第8話:俺と、騎手の集い(1)
アルベールさんたちとの作戦会議から、早2日が経ちまして。
早速です。リャナス家の放牧地には、なかなかの壮観が広がっているのでした。
空はあいにくの曇天でしたが、その下はまったく華やかに勇壮であって。華麗な装具に身を包んだドラゴンたちが十数ばかり、その威容を露わにしており。その騎手たちも、凝った装飾の衣装に身を包み、従者らと共に並び立っていて。
少し離れた場所から、その華やかな光景を眺めつつです。
この光景が実現出来たことに俺はホッと一息でした。アレクシアさんの提案して下さった王都の騎手の集いですがね。無事にこうして実現させることが出来たのです。
まぁ、俺が苦労したかと言えば、それは疑問でしたが。
実際に動かれたのは、ほとんどカミールさんでしたからね。若手騎手の会合を開きたいと、ラウ家の事情を打ち明けた上で頼み込ませて頂いたら、カミールさんは快諾して下さいまして。
「サーリャのお見合い大会だな? そりゃあいい。実に面白い」
そんな感じなのでした。
式典を前にしてお忙しいはずなのですがね。見事に今回の手配を尽くして下さいまして。
発言通り、娘さんが困ることになるだろうことを予期して、それを楽しみに思われたのだと思うのですが。その趣味の素晴らしさはともかく、非常にありがたいことでして。
後で改めてお礼にうかがわないとですねぇ。まぁ、それは必ず実現させるとして、今は目の前ですが。
本日の本題です。
娘さんに同年代の男の人たちと親しんでもらって、なおかつアルベールさんの素晴らしさを再認識してもらう。それが目的なのですが、ふーむ。
「……まったく、さすがですね。前回の騒動の時も、同じことを思ったものですが」
感心の声はアレクシアさんのものでした。
俺の隣に立たれているアレクシアさんは、感嘆の視線を目の前の光景に向けられていまして。
「ですねー。本当に」
俺もまた同じ光景を眺めつつ同じ心地でした。騎手たちのほとんどは、輪を描くように一箇所に集まっていて。俺とアレクシアさんが注目しているのは、その中心です。中心におられる娘さん、そして、その隣で優美な笑みを浮かべられている我らが貴公子にして協力者、アルベール・ギュネイさんでした。
娘さんはおモテになっているらしく、そんな中で王都の騎手をお招きしたので。招待に預かってくれたのは、もちろんそんな方々で。娘さんは当然、多くの方々に囲まれて、対応にしどろもどろとされているのですがね。
その娘さんの応対をです。アルベールさんが献身的に助けられていて。
元より王都に騎手の知遇は多いとのことで。アルベールさんが娘さんと他の騎手たちとの間のワンクッションとなって、お互いの自己紹介を助けたり、会話を盛り上げたり。とにかく、娘さんの助けになられて、娘さんもアルベールさんの配慮に甘えられているようで。
フォローは入れさせて頂くと約束しましたし、アルベールさんも求められてはおられましたが。しかし、この状況はですね。
「助けなんてですねー」
「まったく必要はないご様子ですね」
そして「ふーむ」でした。俺とアレクシアさんは、1人と一体をして感心の声をもらすのでした。
現状はまったくもってそんな感じで。いえ、それは二人の顔合わせの時からでしたが。
告白した方と、断った方。アルベールさんと娘さんの間には、そんな気まずさがありまして。
今日の集まりが始まる前にです。娘さんとアルベールさんが顔を合わせる機会を設けさせて頂いたのでした。その場では、俺とアレクシアさんが最大限のフォローを入れさせて頂くことになっていたのです。しかし、まったくです。まったく俺やアレクシアさんの出る幕は無くて。
気まずさを表情にたたえる娘さんに対して、アルベールさんはすっきり爽やか笑顔で。前のことは忘れてくれと。今日はお互い一介の騎手としてこの場を楽しもう。そう口にして、その通りにふるまわれて。
娘さんは戸惑われながらも、アルベールさんが平気な顔をして以前通りにふるまわれますので。娘さんも、つられて以前のようにふるまわれるようになり。
で、今につながるのですがねぇ。
娘さんの隣で、アルベールさんは朗々とふるまわれていて。娘さんに、自身の素晴らしさを十二分にアピールされていて。
「本当、さすがですねぇ」
今日何度目か分からない感心の言葉をもらして。アレクシアさんも今日何度目か分からない同意の頷きを見せられて。
「そうですな。まさにそうです。ただ……問題は私たちですね」
「……そうですねぇ、はい」
1人と一体をして、今日何度目かはさっぱりの「うーむ」でした。
「やることがですよね?」
俺の問いかけに、アレクシアさんは「ふむ」と頷かれて。
「ありませんね、はい」
目的のことを考えたら、問題なんて無いのですけどね。予定通り、娘さんは男性諸君との付き合いを深めていて。その上で、アルベールさんは自身の魅力を存分にアピールされているようで。
ただです。
発起人であり、アルベールさんへの協力を約束した俺としてはですね。この状況に何ともこう、居心地の悪さを覚えていたりしまして。
「……アレクシアさん。俺に出来ることですが、何か無いでしょうか?」
「えー、アルベールさんが素晴らしい働きをされていますので。正直、特には。あの渦中に飛び込んで、私やノーラが何か益のある働きが出来るとは思えませんし」
「あー、はい。ですよね、そうですよね。邪魔ですよね、ぶっちゃけ」
「えぇ、ぶっちゃけ。まぁ、アルベールさんが今日の働きが出来ているのは、ノーラや私が先日応援させて頂いたから……そう思っておくと、精神衛生上は良いのかも知れません」
「なんか非常に自分本意な解釈の気はしますが、はい。そう思って、じっとしていることにします」
居心地は悪いですが、余計な動きをするのは止めておきましょうか。アルベールさんの活躍を、ドラゴンの置物となって応援させて頂くとしましょうか。
しかし……うーむ。
俺は置物になりきれず、わずかに首をかしげるのでした。
娘さんを中心にして人の輪が出来て。アルベールさんが抜群の活躍を見せられて。この光景については、まったく俺の求めた通りのものなのですが。
なんか違和感があるんだよなぁ。この会の始まりの時点から、俺は不思議な違和感を覚えていて。
アルベールさんの活躍のおかげで、俺は特に何もする必要は無さそうなので。ここはちょっと、その違和感について話題に上げさせてもらうとしましょうか。
「アレクシアさん。ちょっといいですか?」
「もちろん良いですが、何でしょうか?」
「ちょっと違和感がありまして。この会に集まっているのは、娘さんに恋い焦がれている人ばかりなんですよね? しかしですが、どうにもこう……私に妙に視線が集まっているような」
それが俺の違和感でした。
この場の中心は娘さんのはずで、実際表面上はそんな感じの光景が広がっているのですが。
その娘さんを囲む人たちなんですがね。その視線がどうにも、娘さんでは無く、俺に注がれているような気がしていまして。
「あぁ。それはそうでしょう」
はい? と俺はアレクシアさんの顔を見つめることになりました。澄ました表情で、さも当然といった感じで口にされましたが。
「え、えーと、なんでしょう? 俺に視線が集まるのは当然のことなので?」
「当然でしょう。この会の本当の主役はノーラなのですから」
「へ?」
アレクシアさんの端正な顔を見つめて、言外に説明を求めて。説明はこの方らしく淡々としてもたらされました。
「まずですが、始祖竜らしきふるまいをするドラゴン。その点において、ノーラには大きな価値があり、もちろん求められて。それはもう、貴方自身も味わっていることでは?」
「えーと、はい。それはまぁ」
実際、そんな感じであるようなのでした。カミールさんからうかがったことなのですがね。始祖竜もどきとしての俺を求められている方々はけっこういらっしゃるようで。けっこう、俺の元を訪れてこられた方々もいらっしゃって。
ただです。それが娘さんがおモテになられていることと何の関係が……って、えーと、まさか?