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俺と、ステファニアさん(6)

 ラナは淡々とステファニアさんにその忠告について述べるのでした。


『ステファニアね、ちょっとなれなれしいかもよ?』


『なれなれしい?』


『そう、近づきすぎ。私たちの中にはさ、そういうの嫌いなヤツも多いから。気をつけた方が良いわよ』


 意外や意外でした。


 怒っているようにしか見えませんでしたが、思いの他まともなアドバイスであって。


『そうなの、ノーラ?』


 ステファニアさんの問いかけには、肯定の返事でした。


『そうだね。交流に慣れてないドラゴンの方が多いって言うか、そんな方ばっかりだから。あんまり近づくと、悪ければ怒られちゃうかもねぇ』


 なかなか親密なコミュニケーションに慣れているドラゴンはいないだろうしね。ラナの言うことには一理も二理もあるのでした。


『そっか、そうなんだ。ノーラもそうなの?』


 で、ステファニアさんは俺はどうなのかと尋ねてこられたのですが。そりゃあねぇ? 現状は、ステファニアさんとほとんどべったりな状況ですが。俺が何を思うかと言えば、そりゃあねぇ?


『いや、俺は全然気にしてないよ』


 むしろウェルカム以外の何物でも無くて。恥ずかしいから、そんなことは口にはしませんけどね。


 で、そんな俺の返答を、ステファニアさんは喜んでくれたみたいでした。


『だよね? ノーラはそうだよね?』


 嬉しそうに俺の首に頭を寄せられるのでした。い、癒やされるぅ。幸せ。本当に幸せ。


 で、一方で忠告を口にされたラナでしたが。


『……ノーラ』


『へ? は、はい』


『デレデレすんな。気持ち悪い』


 辛辣に俺の状況を批判してきたのでした。わ、分かってらぁんなことぐらい。でも、幸せだから仕方ないじゃん。いいから放っておいてくれないかなぁ……なんて口にする勇気は俺には無く。


『すいません。ですよね、そうですよね』


 俺はそそくさとステファニアさんから離れるのでした。名残惜しいものを感じますが仕方がない。気持ち悪いのは理解出来るし、ラナの恐ろしさは身を持って理解していますし。


 ただ、ラナとの付き合いの浅いステファニアさんにはそんな感覚は無いようで。


『だめ!』


 離れる俺にすかさず寄り添ってこられたのでした。嬉しい。が……ステファニアさんのためを考えてなのか、何なのか。とにかくこれがラナの逆鱗に触れることは明白でして。


『……ステファニア』


 ラナが低い声音で彼女の名前を呼びまして。俺だったら、この一言で平身低頭して許しを請おうものですが。ステファニアさんにはラナの威厳……まぁ、威厳でいっか。暴力に裏付けされた威厳に類するだろうものは通用しないようで。


『いや! 私はこれが良いの!』


 徹底抗戦の構えでした。俺に身を寄せて、半分以上もたれかかるようになっていて、体格差で俺が潰れかかっていたりするのですが、それはともかく。


 そろそろ幸せだとかは言っていられない感じ。


 俺と引っ付いていたいステファニアさんと、何らかの意図があってそれを阻止したラナ。


 明らかに火花が散っていて。ど、どうなる? まさかケンカとかそうはならないよね? 巨竜であるステファニアさん、俊敏で優秀なドラゴンであるラナ。この二体が争いを始めたら、俺になんて止めようが無いのですが……


 爆発直前の静けさのようなものが辺りを支配しまして。


 その中でポツリとラナが口を開きました。


『……そうか。アンタはそんなにノーラと引っ付いていたいか』


 今までは一応気を使っていたのでしょうが、呼び方がステファニアからアンタになってしまい。


 俺が嵐の予感を覚える中、ラナはくいっとおそらく空をアゴで示した。


『じゃあ、私が遊んでやるわよ。さっさと上に上がりな』


 遊んでやるとはおっしゃいましたが、俺には挑戦状を叩きつけたようにしか思えないのですが。


 そして、ステファニアさんはどう感じられたのか。険しい口調で答えられました。


『……私は負けないから』


 俺と同じく、それを挑戦状だと受け取った上で受けて立つっぽい? やだ、かっこいい。ですがうん、一体どうなるの?


 で、俺を置き去りにして状況は進みまして。


『おー、やってるやってる』


 俺は空を見上げます。


 そこでは花曇りの空を背景にして、鈍色の巨竜と赤色の邪竜……もとい賢竜の影が踊っていて。


 ラナとステファニアさんが遊んでいらっしゃるのでした。いやまぁ、遊んでいるとするにはちょっとすごいのですが。


 体躯相応の馬力を生かして、群を抜く速さを見せるステファニアさん。一方で、空戦の経験が豊富で、俊敏さではステファニアさんを上回るラナ。その両者が本気でお互いの首を狙っているのですからねぇ。


 なかなか恐ろしい光景です。鬼気迫る殺し合いって感じもしますが、心配はいらないでしょうね。ステファニアさんは気の使える優しいドラゴンさんですし、ラナも踏み越えてはいけない一線は重々承知しているこれまた優しいドラゴンですし。


 ただ、うーん。俺は彼女らの攻防を眺めつつ、首を傾げたりするのでした。


『なんでね? あんなにマジなのかねぇ?』


 最悪の事態の心配はしていませんが、お互い本気だよなぁ。敵意は間違いなくあるように思えて、その理由が俺にはさっぱりなのでしたが。


『まぁ、お前には分からんだろうな』


 コイツは分かっているとのことでした。アルバです。先ほどまではうつらうつらとしていたのですが、気が付けばこうして俺と一緒に空を眺めていて。


 コイツ、本当に賢いからなぁ。ドラゴンですが、知性という意味では間違いなく俺よりも優れていて。


『アルバ先生。良ければ、ご教授の方を』


 元人間としてのプライドなんて無ければ、素直に尋ねかけてしまいます。アルバは鷹揚にしてご教授下さいました。


『分かるのはラナの方だけだがな。アイツは羨ましいんだろうさ』


『羨ましい?』


『そうだな。ステファニアは色々と素直だからな。そこが羨ましいんだろう』


 ふーむ。確かに、ステファニアさんは素直な感じですよね。思ったことを、胸中でこねくり回すこと無く素直に口にされている感じはします。ただ、


『でもさ、それを何でラナが羨ましがらないといけないんだよ?』


 ラナも大概自分に素直ですし。ステファニアさんをあえて羨ましがらなければいけない理由が思いつかないのですが。


『それは言わん。バレたらラナに殺されかねん』


 で、アルバ先生の返答はこれでした。ふーむ? なんだろう、これはラナにとってなかなかにセンシティブな話題なのかな? 


 だったら、わざわざ追及なんてしない方が良いんだろうけど、でも気になるなぁ。


 この方は知っているのかと思わずサーバスさんを見つめてしまいましたが。返ってきたのは、アルバと同じような反応でした。


『私も言えない。言ったらラナに悪いから』


 とのことでして。あるいは人間以上にリテラシーの高いご返答でありました。


 人格者だなぁとサーバスさんに感心する一方で、自分のコミュケーション能力の低さにびっくりさせられますね。みんな知っているのですか。知らないの私だけですか。なんだろう。皆さまいつもほとんど一緒にいますし、ラナがこっそりこの二体にだけ打ち明けたってわけじゃ無いと思うのですが。やはり、俺だけが鈍感力を発揮してラナの心の動きに気づいていないのでしょうねぇ。


 まぁ、俺の不出来さはとにかくとしてです。


 上空の死闘も、さらにとにかくとしてです。どうしよっかなぁ。頭にあるのは、アルベールさんのことでした。ステファニアさん、どうにもアルベールさんへの興味が持てないようで。この分だと、俺はアルベールさんにやっぱりダメだと告げるしかないのですが。


『ノーラ、悩んでいる気配がぷんぷんするが?』


 そして、お察し下さったアルバ先生でした。俺が分かりやす過ぎるのか、アルバの洞察力が並外れているのか。ともあれ、これはアレでしょうか? お頼りしてもということで?


『申し訳ないのですが、あのアルバ先生? 良ければ聞いて下さいますか?』


『ふむ。いつもよりも深刻さは低そうだな。良いだろう、話してみろ』


 さすがのアルバ大先生でした。今回の問題はドラゴンの心情についてですし。是非にもお頼りさせて頂きましょう。



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