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第16話:俺と、娘さんの本音(1)

 もはや認める他なし。


 今日の騎手の集まりに親父さんの意図が絡んでいると、娘さんに看破されまして。


 そして俺は、これ以上誤魔化すのは無理と白旗を上げることになったのですが。


 もう俺は後悔していました。やっぱシラを通し切るべきだったかなぁ?


 娘さんは俺の頭を持ち上げつつ、俺と目を合わしておられるのですが。その目つきです。見る見る剣呑に鋭くなっていきまして。


「 ……あんの当主め。まさかノーラにアレクシアさんまで巻き込むとは」


 そしての剣呑な呟きでしたが、えーと、アレですね。やはりと言うべきか、親父さんにヘイトが集中しているみたいです。


 俺とアレクシアさんについては、言葉通り巻き込まれただけと思って下さっているっぽい? アルベールさんの名前が出ませんでしたがどうでしょう。少なくとも陰謀に加担しているとは思われていないのかな? 陰謀の一環として利用されている人ぐらいの認識かも? 


 ともあれ、いやぁ良かった。


 俺とアレクシアさんは被害者扱いで。娘さんに敵意を向けられることがなくて本当に……とは、さすがにいかんですよね。


 俺はそれなりに親父さんの意思に理解を示して、今回の陰謀に加担しているわけで。アレクシアさんにまで火の粉をふらせる必要はないでしょうが、俺は親父さんを一人悪者にするわけにはいきますまい。


「 ……えーと、私はですね。巻き込まれたわけでは無く。むしろ進んでと言いますか」


 娘さんから敵意を向けられるのは嫌だなぁ。そんなことを思いつつの発言でしたが、得られた反応は予想以上でした。


 ヒヤリと心臓が冷えたような感覚がありました。


 娘さんは俺のアゴをつかんでいるのですが、その手に露骨に力が加わって。


 何より目つきでした。


 娘さんの青い瞳に、冷たい苛立ちのようなものが見てとれます。


「 ……なんで?」


「 へ、へ?」


「 なんで? ノーラがなんでお父さんに協力しようなんて思うわけ?」


 俺は正直です。


 テメェ、敵にまわりやがったなこのヤロウって。


 そんなノリでジトリと非難される感じだと思っていたのですが。しかし、これは……え、えーと?


 もっとです。なんかこう、切実と言いますか、ドロっとした怒りが見て取れて。


 ドラゴン風情に、私の将来の心配なんかされたかねぇよって。そんな内心であってもおかしくは無い感じですが、娘さんがそんな思考をされるとは思えないような。


 一体娘さんの胸中はどうなっているのか? そこは気になるところでしたが、あ、あー、そうですね。とにかくです。疑問の方にちゃんと答えるとしましょうか。


「当主殿ですが、あの、悩まれておいででして」


「悩む?」


「出来るならば、サーリャさんには結婚して幸せになって欲しいし、跡を継がせるならばサーリャさんの子供が良いのだがと。しかし、それは実現するのだろうかと」


 これが俺が協力を決意した一番の理由ですが。


 この返答が娘さんにどう響いたのか? 娘さんはにわかに考え込むように目を細められて、ついで大きくため息をつかれて。


「……はぁ。まぁ、優しいノーラだもんね。お父さんに同情した感じかな?」


 納得したという感じもあり、不思議な安堵のようなものも見て取れるような。なんにせよ、冷たい雰囲気は遠ざかったかな?


 同情だなんてなんか偉そうですが、親父さんと思いを同じくしたことは確かなので。


 頭を掴まれていて動かしづらくはありますが、小さく頷きを作ってみせます。


「当主殿の思いはもっともなものかと思いまして」


「 ……まぁ、それは確かにかもだけど。それでアレクシアさんに協力してもらって騎手の集まりなんかを?」


「平たく申せば」


「 そう。それはなんかもう……参ったなぁ」


 端的に表現すれば迷惑そうでした。


 俺のアゴから手を離した娘さんはわずらわしそうに自身の頭をかいておられて。


 ふーむ。


 俺への妙な冷たい態度の理由はさっぱりですが、そこは置いておいてですね。どうでも親父さんの意図には沿えない、沿いたくないって感じじゃ無いような感じはしますね。


 迷惑そうにはされているのです。ただ、そこにあるのは困ったなぁ、どうしよなぁっていう胸中であるように思えまして。実際、娘さんは苛立たしげでありながらも、悩ましげな表情をされていて。


 まぁ、正直納得です。親父さんの意気を無視できる娘さんでは無いでしょうし。実際昔には、嫌な修行にも親父さんのために出向かれましたし。


 沿って上げたい気持ちはあるが、それでも……みたいな? そんな悩ましさを感じますが、うーむ。これはですねぇ、聞いてみましょうか。


 どうしても男性と一緒になりたくない理由でもあるのかどうか。例えば、男性が生理的に無理だとか。そんなことを一体で雨宿りする中で思ったものですが、ちょっと聞いちゃいましょうかね。


「男の人はお嫌いですか?」


 間違いなく唐突な問いかけになりました。娘さんは「へ?」と目を丸くされます。


「男の人がって、はい? ど、どったのノーラ? いきなりこう、妙なことを口にして」


「いえ、どうしても結婚したく無いような理由があるのかと思いまして。だったらその、私は無理に結婚される必要は無いかと思いますが」


 俺にとって、娘さんの幸せが何より一番ですので。


 親父さんを悲しませることにはなるのでしょうが。それでも、娘さんに何かしらの事情がある場合には、今度は娘さんのために力を尽くさせて頂く所存でありました。親父さんには本当に申し訳ないのですが、でもやはり俺の一番は娘さんでありますので。


 しかし、でした。


 娘さんは難しい顔をされたままでしたが、首を左右にされました。


「別にあー、ね? そういうわけじゃないよ、私は」


「 興味がおありで?」


「そりゃあまぁ……人並みにある方じゃないかな。今日だってその、色々とアレだったし」


 そう口にされた娘さんの表情は、えーと、確かにそうですね。


 わずかに頬を染められて、気恥ずかしげで。人並みにと言いますか、年頃のって感じの表情に俺には見えるのでした。



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