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俺と、ステファニアさん(2)

 ドラゴンは何故だが人間に従順ですので。そのせいで勘違いされているのでしょうがね。


 ドラゴンは基本的に人間に興味なんてありませんので。意思の疎通が出来るようになったところでね? アルバが良い例かな? きっと積極的に交流しようなんて思わないだろうし、非常に冷めた関係性になることが想像出来ます。


 しかも、悪ければなぁ。これはラナが好例でしょうが。うるさいとかウザいとか、先日はかみ殺してやりたいなんて口にしてたし。そんな言葉ばかりを人間は聞かされることになるわけで、ヌクモリティーとは縁もゆかりも無い殺伐とした関係性が構築されることでしょう。


 だからあの、正直俺はアルベールさんにはステファニアさんとの意思の疎通はおススメしないのです。ドラゴンの本音なんていうのは、極力フタをしておいた方が人間さんは幸せでしょうし。夢も希望もありゃしないし。


 ただ……どうだろう? 俺みたいな元人間はともかくとして、サーバスさんが希少な一例になるかな? 騎手に好意のようなものを抱いている場合であれば、アルベールさんの望みに近い結果になるでしょうが。


 まぁ、ともかくですね。


 俺はステファニアさんを見つめます。とにかく、一度話してみましょう。その上で、ウルトラレアケースとしてアルベールさんに好意を抱いておられればです。その時には、意思を疎通するための手助けをさせて頂けば良いですし。


 逆にウルトラ無関心ないし敵意があるようであれば、ちょっと協力は無理みたいですと断れば良いのです。何となく戦友のように勝手に思っているアルベールさんなので。この方が無駄に傷つくようなことは避けたいところですからね。


 でーは、さて。


 ドラゴンはたいがい無愛想で、ステファニアさんは威厳に満ちたドラゴンさんなので。話しかけるのは、正直気が引けるところはありますが……よ、よーし! やったるかんね! 


『お、お久しぶりでございます。お元気でしたか?』


 肝の小ささを発揮しながら声をかけます。大抵の場合、『何だ、お前は?』的な反応が得られてしまうのですが。ステファニアさんはどうでしょうね? ビクビク。


『……わぁ』


 そして、ステファニアさんはそう漏らされたのでしたが……んん?


 俺は首を傾げるのでした。なんかね? こうね? イメージとね? 


 ステファニアさんは威厳に満ちた巨躯のドラゴンさんなのですが。それが『わぁ』って。しかもですね、その声は俺の感覚では幼い女の子の声音的に聞こえて仕方がないのですが。


『声かけてくれたんだ。私に声かけてくれたんだよね?』


 ステファニアさんは懐っこい可愛らしい声で、そう俺に疑問をなげかけて来られていまして……うーむ?


 どうしよう。予想の外過ぎて反応が出来ない。でも、黙り込むのも失礼な気がするし。う、うむ。


『えぇと、うん。そうですね。声をかけさせて頂きましたが……』


『だよね! やった、嬉しい! 話しちゃダメかもって思ってたけど違ったんだ!』


 口調は弾んでいて、尻尾はゆらゆらしていて、ドラゴンながらに顔にはまるで笑みが浮かんでいるように見えて。


 天真爛漫なんて、そんな言葉が頭に浮かびますが……あ、あかん。動揺している。俺今めっちゃ動揺してるわ。


 鈍色をした威厳ある大竜なのですがね。め、めっちゃ可愛らしいのですが、あのこれ、どういう?


「ノーラ? ステファニアと何か話しているのか?」


 アルベールさんが興味深そうに問いかけてこられました。い、いやね、そうなのですがね? ね?


「あ、アルベールさん? ステファニアさんですが、あの、おいくつだったりで?」


「年か? あー、まだ一歳と少しだな。体格が良いから、もっと年を経てるって良く勘違いされるけど」


 ずばり俺がその事例の一つでしたが。い、一歳と少し? そんな時分だと、俺は本当ちょっと大きめな羽つきトカゲって感じでしたが……生まれってヤツかなぁ? ギュネイ家の自慢のドラゴンで、きっと高貴な血統をお持ちでしょうし。体格にも、相応に恵まれたってことなのかねぇ。


 あー、とにかくです。


 めちゃくちゃビックリしましたし、ステファニアさんの発言に気にかかる部分もありますが。それよりも本題について踏み込みましょうかね。


『あー、ステファニアさん? ちょっと聞きたいことがあるんですけど、良いですか?』


『うん! 良いよ。聞いて聞いて。一体何が聞きたいの?』


 ステファニアさんは楽しげに応えてくれましたが……い、違和感すごいなぁ。ともあれ、好意に甘えさせて頂きますが。


『隣の人だけど、名前とかはご存知で?』


 まず興味があるのかどうか尋ねさせて頂いて。ステファニアさんは不思議そうな間を置かれて答えられました。


『へー? そんなこと気になるの?』


『気になりましてですね、はい』


『アルベール』


『へ?』


『アルベール。よくそう呼ばれてるから、多分』


 お、おぉ? 俺は目を見張ることになりました。これはまさかで? サーバスさん並のレアケースとご対面みたいな感じで?


『じゃ、じゃあですけど、アルベールさんをどう思われてます?』


『ん? どうって?』


『えーとですね、あー、一緒に話してみたいなとか、そういう感じのことは?』


 これで色良い返事が得られれば、アルベールさんの心の安寧のためにはベストなのですが。ステファニアさんは淡々と答えられました。


『無いよ』

 

 あ、そうでしたか。なんて、それで終わらせるわけにもいかないので。


『な、無いと? 興味がありそうでしたけど……』


『んー、無いよ? 興味とかも。気にしたことなんて全然無いし』


 ふ、ふーん、そうでしたか。それはそれは。名前についてご存知だったのは、耳に入ってきていた名前を何となく覚えていただけなのかな? 


 興味は無いけど名前だけは知っているなんて言うのは、ドラゴンでは珍しいけど人間では珍しくないことですし。これは……うん。俺の取るべき道が決まったようですね。


「アルベールさん」


 名前を呼ばせてもらうと、アルベールさんは楽しげな笑みを浮かべられました。


「どうだ? 気の良いドラゴンだったろ? 言葉を理解するまでどれぐらいかかるかな? 話せるようになるまでは? いやー、楽しみだなー」


 人間の時であれば、俺は絶望の色を帯びた苦渋の表情を浮かべていたと思います。ど、どうすればいいんだ。ここまで楽しみにされていたとは。ここまで心の清涼剤を求めておられたとは。


 教えるのは任せて下さい、と。無責任にそう頷きたくなりましたが……だ、ダメだ、ダメ。そんなの、アルベールさんを余計にガッカリさせるだけですし。


 精神軟弱な俺としては、なかなか難しい局面ですが。言うべきことです。しっかり伝えさせて頂きましょう。


「申し訳ないですが……ちょっと無理そうです」


 アルベールさんは「へ?」と目を丸くされました。


「無理? それは、え? 何の話だ?」


「ステファニアさんに人間の言葉を教えることはです。私にはすみません、無理そうです」


「そ、そうなのか? それはまた何でなんだ?」


 アルベールさんは悲しげに問いかけられてこられたのですが。い、言えまい。ステファニアさんが全くアルベールさんに興味が無いからなんて。


 大好きなドラゴンにそう思われていると知ってしまえば、お疲れで傷心のアルベールさんが一体どうなってしまわれるのか。


「……え、えぇと。言葉を理解するのにも話せるようになるにも、その……才能? そう才能みたいなのが必要で。ステファニアさんには残念ながら……」


 ま、まぁね? ステファニアさんに意思を疎通する気が無ければ、俺が教えようとしたところでなかなか難しいことになるでしょうし? 才能が無いなんて表現しても、あながち間違いじゃないんじゃないかな? 努力出来るのも才能的なノリですよ、えぇ。


 とにかく俺の意思は伝えさせて頂きまして。これで諦めて頂ければ良かったのですが……えー、案の定でした。


 よほどのご所望ということらしく。アルベールさんは切実な表情をされて俺の顔を見つめられていて。


「そうなのか? ステファニアにはそういう才能はまったく無いのか?」


「え、えーと、はい。そんな感じでして……」


「それはもう、どうしようも無いのか? 何があっても、どうしようも無い状態なのか?」


「そ、それはまぁ、その……」


「絶対になのか? 絶対にその、無理なのか? だったら俺も諦めるが……ノーラ?」


「…………」


 逃げたい。


 でも、逃げられない。


 そうなんですって断言出来れば良いのですが、アルベールさんの目は本当にもう切実で訴えかけてくるものがあって。


 そして、俺は本領を発揮することになったのでした。



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