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俺と、ハルベイユ候の晩餐(1)

 王都の騒ぎも徐々に落ち着きを見せてきたのですが。


 王都の様子と比例しまして、俺も大分落ち着きを得られるようになってきたのでした。始祖竜もどきとして色々とハードワークを強いられてきたのですがね。その役割も段々と必要とされなくなってきたわけで。


 なので、今日の俺は放牧地でのんびりでした。


 今日も今日とて、王都は春の陽気に包まれていますが、薫風の下でのんべんだらりです。


 草原に丸くなって、軽く目をつむってうつらうつら。夢心地の一歩手前を陽光の気持ちよさと共に味わうのですが、うーん幸せ。ドラゴンの幸せはここに極まれりって感じですねぇ。


 まぁね。俺の幸せの原因は、決してそれだけでは無かったのですがね。


 うつらうつらとしているのは俺だけでは無いのでした。


 俺の体に背を預けて、頭をこくりこくりとさせている方が一人おられるのです。


 こんなことをされるのはお一方しかいないんですけどね。娘さんです。ひっさしぶりに一体と一人になる機会が得られまして。お互い、青空をボヘーと眺めている内にこんな感じになりました。


 幸せですねー。去年も良くこんなことをしていましたが。娘さんと変わらずの関係で居続けられたことは本当にけっこうなことで。まぁ、俺の娘さんへの思いはちょっとばっかし変化しましたが、別にそれが現実に影響を与えることは無いもんなぁ。これが俺の望む最良ということでしてね、はい。


 願わくばこんな時間が長く続くように。


 そんなことは思いつつ、夢うつつの一時を味わうのでした。ちゃんちゃん。



「間違いなく寝づらいと思うが……器用なものだな」



 一気に、夢心地から引き離されることになりました。


 ビクリとしかけて、娘さんがもたれかかっていることを思い出して何とか踏みとどまって。


 首だけを動かして何とか反応しますが、ど、どなた? そんな疑問を抱く俺の視界には、しかめ面で顔をしかめる不機嫌そうな壮年の姿が映りまして。


「……カミール閣下で?」


 モヤがかかったような頭でも、さすがに分かりました。俺の真横にはカミール閣下が立っておられるようで。一体何のご用でって思いつつも、俺は慌てて娘さんに呼びかけるのでした。


「む、娘さん! カミール閣下です!」


 お世話になっているお偉いさんでもあれば、娘さんが親しく接しておられる方でもありまして。ここは起こさせて頂かなければと私は思ったのですが、カミールさんはしかめ面のままで首を横に振られるのでした。


「いや、かまうな。今日はそいつに用は無いからな」


 とのことでしたが、んー、どうだ? そういうわけでいいものなの? カミールさんは良いらしいのですが、娘さんの心情としてですが。娘さんが礼儀深い人だということもあるのですが、そのですね。娘さんはもちろん女の方なのでありまして。寝顔をさらして平気でいられ方なのかどうか。


「あの……娘さん?」


 やはりここは起こさせて頂くことにするのでした。娘さんの体を揺らさせて頂きます。すると、娘さんはうっすらと目を開かれたのでした。


「……ノーラ? 一体どうしたの……って、ん?」


 そして、カミールさんに気づかれたようで。自身を見上げてくる娘さんに、カミールさんは皮肉な笑みを降り注がれます。


「おはようございますだな、サーリャ。どうだ? 寝起きに俺を間近にする気分は?」


「……それはあの、何とも……寝顔見ました?」


「そりゃあな」


「それは、えー……うわぁ、嫌だなぁ。あーあ」


 多分、半分以上寝ぼけておられるのだと思います。王都を代表すると言いますか、もはや王都筆頭の大貴族に対して率直な不快感の告白でした。


 ただ、カミールさんに不快感は無いようで。楽しげに娘さんを見下ろし続けられます。


「まったく、田舎娘が忌憚なくてけっこうなことだな。まぁ、お前も一応婦女子だからな。寝顔を覗き見することは俺の本意でも無かったが許せよ。ノーラに用があってな」


「はぁ。でしたら別に私は……って、わっ!? 閣下っ! カミール閣下じゃありませんかっ!?」


 ここで頭に理性が宿られたようで。


 娘さんは飛び起きて、カミールさんに頭を下げられました。


「か、閣下。何か少し失礼なことを申したような気がしますが、それはあの寝ぼけた頭のなしたことでありまして。平にご容赦を」


「だから気にするな。声もかけずに近寄った俺が悪いのだからな。とにかく、俺はノーラに用があるが良いな?」


「え、えぇ、もちろん。私は邪魔しませんので。あの離れた方がよろしいですか?」


「かまわん。聞かれて困る話では無いのでな」


 ということらしいのですが、俺もまた体を起こしてカミールさんに顔を向けます。俺への用事って言ったら始祖竜もどきとしてのふるまいですかねぇ。王都のいざこざは大概片付いたはずですが、再び何か起こってしまったのでしょうか。また忙しくなると思うとちょっと憂鬱になりますが、さて、はたして。


 カミールさんは俺の顔をじっと見つめつつ口を開かれます。


「一つ尋ねたいのだがな。お前にはまだ、隠された不思議な力などないか?」


 予想も何もしていない問いかけでした。俺は大きく首をかしげます。


「不思議な力でしょうか?」


「そうだ。具体的に言えばだな、人の傷を癒やしたり、はたまた人の病気を治すようなそんな力を持っていたりはせんか?」


 カミールさんは真面目な顔をして、そんなことを問いかけられたのでした。うーむ。もちろんのことです。そんな能力は、俺の管轄外も良いところですし、それにねぇ? 俺は娘さんを思わず見つめます。正確には、娘さんの負傷した片腕をですが。


「あのー、閣下? 私の腕は実際こんな感じなのですが」


 無いのは分かりますよね? って感じの、娘さんのお言葉でした。ですよねー。俺だって、そんな力があるのなら娘さんにバシバシ使ってますし。もちろんのこと、そんな能力は俺には無いというわけで。


 ただ、カミールさんはそんなことは分かって発言されているらしく。


「分かっている。お前の怪我は現に怪我のままだからな。だが、お前に使うのがもったいないような、なんかこう厳かで素晴らしい力があるかもしれないではないか?」


 カミールさんの発言を耳にしながら、俺は内心『いやいやいや』でした。


 んなことありえませんから。娘さんにはもったいないようなって何ですか。俺なんて、全てが娘さん優先ですからね。本当そんな能力があったら、寿命が対価ぐらいだったらもう平気で使ってますからね、いやマジで。


 しかし、娘さんでした。なんか納得されていました。「確かに……」などと口にされて、俺にさみしげな笑みを見せられて。


「えーと、ノーラ? どうなの? 実はさ、そんな力があったりするのかな?」


「は、はい? いやですから、ありませんってそんなの」


「別に私は大丈夫だからね? 私にはもったいないからって使わなかったとしても、それはその、そういうことだって受け入れるだけだから。ね?」


「い、いやあの、ね? ってなんですか! だからありませんって!」


 寝起きのテンションが影響しているのでしょうか。カミールさんの発言を受けて、娘さんはひっじょーにネガティブな気分になってしまっているみたいでして。


「ははは。すまん、変なことを言って悪かったな」


 元凶に対して助かったと言うのもアレですが、カミールさんがすかさずフォローを入れて下さるのでした。そして「やはりか」と呟かれながら、アゴを一つさすられます。


「まぁ、そうだな。そんな力があれば、サーリャに真っ先に使っているか。サーリャもな、ノーラを疑ってやるなよ。コイツほど誠実なヤツは人間でもいないだろうからな」


「わ、分かってます! 閣下に言われて、ちょっと不安になっただけです! 私ほどノーラのことを信じている人間は他にいませんから!」


 どうやら娘さんの疑念は解消されたようで良かったのですが、問題は本題ですよね。娘さんに信じてもらえている嬉しーとかで脳内は一杯ですが、そんなことよりも本題です本題。



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