第7話:俺と、作戦会議(3)
「あー、アレクシア殿? それでは他の男共に機会が出来てしまうような気がするのですが? 狭量なようですが、応援してもらえると思ったからこそ俺はこの件について協力しておりまして」
ですよねー、でした。
ただただ納得しかありませんでした。それがアルベールさんの動機ですもんね。それに俺も、娘さんと一緒になって頂けるのならばアルベールさんを是非にと思っておりまして。アレクシアさんの提案は親父さんの意思には適うかもしれませんが、それはちょっとなぁ。
なんて思っているとです。
アレクシアさんは無表情に首を左右にされまして。
「ご心配無く。前述の通りですが、私もサーリャさんにはアルベール様と思っておりまして。アルベール様以外の方々はですが、申し訳ないのですがただの引き立て役です」
「引き立て役? 俺のためのですか?」
「はい。式典がすめば、サーリャさんはラウの領地に戻られてしまいます。猶予が少なければ、こういった小細工も必要かと。他の同世代の方々を目の当たりにして、その上でアルベール様に目を戻せばです。サーリャさんもアルベール様の素晴らしさには否が応にも気づかれるはずで」
これを聞いて、俺はひたすらに感心してしまいました。
「なるほど。それで引き立て役ですか」
「はい。それにです。そんなアルベール様が自分に思いを寄せてくれていると気づいて、そこに愛おしさを覚えて下さる可能性も無きにしもあらずで」
「過去の告白の価値も引き立てられるかもですねぇ。さすがはアレクシアさんで」
頭の回転の違いがこういうところで出るんでしょうね。俺の頭なんて毎秒粉挽きの石臼以下でしょうが、やはり浮かぶものが違うわけで。
こんな意図があればアルベールさんも賛同されることでしょう。そう俺は思ったのですが。
俺はアレ? っとなりました。
アルベールさんはいぜんとして難しい顔をされていて。
「あの……まだ何かしら異論の方が?」
あるのかしらんと尋ねかけるとです。「そりゃあ、うん」とアルベールさんは暗い声で応じられて。
「アレクシア殿が俺のことも考えてくれていたのは分かったけどさ。でも、他の騎手共が来るんだよな?」
「それはそうなりますが」
「……大丈夫か? 王都の騎手共だぞ? 家柄も良ければだ。性格も顔もなんてヤツらも大勢いて。本当に大丈夫か? 俺の方が引き立て役に成り下がるって、そんな可能性はないのか?」
多分、一度振られてしまった事実を引きずっておられるのだと思いますが。アルベールさんはなかなか弱気なことを申されまして。
ただ、俺からすればいやいやそんなでした。苦笑の思いで首を左右にします。
「そんなご心配は無用かと。そんなことまさかですよ」
アレクシアさんも俺の言葉に続いて下さいまして。
「あり得ないかと。アルベール様は自信満々でことに当たられればよろしいかと思われます」
「……そうでしょうか? 俺で大丈夫でしょうか?」
「間違いなく。アルベール様がこの王国随一であることは、先の騒動が証明するところでしょう。比肩する若者などは、この王国にはいません」
まったくその通りで。俺は賛同すべく、再び声を作ります。
「その通りです。気弱になられる必要なんて皆無ですとも」
アルベールさんはもとよりバイタリティに溢れた方ですので。気弱なふるまいは、すぐになりを潜めることになりました。アルベールさんは膝の上で拳を作られて、「よし」と力強く頷かれて。
「ノーラとアレクシア殿にそう言われちゃあな。自分が王国随一だって、信じていくしかないか」
さすがの意気込みを見せられるのでした。
そしてです。
「そうだ。俺からも1つ提案があるんだけど、いいかな?」
アルベールさんは笑顔でそんなことをおっしゃったのでしたが。えー、はてさて? 俺は首を大きくかしげて応じることになりました。
「提案でしょうか?」
「あぁ、提案だ。俺たちについてのだけどさ、もっとくだけた感じにならないか?」
「へ? くだけたですか?」
一連の流れとは関係があることなのかどうか。そう疑問に思っていますと、アレクシアさんも首をかしげながらに声を上げられて。
「くだけた? それはえー、態度や口調の話で?」
「そういうことです。俺の居心地が悪いっていうのが理由でして」
「何か私などが気に障るようなことを?」
「ははは、違います、違います。俺の意識ではですけどね。アレクシア殿とノーラにはサーリャ殿のため以上に俺のために動いてもらっているような感覚があって。俺のことを激賞なんかもして貰って。そんなアレクシア殿とノーラとは、もっとくだけた関係と言うか感じでいたいって俺は思っていまして」
「は、はぁ。そんなことを思って頂いたので」
「そうなのです。どうですかな、アレクシア殿? それにノーラ? もっと気安い感じでいられないかな、俺たち?」
アルベールさんのこの呼びかけに、俺は目を丸くして身を固くしてしまって。
こ、これは……アレですな? 漫画やアニメなんかじゃよくある、さん付けなんか良いよ、俺とお前の仲だろ? 的なアレで。
俺は不思議な感動を覚えているのでした。まさかです。まさか俺がこんな展開の当事者になる日が来るとは。気がつけば、アレクシアさんも目を丸くされていて。そんなアレクシアさんと俺は何ともなしに見つめ合うことになって。
「あ、アレクシアさん。これはあの、ですよね?」
「そ、そうですね。これはその、アレですね? 若いですよね?」
「若いです、これは若いです。友人って感じで。青春って感じで」
「分かります。まさにです。そして、まさかです。私がこんな会話の輪に入る日が来るとは……」
この方も、不思議な感動に打ち震えておられるようでした。まったく、本当にまったく。こんな日がやってくるとはねぇ、ふーむ。
「……君たちってさ、ちょっとなんか似たような雰囲気あるよな?」
アルベールさんが首をかしげながらにそうおっしゃいましたが、さもありなん。俺とアレクシアさんは、どちらかと言えばアルベールさんの対称にあるような人生遍歴ですし。青春のキラキラみたいなのとは程遠い感じですし。
とにかく、アルベールさんのキラキラした提案に応じなければなりませんが。俺とアレクシアさんは、変わらず目を合わせながらオドオドと口を開きます。まずはアレクシアさんが先鞭をつけて下さいまして。
「わ、分かりました。私はその、はい、大丈夫です」
「わ、私もです。えーと、そんな感じで」
俺たちの反応を受けてです。アルベールさんは明るい世界にいる人特有の明るい笑顔を見せられて。
「よし、じゃあそれでこれから頼むよ。ノーラはアルバやラナと接しているみたいな感じでよろしくな」
「は、はい。ではその、出来る限りでまぁ」
「おう。それでアレクシア殿は……」
「私はその、誰に対してもこのような感じですので。特別何かというのは難しいのですが」
「それじゃあ、様っていうのはナシで。さんぐらいでお願いするよ」
「分かりました。それではあの、アルベール……さんで、はい」
アレクシアさんが恐る恐る頷かれて、アルベールさんは笑顔で頷かれて。
う、うーむ。俺は二人の様子を眺めながらに、何とも言えない感慨を味わっておりました。まさかの展開でしたが、これは……良い。良かったなぁ。ドラゴンに生まれて、まかさこんな青春の片鱗を味わうことになるとは。
それに個人的な事情は別にしても、これは良かったような。何でしょうか。アルベールさんの提案をきっかけにして、この場の面々の距離感が一気に縮まったような感じがあり。
これからの目的に対してです。
一丸となって挑んでいける感じがあるような気がして。
「えー、では皆さん。とりあえずはアレクシアさんの提案に沿って動こうと思います。協力のほどよろしくお願いします」
ここは丁寧である必要があると思いまして、深々と頭を下げさせてもらいます。
お二方は、共に大きな頷きを見せて下さいました。
「俺は十割方自分のためだからな。当然、全力を尽くさせてもらうさ」
「私もです。出来る限りを尽くしましょう」
アルベールさんはある意味当然として、アレクシアさんもその目に力があって。多分、アルベールさんのもっとくだけようっていう呼び掛けが原因でしょうね。アルベールさんのためにもって、今まで以上に思っていらっしゃるのでしょう。
俺もまた当然やる気はあり。
まずはアレクシアさんの提案に則って、騎手の集まりでも催すとしましょうか。場所はやはり、このお屋敷の放牧地でしょうか? そうなるとカミールさんにご協力頂くのが一番であり。
早速です。
お会いさせて頂いて話を進めるとしましょうかね。