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俺と、親父さんの出世(2)

「で、どうだ? 考え直したか?」


 もちろん、親父さんの問いかけは、俺へのものではありません。気配で分かりました。娘さんはビクリと体を震わされたようで。


「……え、えーと。その話はちょっとしたくないなと私は思うのですが」


 止めてください、と娘さんでした。


 その話はノーです。応じたくないですって感じでしたが、親父さんにはそんなつもりは毛頭無いようで。


「ラウ家の田舎娘も、そろそろ自らの驕り高ぶりに思いが至ったところではないか? 当主の判断を待たなかったことも腹立たしいが、それ以前に何故断りおったのか。まったく理解出来ん」


 親父さんは、アルベールさんを高評価されているそうでして。まぁ、娘さんの救出にアレだけ貢献された方ですからねぇ。親父さんからしたら、素晴らしい若者以外の評価なんてつけようが無いはずで。実際、素晴らしい若者ですしね、彼。


 だからこその親父さんの怒気なのでありますが、娘さんねぇ。俺も正直呆れているのですが、このお方何となくでアルベールさんの告白を断られたらしく。


 だからこそ、親父さんに返す言葉が無いようで。俺の陰で小さくなって、小声で何とか言葉を返されます。


「そ、そういうの分かってるから……本当、ちょっとしつこいよなぁ」


 で、娘さんにしては珍しく悪態を吐かれて。こ、これは……アカン。親父さんの額に、目に見えて青筋がががが。


「か、カミール閣下をあまりお待たせするのはですねっ! 良くないんじゃないかって、私なんかは愚考する次第でありますがっ!!」


 言葉が話せるようになって本当に助かりました。


 悠長に文字を書いていたら手遅れになっていたのかもしれませんがね。こうして瞬発力を持って、二人のやりとりに割り込むことが出来るわけです。


 大噴火を後一歩のところで防ぎ得たのでした。親父さんは顔を真っ赤にされながらも、仕方なしといった感じでむっつりと小さく頷かれて。


「……そうだな。今はそれが第一だ」


 納得して頂けたようでした。俺の陰で、娘さんが大きく安堵の息を吐かれて、それが親父さんの(かん)に障りかけたこともありましたが、ひとまず場はこれで落ち着くことになったのです。


 と言うことで、ゴーゴーゴーでした。


 再燃しない内に、当初の用事に参るとしましょう。俺が先導する形で、早速カミールさんの陣幕を兵士の皆さんをかきわけながら目指すのでした。


「来たか。思いのほか待たされなかったな」


 で、たどり着きまして、カミールさんはいつもの調子で迎えてくれたのでした。


 ある種のプライベートゾーンと言いますか、陣幕で覆われて周囲から隔てられた一画です。その中で、カミールさんは仁王立ちで包囲戦の指示をされていたようですが……うーん?


 出迎えてくれたのはカミールさんだけではありませんでした。そこにはハイゼさんもおられたのです。


 はてさて?


 俺が聞いたのは、ラウ家父娘に話があるとだけでしたが、もうちょっと枠の広い話なんですかね? ハルベイユ候はいないみたいですけど、ハルベイユ候組全体に関わる話ってこと?


 まぁ、ともあれです。


 これで俺のお使いは完了となりまして。主賓である親父さんが、深々と頭を下げられました。


「ヒース・ラウに、サーリャ・ラウ。閣下の召還に応じ参上致しました」


 黒竜の件だったり、式典に招待してもらったり。親父さんは、恩もあれば武人としてカミールさんに敬意の念を抱いておられますので。先ほどまでの不機嫌な様子は今は欠片も無く、非常に真摯な挨拶でありました。


 俺も娘さんも、もちろん合わせて頭を下げまして。カミールさんはこの人にしては珍しく柔和な笑みを浮かべられました。


「うむ。よくぞいらしてくれた。こちらから出向くことも考えたのですがな。多忙につきこういう形になってしまい申し訳ない」


 カミールさんにとっても、親父さんは恩人の一人であり、また以前から親父さんの武勇には敬意を払われていたので。柔和な笑みはその表れだったのでしょう。そして、その一方ですが。


「で、お前だな、サーリャ。病人気どりの割には、お早いご到着だったな。一応、褒めはしておこうか」


 信頼されているはずだし、一応ハーゲンビルの恩もあるはずなのですが。まぁ、仲が良いということなのでしょう。カミールさんは娘さんには皮肉な笑みなのでした。


「いやあの、病人気どりって、一応本物の病人と言いますか傷病人なのですが……」


 娘さんもまた、敬意を表しつつも臆することなく言葉を返されまして。それが楽しいのでしょうねぇ。カミールさんは楽しそうに鼻を鳴らされたのでした。


「ふん。まぁ、そうだな。怪我人には悪いが、良く来てくれた。で、ご苦労だったな、ノーラ。その内まとめてお礼をしてやろう。期待していると良い」


 俺への心象はと言えば、親父さんと娘さんのちょうど間って感じですかね? そこそこくだけて、そこそこ敬意を向けてもらっているみたいな? 


 俺は再び頭を下げまして、カミールさんも頷かれまして。そして、本題ということらしく。


「では、早速です。今日来て頂いたのは、ヒース殿に一つ頼み事がありましてな」


 カミールさんがにこやかにそう告げられて、親父さんは軽く首を傾げられました。


「頼み事……でしょうか? カミール閣下が、田舎領主に過ぎない私などに?」


 俺もまたちょっと首を傾げていました。ただ、俺は親父さんのような疑問の巡らせ方ではありませんでしたが。


 親父さんが、田舎の小領主であることは間違いないのですが。しかし、親父さん自身は卓越した武人のようであり、その娘さんはこれまた卓越したと称される騎手で。


 で、一応俺とかいうヘンテコドラゴンを所有されているわけで。色々と頼めることはあるような気がするんですけどねー。


「……あのー、まさかノーラが欲しいという話なので?」


 娘さんは俺についてそう心配されたようですが、ありがたいことに違うらしく。


「違う。ノーラについては色々と話すべきことはあるがな。今日は違う。どちらかと言えば、奪うよりは与えたいという話だ」


 ふーむ? 与えたいですか? そんなことを言われてしまうと良い想像しか出来ませんが、でも頼み事って話だしなぁ。単純に良いモノ上げちゃうって、それだけの話では無いのでしょうね。


 ともあれ娘さんは安堵の笑みをうかべられました。その上で、始めから気にされていたのでしょう。ハイゼさんにも目を向けられまして。


「ハイゼ様も同席されていますが、私たちと同じ用件でということなのでしょうか?」


 これにはすぐさま肯定の答えが返ってきました。


「そうだ。まぁ、すでに話はすんでいるがな」


 と、いうことのようでした。ふーむ? やはりと言いますか、ハルベイユ候領組に関わる話のようですね。ハイゼさんはいつも通りの笑顔ですので、少なくとも悪い話じゃないんでしょうかね、多分。


 ともあれ本題ということらしく。


 カミールさんは穏やかな笑みで親父さんに語りかけられます。


「無理にという話ではないのですがな。領地の方を、いくらか受け取って頂きたいのですが」


 どうやらこれが本題らしいのですが……んー?






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