任は許されないでしょう。


 何にせよ、バレた件を伝えさせてもらって。あとはですね、期せずして娘さんから有益な情報を得ることが出来ましたので。


 娘さんが男性に興味がおありだとか、結婚すること自体に拒否感は無いだとか。そのことも伝えさせて頂いてです。アレクシアさん、アルベールさんと再び話し合いをさせて頂きましょうか。

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