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第27話:【カミール視点】俺と、朝焼けに思うもの

 これで見納めになるのやらだが。


 王都が誇る華麗なりしソームベル広場。それを囲む白亜の建築物の上から、徐々に橙色の朝日が顔を覗かせてきた。


 これが俺が目の当たりにする最後の朝日になるのだろうが……やれやれだな。


 何も出来ずに今日という日を迎えてしまったか。俺は朝日を眺めつつ、うんざりとそんな感慨を覚えるのだった。


 結局のところ処刑だな、処刑。俺が目の当たりにしている現実がそれだ。まぁ、観客として目の当たりにしたことは何度かあったのだが、それを今日は体験出来てしまうわけだ。


 厳重に警備を布く兵たち。居並びざわめく観衆。そして、三基の磔台の前で、いざその時を待つ死刑囚たち。もちろんのこと、俺は死刑囚としての役割を演じるはめになるのだが。本当にまぁ、やれやれである。


 別に俺は良いのだ。大貴族として生まれたからには、こういう星の巡り合わせはあっても仕方ないと覚悟していた。俺の侍従共にしたところで、その俺の家臣であるのだ。それなりの覚悟はあったことだろう。


 だがなぁ……ふーむ。


 俺は観衆共から目を外し、すぐ側の一団に目を向けた。特別待遇で一人で三人の兵を独占している俺と違い、ひとまとめに監視を受けている連中だ。


 俺の侍従共が主体をなしているのだが、注目すべきはその中の二人だな。


 俺と同じように木の手枷をつけられている二人……クライゼとサーリャだ。こいつらはなぁ。俺の直属の家臣でもなければ、なんとか身の安全を図ってやりたかったのだが。


 結局、このザマだった。


 クライゼとサーリャがアルフォンソの誘いを断りやがってからだ。それから、アルフォンソが誘いに来ることは二度と無かった。


 そしての今日だ。まったく動きの早いことだが。もう処刑の日が来てしまったのだ。二人を逃せるようなスキをうかがう時間も無いほどに迅速な展開だった。


 まったく、と。思わずため息がもれてしまう。


 処刑が決まったということは陛下が頷かれたということだろうが。期待はしていなかったが、正直もう少し粘って欲しいところではあったな。そうすれば、まだスキを見つけ出し、この二人を逃がすことも出来たかもしれんが。


 まぁ、仕方がないか。あの方は、自分の代わりに批判を集めて苦労してくれる人物が欲しいだけだ。それが俺だろうがアルフォンソだろうが、さして違いはないということだろう。粘るなんて、期待するだけで無駄であるとそういうことだ。


 とにかく、これが現実だ。


 処刑の日を迎えて、その現場にまで足を運んでしまっている。二人を逃がそうと思えば、この状況におけるスキを見つけ出さなければならないが……なんとも、それがバカらしく思える状況だな。


 さすがはアルフォンソと言うべきか。水も漏らさぬ警備とはこのことだった。


 俺たちに厳重な警備がつけられているのは当然としてだ。空も地上も警備は万全。上空では十ばかりの騎竜がゆるやかに旋回して、広場の出入り口も周到に兵で固められている。


 集まったのやら集められたのやらの観衆にも十分な警戒が向けられていた。兵士たちが壁のようになって、俺と観衆の間を遮っているわけだ。

 

 ふーむ。観衆の中には、見知った顔がいくつもあるのだがな。鋭い目つきをして、スキあらばと周囲を見渡している見知った顔がな。だがこの分ならば、連中が動けるような余地はまったく無いだろうな。


 昨日は、憎たらしさよりも呆れの感情が先に来たものだったが。今は少しばかり憎たらしさが先行するようになって来たかもな。


 広場の一角には、急造で作られたと見えるおざなりな見張り台があるのだが。


 その上で、アルフォンソは何とも満足げだった。貴族の鑑と言われるそのスカした笑みで、俺のことを見下ろしてきていやがった。


 ……はぁ。まったく。とにかく、何ともどうしようもないな、これは。


 申し訳ないが、あの二人には俺に殉じてもらうしか無いかもしれんが……しかし、何なんだ、アイツは。俺は思わず首をひねって見つめることになる。


 クライゼは良いのだ。処刑を前にして、泰然とふるまっている。歴戦の勇士としては、それなりにあり得るふるまいだった。


 一方で、サーリャだ、サーリャ。アイツは一体何してるんだ?


 目前に迫っているものが何なのか。それすら理解していないように思えた。


 ただただ、澄んだ表情をして空を眺めていた。


 青い瞳に朝焼けの色を写しながら、ただただ空を仰いでいるが……ついに壊れたか? 昨日から少しおかしかったがな。アルフォンソが去った後から、急に怖いものでも無くなったかのように陽気にふるまい始めて。そのなれの果てが今ということになるのかもしれんが。


 しかしまぁ……悪くない表情をしているな。


 ハーゲンビルでの戦を思い出すな。あの時には、サーリャには無茶を言って伝令に飛んでもらったが。その時の表情に少しばかり似ているかもしれん。


 しかし、さてはてだ。


 釣られてだった。俺もまた、空を眺めてみるのだが。


 綺麗な空ではあった。朝焼けに焦がされ、たなびく雲雲が陰影を濃くして青い空によく映えている。

 

 サーリャはここに何を見ているのやらだな。


 この空から救いの手でも現れてくれるのだったら、俺もこのまま見つめ続けるのにやぶさかでは無いのだが。


 だが、現実は違う。


 俺は視界を地上に降ろす。厳重な警備の下、処刑が行われようとしている。それが現実だ。


 この状況で、俺たちを助けに来られるほどの勢力は王都にあるまい。処刑は粛々として実行される。それが来るべき現実だ。


 そう俺は思っていたのだが。


「ん?」


 何か聞こえたような気がしたのだ。観衆のざわめきをすり抜けるようにして……何だ? 魔術の爆発音か?


 それはおそらくその通りだろう。広場の空気がどことなく慌ただしくなってきてな。アルフォンソの元にも、伝令の者が血相を変えて飛び込んできていて。


 ……ふーむ。


 木の枷が無ければ、一度アゴをさすりたい心地だったが。どうやら、どこぞの勢力が動き出したようだな。無謀にも俺の救出に洒落込もうとしているのだろう。


 俺の家臣共も、その動きに気づいたらしい。光明が見えたとでも思っているのか、わずかに笑みを浮かべるのんきなヤツもいた。バカ抜かせだ。現状の王都に、アルフォンソを打ち破れる勢力などあるものか。大した騒ぎにもならない内に鎮圧されるのがオチだろう。


 だがまぁ、本当、コイツは何を考えてるいるのやら。

 

 サーリャのことだ。この救出の気配にも、コイツは何も思うところは無いのか。


 ひたすらにだった。


 サーリャは周囲の様子を気にすることなく、ひたすらに空へと視線を向けていた。



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